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第27章 描かれた笑顔

 駅の近くにある高層マンション。

 連覇の家では、カタカタというミシンの音が響いていた。

 連覇とカッチはその音を邪魔することなくいい子に座っている。


「ねぇねぇ、カッチ! 今のうちにお顔を書いてあげるよ!」


 連覇は嬉しそうに提案するとカッチもそれを喜んだ。


「ええ! 是非お願いします! もう、のっぺらぼうは嫌ですからね」


 連覇は自分の部屋に行くと筆と絵の具を持ってくる。


「うわぁ! 上手く書けるかな!?」


 連覇はドキドキしながらそう言った。


「ふふっ。連覇君が書いてくれるならどんなお顔でもいいですよ。ほかの人に会う事はきっと二度とありませんし……」


 そんな寂しい言葉がついつい口から洩れる。


「大丈夫! 僕がまた、山に遊びに行くよ!! それに、友達を連れて行ってあげる」

「本当ですか!? わぁ! 楽しみです!」


 連覇は明るくカッチにそう言うとカッチもとても嬉しそうにそう言った。


「さ、描くよ!」

「お願いします!」


 連覇は少しプルプルとした手でカッチの目に黒い〇を二つ書いた。


 そして、赤い絵の具を取り出すと今度は下にカーブした半円を口の所に描いた。


「よし! できた!!」

「ど、どうなりましたか!?」


 連覇は自分の新しい顔を見たがっているカッチに手鏡を持ってきて、その手に握らせる。

 カッチは早速、手鏡をのぞいてみた。

 すると、そこには少し歪んだ丸い目と半円の赤い口で笑った顔のお人形が居る。


「あ……私……笑ってる……!」


 カッチからは嬉しそうな声が響いた。


「いいでしょ!! 可愛いよ、カッチ!!」

「ええ! ありがとうございます!!」


 カッチは深々と連覇に頭を下げた。


「乾くまで触っちゃダメだよ?」

「ふふっ! そうですね。気を付けます」


 連覇が真剣にそう言うと、カッチは「笑顔で」そう答える。

 そうこうしている内に奥の部屋でカタカタと音を立てていたミシンの音が止んだ。


「お待たせ。カッチちゃんでしたか? こちらへ」

「あ! はい!!」


 カッチはお風呂からずっと体位に巻いているタオルをずるずると引きずりながら奥の部屋に入っていった。カッチが中へ入ると連覇ママが扉を閉める。


「こ……これ!?!?」

「いいから、着なさい」

「あ、あ、ありがとうございます!!」


 奥の部屋からとても嬉しそうな声が聞こえて連覇はじッと扉を見つめた。

 そして、ジッパーがじーっと上がる音が聞こえるとゆっくりと扉が開いた。


「うわぁぁぁぁ!!」


 出てきた人形を見て、連覇は感嘆の声を上げる。

 そこにいたのは、まるでお姫様のようなフリフリのドレスに身を包んだカッチの姿だった。

 所々フリルがあしらわれていて、背中には大きなリボンが付いている。


「どう……ですか?」


 照れた様子でもじもじとしながらカッチは連覇をちらりと見た。


「すっごい似合ってる!! とってもかわいいよ!!」


 連覇は本心からそうカッチの事を褒めた。その曇りない言葉にカッチも嬉しそうに飛び跳ねた。


「本当ですか!? 嬉しい!!」

「……良かったわね。満足できた?」


 連覇のママが片づけを終えて奥の部屋から出てくると、カッチは深々と頭を下げた。


「はい! 連覇君のお母様、どうもありがとうございました!! これ、一生の宝ものにします!! 私、絶対に人形たちの中で一番幸せです!」


 その様子に、連覇のママは首を傾げている。


「どうしたの、ママ?」

「本人が満足したら、成仏するかなぁって思ったんだけど……」

「成仏ですか?」

「やっぱり心霊現象じゃないのかしら?」


 連覇のママは未だにカッチを心霊現象で動く呪いの人形だと思っているようだ。


「私、心霊現象ではないですよ?」

「そうなの!? ううぅーん。じゃぁやっぱり最新式のロボット……?」

「それも……違うんですけど……まぁいいです。連覇君のママさん。今日はどうもありがとうございました」


 カッチはそういうと、もう一度だけ頭を下げてさっさと玄関へ向かって歩き出す。


「え……カッチ?」

「私、そろそろ帰りますね? お洋服を頂いたら帰る約束ですから」


 カッチは少しだけ寂しそうな声でそう言った。そんなカッチをみれ連覇はママの服を少し引っ張る。


「ね……ねえ、ママ……カッチと一緒に住みたいよ……」

「それは、ごめんなさい。ママは嫌よ。動く人形なんて怖くて夜も眠れなくなっちゃう」


 ママはあっさりとその提案を却下した。

 連覇は口を一文字にして下を向く。


「そうですよ、連覇君。こんなに良くしていただいて、私はとっても嬉しかったです」


 カッチの明るい声に何とか自分を納得させようと、連覇はもう一度ママの服を引っ張った。


「……。じゃ、じゃぁさ! せめて送っていくよ!! ママ、ちょっとだけ外に行って良いかな?」


 連覇の顔を困った顔でママは見る。外はもう夕暮れだ。

 そして、少しだけため息をついてから連覇の手を服から外すと、ジャンバーを持ってきた。


「もうじき暗くなるわ。最近寒いし、早めに帰ってきてね?」

「うん! 大丈夫!」


 連覇はそのジャンバーをママから受け取った。

 それを羽織っていたその時、連覇ママのスマホにに着信音が響く。

 連覇のママは着信通知の内容を確認するとスマホを連覇に渡した。


「?」

「なんだか、昨日の心琴さんからメッセージが届いたみたいだわ」


 渡されたスマホの画面を操作して、連覇はLIVEの画面を見る。連覇宛てにメッセージが届いている。心琴は連覇でも読めるように、メッセージは全てひらがなで書いてくれていた。


 そこには、『きのう の こと を もっと くわしく おしえて ほしいな 』と書かれている。


 連覇はそれを読むと、返事を打つ『いいよ こうえん で まってて』と返事を返した。

 それだけ返事を打つと、アプリを消して連覇はママにスマホを返した。


「心琴さんなんだって?」

「昨日の事詳しく教えて、だって! じゃ、カッチを送ってくるね!」


 連覇はカッチの手を引いて玄関まで行き、靴を履いた。


「え、ええ。気を付けてね!」


 連覇のママは二人を見送るために後ろからついてくる。


「行ってきます!」

「お邪魔いたしました! そして、ありがとうございました!」


 カッチは最後の最後にもう一度深々とお礼をする。玄関のドアを開けて外へ出ようとしているカッチを連覇のママは不意に引き留めた。


「カッチさん」

「え?」


 声をかけられたカッチは振り向いて連覇のママを見ると、その表情は最初の頃とは違った穏やかな顔だった。


「また、()()()()来ていいわよ」


 優しく連覇のママはカッチに微笑んだ。


「……はい!! ありがとうございます!!」


 飛び切りの笑顔でそう言ってから裸足で駆けていくカッチの背中を見て、連覇のママはふぅっと息をつく。


「今度は、靴も用意してあげなきゃいけないかしら?」


 玄関のドアはそっと閉まっていき、最後にはぱたんと音を立てるのだった。


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