第20章 【演目:山の秘密基地】
『それから、3人は毎日欠かさずに山を登るようになりました。毎日毎日みんなでためたお小遣いを少しずつ出して太郎丸にご飯を運んだのです。太郎丸は必ずそこで待っていてくれていました。徐々に夏が近づいてきます。そんな中、海馬はある提案を持ち掛けるのでした。』
(今回の演目は長いですね……)
朱夏は疲れ果ててボーっとしている頭でそんな事を考え始める。
背景は山のままと言う事は、きっとあの話になるだろうと心のどこかでストーリーが読めてしまう。
先が分かっている話ほどつまらないものは無い。
「なぁ……。ここって不便じゃないか?」
地べたに座りながら本に読みふけっていた海馬は顔を上げてそう言い出した。
お尻は毎日泥だらけ。おまけも連日なのでお尻もいたい。
「そう……ですね。夏も近づいて……日差しが強いのもしんどいです」
朱夏も自然の猛威にへとへとだった。元から体力がないお嬢様には山登りだってきついのに、休憩さえままならない。
「確かに……ちょっと……きついよね。はい、どうぞ!」
「ワン!」
紗理奈はドッグフードをキングの皿に盛りつけながらも同意した。
二人からの同意を得られて海馬は満足そうに笑みを浮かべる。
「……って事で、こんなの作ってみないか!?」
海馬は呼んでいた本の挿絵をひっくり返して2人に見せた。
「何々っ? ……これ!」
「わぁ! 秘密基地ですか!! すごいです!」
挿絵には自分たちで作った秘密基地で遊ぶ子供たちの姿があった。
「いいですね!!」
「でも、どうやって……?」
「……木を切る……とか?」
「じゃぁのこぎりが必要ですね?」
「あと釘とハンマー……?」
「クゥン?」
3人は雁首揃えて秘密基地に必要なものを考えた。3人の楽しそうな様子をキングは首を傾げながら見ていた。
「僕はのこぎりを持ってくる。刃物だし、二人に持たせるのは危ないしね」
「釘ならもってこれそうっしょ!」
「じゃぁ、私は……ハンマーかしら?」
その日は計画だけ練って、それぞれが決められた道具を持って集合することを決めて解散した。
次の日、いつも通りに紗理奈が山に登ってくると、そこにはキングが待っていてくれる。
けれどもいつもと違った事が一つ。
キングの口には既に『ごはん』が咥えられていた事だ。
「太郎丸……! すごい、すごいっしょ! 自分でそれを狩ったの!? やるじゃん!」
「ワン!!」
キングの口には野ウサギが咥えられていたのだ。それを食べずに紗理奈が来るまでじっと待っていたようだった。紗理奈がキングの頭を撫でるとキングは嬉しそうにしっぽを振る。
「流石は森の王! これで、ご飯が運べない日があったとしても大丈夫だね!」
「ワン!!」
紗理奈は誇らしげにするキングを思いっきり撫でまわす。
けれども、後ろから何やら騒がしい声がしてハッとした。
「太郎丸……隠れて。ここから離れて」
紗理奈が静かにそう言いながらキングを森の中へと押し返した。
キングも言われてすぐに森の中に飛び込んでいった。
「ここですか……?」
「は……はい……」
紗理奈はやってきた人々を見て驚いた。
そこには朱夏と朱夏の父親。さらにはボディーガードが2名。メイド。総勢10名が朱夏を筆頭に山を登ってきている。
「紗理奈……ごめんなさい。ハンマーの場所が解らず……メイドに聞いたら……大ごとになってしまいました……」
朱夏は困った顔で紗理奈に笑った。メイドたちはテキパキと作業に取り掛かっている。
「え……ええええ?! どういう……事?」
紗理奈は驚きを隠せない。
「その……作ってくださるみたいです。秘密基地」
「……す……すごいね!! すごいけど……えええ?!」
するとさらに後ろの方から声がした。
「おーい。朱夏ちゃん、紗理奈ー……」
「あ、海馬ちゃん……ってあれ!?」
海馬の後ろにも大人の影があった。海馬の両親も普段とは違うラフな格好で海馬について来ている。
「早乙女さんのお父さんじゃありませんか!」
「おや。こんなところで鉢合わせるなんて奇遇ですね」
「いや。倅がいつもご迷惑ばかり」
「いえいえ。こちらこそ、娘が世話をして頂いているようでいつもお世話になっています」
大人同士のあいさつが交わされる。
「これって……もしかして……」
「ごめん。のこぎり勝手に持ち出しているのがバレた」
「やっぱり!!」
開けた場所といえども、大人12名、子供3人が作業をするのに手狭だった。
そして更にもう一人、山の下から駆けあがってくる大人の影があった。
「おーい! さりなー!?」
「ええ!? なんで、父さんがここに居るの!?」
更に後ろからは紗理奈の父親がチェーンソー片手に山を登ってくる。
「さっき、山を登ろうとしてる射手矢さんに出くわしてな! 話は聞いたぜ? 俺の出番だろ!」
「うわぁ……来なくていいっしょ……」
やる気満々の父親に紗理奈は明らかに嫌そうな顔をする。
「なんだと!?」
「い、い、いや!! 何でもないよ!」
紗理奈は嫌がったが、実際、紗理奈の父さんが来て、邪魔な木を切り倒してくれたおかげで作業スペースは格段に増えた。
「ここ、崖になっている」
「あぶないですね。柵を設けましょう?」
大人たちは崖を見るなり柵も立ててくれた。
エキストラの人形がどんどんと小屋を建ててくれるのを紗理奈と海馬と朱夏は手伝いながらも楽しく見守った。
『こうして、たくさんの大人の支えと共にあの立派な山小屋が建てられたのだった。』
そんなナレーションが入ると、最後は窓までもが搬入されて、立派な山小屋は完成した。
その完成を皆が満足そうに眺めるのだった。
「すっげぇな!」
「うん! すごいっしょ!」
紗理奈の父親が紗理奈の頭をくしゃくしゃ撫でながら誇らしそうに笑う。
「こんな素敵な秘密基地を持っている人なんてそう居ないわよ?」
「ああ。僕も子供の頃に欲しかったよ」
海馬夫妻も海馬を囲んで微笑んだ。
「朱夏、大事にするんだよ?秘密基地も、ここに居る友達も手伝ってくれた皆さまもね」
朱夏の父親は朱夏の肩を抱えながら優しく微笑んだ。
「ええ。お父様。最高のプレゼントです。感謝いたします」
朱夏も朱夏の父親にそっと寄り添うのだった。
ここまで演じ切って、ようやく幕は下りようとしていた。
しかし、幕が下りる直前に不穏な音楽が流れてくる。
『数年後、ここで悲劇が起こることをまだ、誰も知らない。』
ナレーションもどことなくおどろおどろしい。
朱夏はその一言にこの後何が起こるか察知した。
(ま、まさか……あの日の事も……劇でやるのでしょうか?)
朱夏はステージ上に再び吊り上げられながら嫌な予感が的中しない事だけを祈るのだった。




