父よ
パールの国。つまり僕の住む国カラルの警察は軍隊のような役目も担う。貧富の差がない世界では、犯罪の発生率が低いからだ。機械から与えられる使命は一つ。国民の安全を守ることのみ。
僕とパールは警察隊の背後に出た。交戦中の彼らに不用意に近付けば、蜂の巣にされるかもしれない。万が一に備えなければ。
「まだ願い事は叶えられる?」
僕の問いに彼女は頷く。
「離してくれないと出せないけどな。気持ちは嬉しいが、集中しないとならないから」
パールに言われて慌てて離れる。俯いたままの彼女の表情は、両手で覆われていることもあり読み取れない。声のトーンからすれば機嫌は良さそうだが。
「馴れ馴れしかったかな。ごめんね。作って欲しいのはバリアなんだけど」
顔を上げた彼女の頬は少し膨れていた。
「集中さえ乱れなければバリア程度なら造作のないことだ。良ぉく見ていろよ」
右の手のひらから光が溢れ、僕とパールを包む。光の中から現れたのはペンダント。
「着けてる人を守ってくれるのかな」
パールの首に手を回して着ける。彼女の手から生み出された物だが、まるでプレゼントを渡したような気分。
「ん。悪くない。馴れ馴れしいとかを気にしたことはチャラにしよう」
今回のは武器ではないし、パールにも使えるだろうと考えた。彼女のリアクションからして、間違いはないらしい。
「総員、撃ち方止めぇい」
攻撃を中止した警察隊へと二人手を繋いで近付く。命令を下していた男性の鋭い眼光が僕たちを捉える。
「何者かね君達は」
歳の割に筋肉の付いた体。聞いていた通りの印象。
「僕の名前はレン・ドレイグ。父はグレン。グレン・ドレイグです」
静かに聞いていた隊員たちからどよめきの声が上がる。
「確かに署長にはレンという息子がいるが、君が本人だという保証はあるのか」
三十年前の戦争の英雄グレン・ドレイグ。父さんは機械の整備士である母さんとともに戦場を駆けたという。機械の真似をして作り出した、母さん特製の小型飛行装置。足から火を放ち空を舞い、高速の剣捌きで敵を蹴散らした父。アドレナリン云々よりも、さっき僕が助かったのは父の遺伝子のおかげかもしれない。
「火は出せませんが、学生証なら出せます」
パールと繋いでいる左手。反対の手には何も持っていない。ありますと言った瞬間に気付いていた。
「役所に忘れました」
怒鳴り付けられるのを覚悟した僕。いや、もしかしたら撃たれるかも。
「そう強張らなくて良い。答えに詰まらずにハッキリと言えたんだ。嘘じゃなかろう。それに、嘘を吐くならもっとマシな嘘にするだろうよ。ワシはウズミ・ゴランだ」
僕たちから視線を逸らしたゴランさん。次は敵の部隊を睨み付けている。
「ビームだのミサイルだの当たった筈なんだがな。頑丈とかいう問題じゃないぞ奴等」
身体ごとフラつくぐらい揺らされる左手。振り向くと鼻が触れるほどの距離に美少女。多少は慣れたつもりだが、気のせいだったらしい。硬直する僕の耳元で彼女は嬉しそうに囁く。
「やっとレンの出番が来たぞ」