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原初の星  作者: 煌煌
第二十七話 隠れ鬼
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時間稼ぎ

 図らずも二人同時に捕まえた僕たち。あとはトリーさん一人。だが白い砂浜に彼女の姿はない。となれば、もう一方の道か。


「上はデコボコした起伏の激しい道がずっと続いていました。私は途中で引き返したので先のことは分かりませんけれど」


 アグルさんの証言からも、トリーさんが上の道の先にいるのは確定。残り二十分。すぐに見付けられたなら勝機はある。




 キハたちに制限時間まで戻らないと告げたからには、アグルさんたちを合流させるのも野暮というもの。僕とパールは彼女たち二人も連れてトリーさんの捜索に向かう。

 上の道はアグルさんの言葉通り。大小様々な岩が転がっていて、地面には土ではなく石が敷き詰められている。森の中とも海岸方面とも違う悪路。山道と少し似ているが、起伏の激しさは今から進む道の方が上。


「山道よりも険しそうだけれど、私はここで待っていたりしないぞ」


 パールは片眉を上げて得意気な表情。以前の僕の発言を覚えていてくれた模様。なら僕も、彼女に対する答えは決まっている。


「折角みんなで楽しい時間を過ごしてるのにデコボコ道程度に邪魔されたくはないよね」


 僕の返事が気に入ったらしく、彼女の表情は満足気。しかし二人にしか分からない会話に、後ろの女の子たちから咳払い。


「あと二十分もないのですから。そろそろ探しに向かわないと間に合わないのでは?」


 イオンさんの助言は尤も。では早速探索に向かうとしよう。




 今回は他の三人に合わせて速度を落とす。と同時に流れる景色も楽しむ。勾配の険しい道に茶色の岩が並ぶ。最初はまだ海の香りがしていたが、歩を進める度に遠退く。

 走り出して五分。結構な距離を進んだが、未だにトリーさんの姿は見えない。


「いくら私たちが長く話していたにしても、こんなに見付けられないのは変じゃないか」


 パールも僕と同じ疑問を感じている様子。トリーさんはゴランさんたちの訓練を受けていない。だから身体能力は未知数。トパーズの特別な能力も持っていると聞く。実は凄く強いとか、空を飛ぶことができるとか。

 色々と想像を巡らせていた時。前方の岩陰から飛び出す人影。トリーさんかと思ったのだが、明らかに違う。


「想像剣の修復ってすぐにできる?」


 横目でパールの返答を確認。すると彼女は難しい顔を僕に向ける。


「他の願い事とは訳が違うからな。下手して力を使うだけで失敗する訳にもいかないし。十分くらい時間を稼いでくれ」


 パールの回答が終わるより早く、僕の前にイオンさんが立つ。


「キハさんが勝てた相手なら、私たちも絶対に負ける訳にはいきませんわ」


 イオンさんの横に並ぶアグルさん。けれど二人の前方の人影は、次第に数を増す。


「今回はお姉様の直衛はお任せします。私とイオンさんで切り込むので、討ち漏らしだけ相手してください」


 僕はアグルさんの提案に頷くが、会話の間にも増え続ける敵影。およそ五十人。今回も彼らの顔に生気はない。




 パールが身体から光を放つ。同時にイオンさんが切り込み、アグルさんが彼女の背後で援護。次々と敵を倒すが、斬った瞬間相手は霧散。そして当然の如く遠方で再生。

 生気のない顔と、着ている鎧から警察署を襲撃した部隊と同じだと思う。しかし今回は奴らの手に武器はない。まるで先に通さないことだけが目的であるかのような。

 殆ど討ち漏らしもなく、危なげなく十分が経過。パールの身体から光は消え、力を使い果たした様子の彼女は後方に傾く。

 地面に衝突する寸前に彼女の下に体を滑り込ませる。石にぶつかった箇所は痛むけど、パールが怪我をするより何倍もマシ。


「見ての通り。私は暫くまともに動けそうにない。だが想像剣は恐らく、複雑なイメージでもレンの考えた通りに働く。だから、あとは任せるぞ」


 力なく突き出したパールの右手に握られた想像剣。銀色の剣の柄のような外見は以前と一緒。握っても重みを感じないのも。しかしスイッチが見当たらず、代わりに赤い線が鍔の部分から柄頭まで一本。

 パールの言っていた僕のイメージカラー。


「ありがとう。すぐに片付けて戻るから」


 難しいイメージでも、想いのまま。ならば僕の選択は。


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