気付く力
今日も父さんとの手合わせからという通常の流れ。お互い定位置に着き鉄剣を構える。
父さんが走り出すと目で追えなくなるまでをカウント。やはり見えるのは六歩目の着地まで。今までの成長率から考えると、今日は七歩目までハッキリと見えていてもおかしくないハズ。もしかすると意識的に七歩目から速度を上げているのだろうか。
次に父さんの姿が見えるのは攻撃の瞬間。僕は既に防御の準備は万端。右からの攻撃を受け止めると今回はタックルで反撃。容易く躱されたがタイミング自体は完璧。首元に剣さえ当てられていなければだけれども。
五回全て二の太刀を受けきれずに終わる。毎回首元へ優しく宛がわれる鉄剣。実戦で鎧を纏っていたとして、父さんほどの攻撃力を持つ相手から五回同じ箇所にダメージを受ければ無事では済まないだろう。昨日より初擊で揺れることは少なくなったが、二発目に対して何かしらの反応を示せねば意味はない。
「今日は安定して受け止められるようになれた。明日には二発目を躱し切れるだろうさ」
成長自体は感じていても、素直に喜ぶ訳にいかなかった僕。複雑な表情をしていたのであろう。パールと母さんには聞こえないように、父さんは耳元で囁いた。
「けど父さんの動きもまだ見切れないし、万が一敵に父さんに匹敵する奴がいれば、僕はパールを守り切れない」
口から出た焦り。伸び悩みを感じるが故に漏れた情けない声。
「なら今までの敵はレンより弱かった訳だ」
父さんのたった一言。落ち着いた声だったから得られた安心感。想像剣でなければ今頃は生きていないかもしれないし、想像剣でも負けた戦いもあった。だから今まで僕より、相手の方が弱かったということはないハズ。
「ううん。そんなことない。いつだって格上が相手で必死だったんだよね。だから。少しずつでも強くなるために修行しているんだ」
視界に映った父さんの顔には、優しい微笑みが浮かんでいた。
一時間半の素振り。昨日よりも四百回増えたことで、筋力が上がったことが分かる。
九十分で二二〇〇回ほど。二・五秒でワンセットをこなせるまでになった。当然手抜きで振る距離を狭めたりはしていない。確実に成長はしている。たださっきは焦りで見えていなかっただけ。
だけど想像剣の必殺技開発は相変わらず。目を開けて目標地点を捉えれば威力不足。目を瞑り威力を増そうとすれば狙いとズレが生じる。実戦投入にはまだ調整が必要な様子。
訓練を終えて汗を流すと自室の扉を開く。パールはいつものようにカーペットの上。
「さっきグレンと何を話していたんだ?」
彼女の顔つきは穏やかなまま。僕の焦りをうっすらと感じ取ったのだろうか。彼女には背を向けていたので、表情さえ見えなかったハズなのに。
「ほら。何でも協力すると言ったんだから。レンも悩みがあるなら話してくれ」
人一倍気持ちの変化に敏感な彼女。しかし既に父さんが解消してくれた焦り。もう一度話すのは少し気恥ずかしい。けれどパールの反応も気になるし、心配してくれているのに恥ずかしいからといって話さないのも如何なものか。などと考えている間に彼女の顔には不安な表情が浮かぶ。
「話し難いこともあるよな。今言ったことは気にしないでくれ」
遠慮がちな微笑み。寂しそうに思える彼女の表情は、僕が口を開く理由には充分。