リベンジマッチ
僕が振り向くより早くパールが動いた。後ろで何かのぶつかる音がする。
「どうだ! ちゃんとバリアが働いたぞ」
振り向いた僕の目に映ったのは、両手を広げて僕を庇う彼女。そしてバリアの向こう側には役所を襲撃した敵。役所の中で気絶して拘束されているハズの男。
「一発防いでも二発三発と打ち込めば弾け飛ぶだろうが」
言葉通りに止まない攻撃。しかも一撃ごとに威力が増している気がする。
「パール下がって。僕がやるから」
新しく鉄の剣を出す。もう一度気絶させて捕らえてやるぞ。
「後は任せるぞ。レン」
バリアの中から飛び出して、敵を斬りつける。相手の剣での防御を切り崩して体にめり込むハズの一撃。しかし僕の予想とは裏腹に敵の武器を破壊できなかった。
むしろ弾かれた僕が体勢を崩す。仰け反る僕を斬り下ろした一撃が襲う。
「俺の勝ちだ!」
足に力を込めて後ろへ飛ぶ。剣を地面に突き刺して着地のバランスを取ると刃をパージさせた。
「さっきも避けるのだけは一人前だったな。でも避けてるだけじゃあ勝てねぇよな」
鉄剣同士では弾かれる。なら鉄よりも強い素材を。鉄剣と見た目も変わらなければ、もう一度ぶつかり合わせられるだろう。
「とっととくたばれ」
またしても斬り下ろし。相手の剣筋はしっかりと見えている。僕の新しい刃が通用するか勝負。
ぶつかり合い震える刀身。今回は僕の勝ちのようだ。鋼の刃先に仕込んでおいたダイヤモンド。見事に相手の剣を斬り裂いた。
「うぉう」
勢いを衰えさせずに相手を捉えた刃先。本来なら敵の体も切断されているだろう。しかし、僕にはまだ敵を殺すほどの理由なんてない。もちろん、彼らのしたことは許されることではないが。
「ぐぇ」
短い悲鳴の後に気絶した男。殺意がなければ相手を殺さずに済む。僕のイメージ通りの性能になる武器なのだから。
「今回はヒヤヒヤしたな」
やはり一番に来てくれるのはパール。肩で息をする僕の顔を覗き込む。心配そうな彼女の顔。本当はいつだって笑っていて欲しい。
「決め台詞思い付く暇もなかったしね」
吹き出した彼女。僕の想像通り。
「冗談言えるなら大丈夫だな。さて、引っ捕らえて」
パールと見つめ合って話していたのはせいぜい数十秒。ほんの僅かな間に、男は忽然と姿を消した。気付くと他に倒れているハズの敵たちもいない。夢だの幻だのというオチはあり得ないだろう。パールも見ているし、何より僕の手に、敵を薙ぎ倒した感触が残っているのだから。