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第33章 夢の終わり

 一方その頃、暴れていた暗い夢の中。

 暴れていたキングの能力が徐々に解けていく。


「ぐああああ……あ……あ? ……あぁ。ようやく我らは解放されたのだな……」


 海馬と紗理奈に馬乗りに押さえつけられたままキングは大きくため息をついた。


「あ! キングが元に戻ったっしょ!!」

「ふいー……人間の姿でも馬鹿力なんだな……」


 海馬と紗理奈はゆっくりとキングから降りた。


「さて……お二人さん。まずはキングを元に戻して?」

「あ……ああ。……人形化解除……」


 マリオネットの一言で、キングはようやく陶器の人形姿から解放された。

 しばらく手をグーパーしながら体を確認してから、キングはマリオネットを睨みつける。


「……話を聞かせてもらおうか」


 キングに睨みつけられて、マリオネットは委縮している。

 二人共表情は硬く。キングの低い声に肩を震わせた。


「3人……いえ、ここに居る朱夏さんを合わせて4人ですね。ウチのマリオネットが大変なご無礼をしてしまい、申し訳ございませんでした」


 委縮してしまっているマリオネットの代わりに、デジャヴが頭を下げた。

 見た目年齢は20代後半のデジャヴは気品あふれる中世の女性のようだった。


「話によっては食い殺す」

「本当! 最悪だったっしょ!! 何時間人を宙吊りにしたっしょ!」


 キングと紗理奈は今にも飛び掛かりそうな勢いで憤怒している。

 海馬はキングと紗理奈を制止するように手を伸ばす。

 不満そうな二人を差し置いて、海馬は落ち着いた様子でマリオネットの方を見た。


「あの、事情を説明してくれないかい? どうして、こんな事を?」


 デジャヴの後ろに隠れるように立っているマリオネットに優しく諭すような声をかける。


「……。僕ら。人の記憶が見れるんだ。魂の記憶さ」


 マリオネットは海馬の落ち着いた雰囲気にようやく口を開き、ゆっくりと話を始めた。


「それと今回の件がどう関係あるんだ」


 キングが腕を組んで呆れた顔をしながら尋ねるとマリオネットは唇を尖らせた。


「エリが……珍しく僕にエネルギーをたくさんくれたんだ。どっちかと言うと、振り絞ってくれたって言うか。そしたら、エリの【助けて】って声と共に君達4人の記憶が一瞬で流れ込んできた」


 マリオネットはしょんぼりと話を続ける。


「流れ込んできた記憶は悲しいものだった。4人共それぞれを想っているのに……殺し合おうとしている。さらに言うと、僕は記憶を繋げれば事実が見えた。」

「事実……あの日、偽物が現れた事だね?」


 海馬が聞き返すとマリオネットは首を縦に振った。


「君たちを【助ける】には……この誤解を解かなきゃいけないって思ったんだ!! それに劇を見せたらデジャヴ喜ぶかなって。一石二鳥だと思ったのに……辛かったんだよね。ごめんなさい」


 マリオネットは深々と頭を下げてきた。

 キングは面食らった表情をしている。

 素直に謝られるとは思っていなかったのだろう。


「マリオネット……あなたそんな事を思ってこの劇を始めたのね?」


 デジャヴはマリオネットの頭を撫でた。マリオネットの言葉に紗理奈はあんぐりとしている。


「……それってつまり……あの劇は私達を仲直りさせるために……?」


その言葉を聞いて、マリオネットは少しだけ笑って見せた。


「どうだった? 劇を通して、少しはわだかまりを解消できそう?」


 マリオネットはおずおずと紗理奈にそう聞いた。

 聞かれた紗理奈は戸惑って自分の顔をポリポリと掻いた。


「……え……? ……。まぁ、勘違いしてたのは解ったっしょ。私を殺そうとした朱夏は偽物だった。海馬ちゃんは私を見捨てたんじゃなくて、私を助けるために朱夏を先に助けたんだって。本物の二人は私を殺そうとなんかしてなかったっしょ」


 しんみりとした表情の紗理奈を海馬はいたたまれない目で見ていた。


「紗理奈……」


 なんて声をかけようか迷っている海馬を見て、紗理奈はキングに抱き着いた。


「あははっ! それにキングが私を助けるために組織に入ってくれたことも初めて知ったっしょ。やっぱりキング大好きっしょ!!」


 急にいつもの調子に戻る紗理奈の肩にキングは手を回して鼻を鳴らす。


「……ふっ。残念だったな」


 キングは誇らしげに海馬を見る。

 なんだか釈然としない気持ちがわいてくる。


「なんだろう……なんでか腹立たしいなぁ……」


 目の前で振られたような気分になり海馬は口角を下げた。


「でも、まさか。こっちのお姉ちゃんが倒れちゃうとは思ってなかったし……。紐、切れちゃうし。思ったようにはいかなくって」


 マリオネットは申し訳なさそうに朱夏を見た。そこには倒れたままの朱夏が居る。


「どうして、朱夏は倒れたんだい? やっぱり、心が持たなかったの?」


 心配そうに海馬は朱夏に近づいた。朱夏は眉をしかめたまま辛そうな表情で意識を失っている。


「いえ……そう言う事では紐は切れることはありません」


 デジャヴも海馬の横にしゃがみ込む。


「じゃぁどうして?」

「マリオネットの能力は魂の力をあの木で結ぶことによって、肉体との交信を遮断するんです。遮断された体は人形と化し、自分の意志では動けなくなります」


 デジャヴはゆっくりと朱夏の頭を撫でた。


「この子の心がどういう状況かは紐に影響はありません。ですので、問題は「魂の力」の方です」

「魂の力?」


 その言葉に海馬は怪訝な顔をした。


「そうです。この子の魂から根こそぎ力が外へ流れ出ているのを感じます」

「どういう事っしょ?」


 紗理奈も意味が解らず聞き返すが、聞かれたデジャヴは俯いた。


「解りません。私もこんな状況は初めてなんです」


 海馬はデジャヴの言葉に嫌な予感がした。パラサイトでも分からない魂の異常。それは、朱夏に危機が迫っている可能性を感じたからだ。


「外の世界で……何かが起こっているかもしれない! って事は……朱夏が……朱夏が危ない!?」


 顔面を蒼白にして急に慌て始める海馬は、朱夏の周りを右往左往し始めた。

 ぐるぐると朱夏の周りを周るように歩き出して、ああでもないこうでもないと、ブツブツと独り言を喋り始めた。

 その様子をマリオネットが噴き出しそうになりながら見ている。


「ぷぷっ……あの海馬って人突然、どうしちゃったの?」

「あぁ、ほおっておいてやってくれ。時々、ああやって頭のねじが外れるんだ。」


 キングが慌てふためいている海馬を鼻で笑うと海馬は怒って振り向いた。


「なっ! 僕はいたって真面目だ!! 朱夏に、朱夏にもしもの事があったらどうするんだ!」


 泣き出しそうな顔にマリオネットは遂に噴き出した。


「ぶはっ!! あははっ!! お兄ちゃんの慌てっぷり面白すぎるよ! よっぽど朱夏って人が好きなんだね!」

 

 マリオネットが噴き出すと、紗理奈とキングも釣られて笑う。

 

「ククッ……一瞬で子供にもわかるのにな」

「あははっ! 本当、海馬ちゃんってダメダメだよねぇ。いつ告白すんのかな?」

「一生しないのではないか?」

「かもねぇ! あはは」


 キングと紗理奈は後ろから海馬を指差して笑っている。


「二人共!! 人を馬鹿にして遊んでないで、夢から出る方法を考えてよ!!」


 その一言にマリオネットがキョトンとした。


「夢? いつだって覚ませるけど? これ、僕の能力だし」


 その言葉に海馬は右往左往するのを止めてマリオネットに迫っていきの手をガシっとにぎる。


「まじで!? すぐに覚ましてくれ!! お願いだ!!」


 海馬の勢いに圧倒されながらマリオネットは苦い顔で頷いた。

 海馬の鼻息が聞こえてきそうな近さでマリオネットは後ろに引こうとしたが、手が強く握られたままだ。


「わ、わかったわかった! すぐに覚ます!!だから手を離せよ!」

「ありがとう!!!」


 海馬はその言葉を聞くと輝くような笑顔で握った手を上下に振った。


「わわっ!! もう!! 手を離して!!」

「あ、ごめん」


 海馬が慌てて手を離すとマリオネットはデジャヴの横に立つ。

 すると突然畏まった顔で背筋を正す。


「今日は、長い劇にお付き合いくださりありがとうございました。それでは、またお会いする日まで!!」


 ナレーションのような口調でそう言うと、マリオネットとデジャヴは深々とお辞儀をした。


「皆様、付き合わせて申し訳ありませんでしたが、おかげ様で楽しかったです。お元気で!」

「お前ら! もう、エリを泣かせるなよ! んで……仲良くなれよ!?」


 デジャヴとマリオネットは肩を寄せ合って手を振ってくれる。


「なんていうか……まぁ、誤解を解いてくれてありがとうっしょ!!」

「もう、劇はこりごりだけどな……」


 紗理奈とキングも最後は少しだけ二人に微笑みかけていた。


「2人共、お元気で!!」


 海馬は朱夏を抱きかかえて大きな声であいさつした。

 すると4人の体の周りが徐々に明るくなっていく。

 夢が覚めるんだと海馬は実感した。

 けれども、それを食い止めるようにマリオネットの声が聞こえる。


「あ、そうだ!! おい!! 一つエリに伝えてくれ!!」

「なんだ? どうした?」

 明るい光が海馬を包み込んでマリオネットの姿はもう見えなくなっている中、海馬は聞き返した。



「これ以上、無理に能力を使うな!! これ以上使うと……【後退】が始まるぞ!!! って」



「え……?それってどういぅ……」


 聞き返す間もなく、4人の長い長い夢は覚めていく。

 まばゆい光の中、海馬は現実に戻っていくのを実感する。

 こうして、長い長い人形劇は閉幕したのだった。

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