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第38章 優しい力

大きな黒い罪悪感の足元で、心琴と連覇は佇んでいた。

徐々に崩れていく罪悪感は人の大きさにまで崩れ落ちると、包まれるように気絶していた桃がみえ、心琴は慌てて抱きかかえた。桃はそのまま心琴の腕の中に崩れ落ちる。


「桃!! 桃!!」


心琴は桃抱きしめた。痛々しい姿に心琴は目を腫らす。


「んっ……!!」


すると桃はその声に反応してうっすらと目を開けた。


「こ……こことちゃん?」


弱弱しくもしっかりと意識があるようで、桃は心琴の名前を口にする。


「桃!! 良かった!! グスッ……もう、ダメかと……グスッ……思った!!!」


心琴は泣きながら桃を強く抱きしめる。


「怪我、怪我してない!?」


心琴は舐めるように桃を見たが、外傷はなさそうだった。


「なんかぁ、怪我とかはなさそう……かな? どこも痛いとかはないよ」

「本当!? 良かった……もう、心配したんだよ!! グスッ」


心琴が涙をぬぐって桃を離してあげる。


「朱夏ちゃんを助けてくれたんだぁ。良かったぁ!」


黒い塊が消えていくのを見ながら桃はそう言った。


「うん……私じゃなくて……海馬さんと……その、紗理奈とキングがね……」


心琴がそう言ってエアーベッドを見ると、桃は驚いた顔で心琴の視線を追う。

そこには抱きしめあって無事を喜ぶ紗理奈と海馬と朱夏が居た。キングもその様子を和やかに見守っている。


「……あれー……ねぇこれって、どういう事ぉー?」


桃はこの間まで敵だった2人と和やかに抱きしめ合う朱夏に若干の怒りを感じながらそう言った。


「あはは。納得できないよね。私もまだ何も聞いてないんだ。何かがあったんだと思うけど……あとでちゃんと話を聞こう?」


心琴にそう言われて桃はふうっとため息をついた。


「もう、心配して損したぁ。あの黒い壁に取り込まれてさぁ……。朱夏ちゃんの『自分なんていなければいい。死んだ方が良い。死にたい。辛い』って声があの黒い塊の中で渦巻いてて。普段の様子からじゃ想像もつかないくらい冷たくて悲しい感情がなだれ込んできたんだよぉ? もう。……全然大丈夫じゃん」


桃が珍しく笑わないでそう言うと、心琴はそっと桃に寄り添った。


「多分ね、その気持ちは本当だったんだと思うよ」

「……え?」


心琴がそういうと、桃はもう一回朱夏を見た。朱夏の笑顔がいつもよりも素直な感じがする。


「朱夏ちゃんはね、自分の気持ちを押し殺しちゃうんだ。周りには見せてないけど、内心すごく悩んでいたことがあったんじゃないかな?」

「……なんとなくだけどぉ。分かる気はするよね」


桃は心琴の言う事が納得できた。普段の朱夏は凛としていていつでも微笑んでいる。辛いとか、ヤダとかいう弱音やめんどくさいという類の言葉はめったに聞かなかった。


「でも……きっと私達の分からない所で何かがあって、きっとそれが、解決したんだ」

「そっか……。それってぇ、良かったって事だよね? キャハッ!」


心琴の言葉を聞いて、桃はようやくいつも通りに笑ってくれた。


「うん! きっと、良かったんだと思う!」


心琴の笑顔につられて桃も笑顔を取り戻す。

心琴も桃の笑顔に安堵した。

もう一度朱夏達を見ると、心底解き放たれたような飛び切りの笑顔で笑っている。


「それにしてもぉ、心琴ちゃんと話するとぉ、なんか元気がでるね!」


桃は心琴にそう言うと心琴は少しだけ意外そうな顔をした。


「え!? そ、そうかな?」

「うん! なんかぁ、何でも明るく返してくれるから、いっつも助けられてる! そういうの、向いてるんじゃない? キャハッ!!」


桃が明るく心琴に笑いかけると、心琴はその言葉にハッとした。


「ねぇ、桃今なんて言った?」

「え? えっとぉ、心琴ちゃんがぁ明るく話を聞いてくれるからぁ、助けられてるよって……」

「それだ!!!」


心琴は桃の言葉で閃いた。

他でもない、今日一日中悩んでいた将来の夢についてだった。

自分が好きな『笑顔』、三上を見て憧れた『人を守れる』という強さ。そして非力な自分でもできる……『力以外の方法』。

その3拍子が揃った職業だ。


「……。そっか。力以外でも、人を守って、笑顔にする方法……見つけたかも!!」

「うん? 何の事?」


心琴はずっと悩んでいた将来の夢に繋がる次の一歩をこの時踏み出していた。

桃はそんなすっきりとした顔の心琴を不思議そうに眺めた。


「ふふっ!! 何でもない! 桃、ありがとうね!」

「こんどぉ、桃の話きいてよぉ?今度こそ喫茶店いこうよぉ!」


桃はせっかくの遊ぶ約束が台無しになっていた事を思い出してそう言った。


「うん! もちろん! あはは! じゃぁ、今度の土曜日は?」

「いいね! じゃぁ、土曜日こそ一緒に遊ぼうね!! キャハッ!」


女の子二人は異常事態が解消してすぐに日常へと戻って行くのだった。

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