パールの能力
パール・ヴェヴ。僕たちが機械と呼ぶ者の名前。見た目は人間と変わらないが、やはり人の願いを叶える力を持つ。本来禁止されている強力な武器を作る願い。しかしパールが許すのならば、好きな時に好きな物を作れるのだ。
僕が願おうとしている物も、使い方次第では強力な武器となるだろう。兵器転用なんて恐ろしいことを考えるつもりもないが。
「パール。あっ、パールって呼んで良い?」
今まで神様扱いをしていた彼女をいきなり呼び捨て。もちろん抵抗や、怒られるのではないかという恐怖心もある。しかし自分の彼女だと言う女の子。他の女の子とは違う呼び方をしたい。
「変なアダ名を付けられるより、呼び捨ての方がずっと良い」
ニックネームを付けようかとも考えていたけれど、選択肢を間違えずに済んだようだ。
「で? 聞きたいことが他にもあるんじゃないのかな?」
僕の思考が読めるのだろうか。いや。僕が分かりやすいだけかな。
「パールのことを聞く前に僕が言っていた、瞬間移動みたいなのができる物は作れる?」
僕の言葉に、またしても自慢気な表情を見せた彼女。人間以上に人間らしい表情の豊かさだ。
「人間以外なら何だって作れるぞ。ちょっと待ってろ」
手のひらを上に向けて右手を前に出す。前に出した右手を見つめ、集中するパール。手が光り出し、光の中から人が通れるほどに大きな輪っかが現れた。
「武器と同じシステムだ。行きたい所を思い浮かべて、ボタンを押すだけ」
今回は勝手にボタンを押して怒られるようなことはしない。成長真っ只中の男の子は、格好を付けることに余念がないのだ。
パールから冷ややかな視線を感じる。何かを見逃してもらったような気持ちのまま、僕はボタンを押す。
「警察署。警察署の前へ」
輪の中は真っ暗闇。気を抜けばあっと言う間に方向感覚は狂うだろう。
「ほら、こっちだ」
パールに手を繋がれた。柔らかな手に、僕の胸は暗闇に感じていたのとは反対の緊張を伝える。
「真っ直ぐ歩くんだぞ。別の方向に行けばどこに跳ばされるか分かったもんじゃない」
僕の手を取り先を歩く彼女。暖かい微笑みを湛えて僕を導く。凛々しく見えるが、彼女も動揺していると言っていた。今のパールは何を思っているのだろう。
「普通なら数十分。私の能力を使えば一分も掛からず到着だ。私たちならやれる」
出口に着いたのか、光に包まれる僕たち。何故だか分からないけれど、僕はパールを後ろから抱きしめた。
「なんとしても機械の御許に辿り着くのだ。総員、一斉射撃。撃てぇい」
警察の制服に身を包む初老の男性の怒声。嗄れた声の後に続く発砲音。安全な場所だと思っていた警察署は、戦場の最前線だったらしい。
「どうやらレンの出番のようだな」




