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原初の星  作者: 煌煌
第二十一話 限界
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限界を超える方法

 模擬戦人形との訓練を繰り返すこと数回。相手は無尽蔵のスタミナを持つらしく、更に高地の影響も受けない。逆に僕とパールは回を増す毎に精彩を欠く。


「私はもう充分。最後に一対一で戦ってみると良い」


 パールの提案は尤も。彼女を守るためなら限界を超えて動けると証明できたが、僕一人でも勝てるかは自分でも気になるところ。


「じゃあ次で最後だ。パールのお弁当を美味しく食べるためにも、絶対に勝つぞ」


 気合いを入れ直し想像剣を正面に構える。人形も同じポーズ。一対一なら先手必勝。奴が動き出す前に距離を詰める。そして左下へ斬り下ろし。僕なら受け流せる速度。なので相手も同様。目の高さで受け止められ右へと軌道が逸れた。弾かれて迫り来る反撃。人形の出す攻撃も僕と同じ。だから対処も一緒。




 相手の動きを模倣。そして交互に自分の動きを付け足していく。何分繰り返しているか分からない。パールと二人であればとっくに勝ちが決まっている時間なのは確か。

 斬り結んで返す。全力で突きを放つ。人形は平然と受け止める。そもそも僕自身は反応速度に頼った戦い方。攻撃よりも見切りの方が得意なのだから、易々と勝敗は付かない。

 人形になくて僕にはあるモノ。意思の力。酸素が薄く気圧の高い山の上で戦えているのは、パールの前で自分自身に負ける訳にいかないという気持ちのおかげ。しかし無尽蔵のスタミナを誇る相手に徐々に押されていく。




 集中力が切れたのか。攻撃を弾かれ大きく隙を曝した僕。トドメと言わんばかりに剣を振り上げる人形。何度も僕とパールが勝ち、悔しかったりしたのかな。いや、意思はないのだから負けて悔しいとかはないか。などと関係のないことまで頭に浮かぶ。もう終わりにしてお弁当の時間にしよう。多少の痛みを覚悟した時。


「レーン。頑張れぇ」


 山頂に木霊するパールの声援。たった一言で僕の身体は息を吹き返す。すると目の前に映るのはトドメを確信し大振りを放つ木偶の坊。ガラ空きとなった胴体にタックル。

 そして、転んだ相手のこめかみに、鉄剣がキス。パールのおかげで勝てたことは嬉しいけど、詰めの甘さまで忠実に再現されていたのは、正直複雑な気分。




「レンが勝つために必要なことが分かった」


 パールは得意気な表情。きっと先ほどまで余裕で勝てていた理由も気付いたのだろう。単純明快な真相は、人の気持ちに敏感な彼女であればこその正解。

 人形を起こすと山小屋の中へ仕舞う。彼女とまた一つ親密さを増せたのは物言わぬ彼のおかげ。だから銀色の体に付いた汚れを払いながら呟く。


「ありがとうね」


 自己満足なのは分かりつつも、晴れやかな気持ちで外で待つパールの元へ向かう。




 昼食はコテージで頂く。疲れた身体に染み渡る幸せ。目の中に広がる自然。遠くに聳え立つ山。麓まで続く背の高い草の緑。そして隣で微笑む世界一の絶景。


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