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原初の星  作者: 煌煌
第二十七話 隠れ鬼
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二組の抱擁

 歩き始めてから十分。僕たちを海の香りが包む。すると遥か前方に二人の人影。月の光に照らされたのはアグルさんとイオンさん。

 二人の後方には二本の分かれ道。右側からは海の匂い。左側には岩が点在する登り道。

 僕とパールの接近には気付いている様子。さっきから突き刺すようなイオンさんの視線を感じる。だが敵意の類いではなく、何かを期待されているかのような感覚。


「二人別々の道に進んで、私たちを分断する作戦だろうか。ここでトリーのいない方向にレンが進むと間に合わないだろうな」


 制限時間まで残り三十分。パールの手を離して一人ずつ進めば、二人を捕まえても二十分は余裕で残るだろう。けれどトリーさんの居場所を教えられなければ、僕たちの敗色は濃厚。だとしたら久々の幸福感を自ら手放す必要はないんじゃないだろうか。

 案の定近付くと二人は別れて逃走。アグルさんは上へ、イオンさんは下へと消える。


「あの二人なら追わずに待っていたら戻って来る気がするけど。やっぱり手を放してそれぞれ行かないとダメだよね」


 何とも情けない台詞だけど、パール的には嫌ではなかったらしい。僕の言葉で彼女の顔に浮かぶのは、優しい微笑み。


「なら負けても良いから二人で追い掛けようか。けど走るなら、どちらにしても手は放さないと危ないな」


 彼女たちの作戦に乗ってあげられないのは少し心苦しいが、僕たちの大切な時間を尊重して海へと進む。




 砂利道が海岸まで続いている。左の道には見当たらなかったヤシの木や、鋭利な葉っぱを持つ植物が不規則に並ぶ。木の群れの中にいるのは同じだというのに、先ほどの森が春を思わせるのに対して、今の風景から感じ取れるのは夏。木の種類や並び方次第で印象が一変するのも自然の面白さだろう。

 イオンさんの姿は見当たらない。僕たちは木々の群れを眺めながら進む。開放的な空気が気分を爽やかにし、潮風が次に見る景色に対する期待を運ぶ。




 海岸に着くと波打ち際で待っていたイオンさん。僕の姿を確認すると、やたらゆっくりと走り出す。砂に足を取られているにしても何だか不自然なスピード。すぐさま手の届きそうな距離まで追い付いた。

 イオンさんが振り向く。今の遊びが訓練も含めているとは思えないような笑顔。しかし彼女の視線が一瞬僕の背後を捉える。すると不満そうな表情に早変わり。捕まえるために伸ばした手を信じられないような加速で振り切る。油断していたとはいえ、ほんの僅かの間だが消えたのかと思ったほど。

 だけど元々の身体能力の差は埋まらない。本気を出した僕とイオンさんの競争は、次第に終わりへと近付く。もう一度手の届く距離に到達。今度は外さないように素早く確保。


「普通二手に別れて追い掛けて来るモノではありませんの? 私たちだって命懸けで敵と戦ったのですから、少しくらいご褒美を頂いても良いじゃありませんか」


 イオンさんの不機嫌な表情は治まらない。すると背後からもパール以外の女の子の声。


「私だって岩陰に隠れてお姉様を待っていたのに! ズルいですよ!」


 振り向くとパールのすぐ後ろ。肩が触れるくらいの距離にアグルさん。全く抵抗せずにパールの手に収まる。


「思ってたのとは違いますけど! コレでも一応良しとしましょう」


 なんだかんだアグルさんは満足げな表情。パールを抱き寄せ目を閉じる彼女を眺める。すると耳元で囁く声。


「私も今回はコレで納得しておきます。けど次は負けませんから」


 僕とパールの終わりのない戦いは続く。


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