レペティション
僕の胸の高鳴りを知らずに続く、パールの耳打ち。
「警察の既存の武器では太刀打ちできないのなら、レンが倒せる武器を考えたら良い」
なぜか一層目を輝かせて言うパール。彼女に期待されているのだ。状況的にも僕がやるしかない。なら格好を付けさせてもらおう。
「僕にやらせてください。役所では一度敵を倒していますから」
ゴランさんは僕を見つめて考える様子を見せた。しばらく悩んでいたが、他の策を思い付かなかったのだろう。渋い顔をして大きな口を開く。
「危なくなったら下がれ。そのときはワシがなんとしても食い止める」
英雄の息子ならやれると言う隊員や、ただの学生だろと言う隊員。様々な声に送り出されて、僕は前に出る。手に持つ武器は前回と同じ鉄の長剣。最初の敵に効いたのなら今回も効果があるハズ。
「僕の名はレン・ドレイグだ。そちらはどこの部隊だ。名乗りくらい上げたらどうか」
僅かな反応すらない。名乗らなくとも隊員同士で相談するくらいのリアクションはあると思っていたのだが。
相手の部隊は何故か近接武器だらけ。全員が重そうな鉄の塊を背負っている。しかし、強力な遠距離武器でも傷一つ付けられない相手。当然未知の技術を持っているのだろう。
僕の目に映るのは十人。包囲されたら一溜まりもない。ならば近寄らずに倒す。
前回効果を見せた刃の投擲。今回は連射をお見舞いしよう。横一列でにじり寄る敵群。ど真ん中を崩せば相手の戦略も崩れるだろうか。
「覚悟しろ」
剣を両手で持つと顔の横に持ってきた。今のまま踏み込んで行けば突きしか攻撃の選択肢はない。相手も突きだけを警戒するハズ。
中央の一人が一歩前に足を踏み出した。今がチャンス。相手までの距離は四メートルほど。防御されることを予想して武器を貫く想像を。
「やってやるさ」
勢い良く飛ばした鉄の塊。僕の想像通りに相手を吹き飛ばした。大の字で倒れる敵。周りの奴らが突き刺さる刃を見つめている。
間違いない。パールの武器ならば敵を倒せる。残りの奴らにも同じ戦法を取らせてもらおう。
一人一人狙いを定めて放つ。避けようとした者。目前で武器のサイズを大きくして倒した。防御を試みた者。一人目と同じように武器を貫いて倒した。弾いて逸らそうとした相手も同様。残るは一人だけ。なのに相手には動揺している様子はない。
「残るはお前一人だ。抵抗せずに武装を解除するんなら、痛い目に遭わなくて済むぞ」
僕の勧告にも無反応。意志がないのか、痛みを恐れないのか。
「なら。仕方ない」
思い切り勢いを付けて打ち出した。予想通りに吹き飛ぶ最後の敵。呆気ない幕切れ。苦戦を予想していた僕だが、楽に状況を好転させられたのだから文句はない。
何か気に掛かるモノはあるが。
「レン! 全然危なげない戦い方だった。本当に凄い奴だよレンは!」
後ろから走り寄る気配。僕が振り向くと、パールが勢い良く抱きついてきた。彼女の表情から読み取れるのは、心からの安堵。僕の心からも警戒という文字が消え去る。
「隙だらけなんだよレン・ドレイグゥ!」
背後から聞き覚えのある叫び声。