第1章 焼き肉パーティー
【人類犬化事件】が終わってから3日が経過した。
ここは朱夏の住む豪邸の庭。
広々とした空間は普段はバラの庭園となっているのだが、今日ばかりは様子が違った。辺りは香ばしいにおいが充満して、煙が黙々と上がっている。庭園の真ん中にはバーベキューセットが置かれ、沢山の肉や野菜が並べられていた。
【人類犬化事件】の作戦で使った肉を皆で食べれるようにと、朱夏のボディーガードの三上が取っておいてくれたのだ。山のように用意された肉はクーラーボックスに入れられて所狭しと置かれている。
「うわぁ! 美味しそう!」
お団子頭がトレードマークの松木心琴はよだれを垂らしそうな勢いで目を輝かせていた。目の前のお肉はジュージューと言う音を立てながら徐々にこんがりと焼けていく。
「おいおい、昼にあれだけ食ったばかりだろ? まだ食い足りねぇのか?」
その様子に呆れているのは心琴の彼氏である向井鷲一だ。トングを片手に肉を焼きつつも心琴にとり皿を差し出している。心琴はそれを笑顔で受け取った。
「ありがとう、鷲一!」
「秋だからってあんまり食べ過ぎるなよ?」
鷲一はトングで肉をひっくり返しながら肩をすくめる。けれども、そんな鷲一の心配はどこ吹く風と言わんばかりに心琴の目は肉に釘付けだった。
「大丈夫、ほらよく言うじゃん? お肉は別腹って!」
「言わねぇよ。ってか、肉を食後のデザートみたく言うなよ」
「あはははは!」
「ったく。ほら、焼けてきたぞ!」
鷲一は心琴の皿に肉を置いてあげると心琴は早速それに食いついた。
「おいしぃぃ! ねぇねぇ、鷲一! このお肉すっごく美味しい」
「そうか、良かったな?」
幸せそうにお肉を頬張る彼女を見て思わず鷲一も笑顔になった。
「おーい! 俺様にも肉をくれよ!」
「あー! ウチも欲しいよぉ! お腹ペコペコ!」
後ろから声がかかり鷲一が振り向くと、そこには髪の毛が白と黒に真ん中で半分に別れていて目が赤い特殊な見た目の兄妹が駆け寄ってきた。中学2年のお兄ちゃんが哲也。あだ名は死神。そして小学4年の妹の杏だ。
「私にも頂戴。キャハッ!」
二人とは違いゆっくりと歩いてきた少女は桃。この子は髪も目も桃色をしている。この3人は【幽体離脱事件】で保護された異能力者である。死神は魂を切れる赤い鎌を出す【ソウル・リッパー】、桃は静電気を操る【イジェクト・ソウル】の使い手だ。杏はしっかりとした能力がない無能力パラサイトだが、最近は手が赤くぼんやりと光るようになった。【人類犬化事件】では3人の協力のおかげもあり、何とか生き延びることが出来たのだ。
「さぁ、3人共。こちらのお肉も焼けてきましたよ」
そう言って反対側で肉を焼いている三上は死神の皿に肉を盛りつけた。食べ盛りの死神は早速口いっぱいに肉を頬張る。
「肉! 超うめえええ!」
死神は事件の帰りの車で既に食べたがっていたお肉にようやくありつけて幸せそうだ。更なる幸せを求めて死神は目の前のお肉を片っ端から取っていった。それに憤慨したのは杏と桃だ。
「死神ぃ? 私達の分も考えてよぉ!」
「お兄ちゃん! ちょっとは野菜も食べなさい!」
桃と杏は肉を独り占めする死神にぷんすかと怒った。そんな子供達に三上は困った顔で笑う。
「あはは。皆さん、落ち着いて食べてください? お肉ならまだまだありますから!」
三上がクーラーボックスからのふたを開けると肉がまだまだたくさん出てきた。見る限りこのいっぱい肉が詰まったボックスは10箱ほどある。それを聞いて杏も桃も胸をなで下ろした。
「良かった! これなら私達も安心して食べれるね!」
「ええ。ほら、こちらは焼けてきましたよ。どうぞ。」
三上からお肉を沢山盛りつけてもらった杏はそれを待ってましたと言わんばかりに食いついた。
「美味しい! ほら、桃も食べよう!」
「ありがとう、杏ちゃん!」
杏と桃は仲良くお肉を食べ始めると自然と笑顔がこぼれる。そんな杏と桃の横では心琴が張り切って立ち上がった。
「鷲一、今度は私が焼いてあげる! 鷲一は食べて食べて!」
「おっ、心琴サンキュー!」
心琴はクーラーボックスの蓋を開けると鷲一からトングを受け取ってお肉を広げる。ジュージューと言う音と共に肉が茶色くなってくると香ばしいにおいが漂った。
心琴のが鷲一にお肉を焼いてあげようとたくさん広げていた肉に向かって横から急に箸が伸びてきたと思うと死神が焼けた肉を根こそぎ取って行ってしまった。それには心琴もびっくりした。
「ちょ、ちょっと!それ鷲一に焼いてたのに!」
「いいじゃねぇかよ!腹減ってんだ!」
心琴が憤慨して怒ると死神は悪びれもせずにそう言って来た。
鷲一はその様子を見ながら苦笑いをしながら見守っている。
「それにしても、本当、死神君はよく食べるね! 成長期だからかな?」
「おぅ! 食わねぇと怪我治らねぇしよぉ!」
死神はギザギザの歯をみせてニヤッと笑う。死神は【人類犬化事件】ではS-04こと、狼人間であるキングと何度も戦いを挑み、体中が怪我だらけだった。しかし、驚異的な肉体の持ち主の死神は誰よりも回復が早く翌日には病院を退院したのだ。
「いいなぁ、お肉」
杏は兄ばかりが取っていくお肉を羨ましそうに見つめている。
「え?じゃぁ次は杏ちゃんと桃に焼いてあげるよ!」
心琴は今度は杏や桃にも肉を焼いて取ってあげると二人は喜んでそれを食べた。
「ありがとう心琴ちゃん! キャハッ!」
「うーん! おいしいね!」
女の子二人の笑顔を見て心琴もにっこりとする。
「なぁ、心琴、俺のはまだか?」
焼いてくれると言ってた割になかなか来ないお肉を鷲一はひょっこりと皿を出して催促した。
「あ、ごめんごめん! 鷲一には……一番大きいの!」
そういって心琴がおおきいお肉を皿に盛ろうとすると死神の箸が再びさっと横切った。
「あ……」
身体能力の高さではこの中でずば抜けて一番の死神の箸は心琴には見る事さえ出来なかった。
「いただき!」
「ちょっと! 死神君!? それ、鷲一の!」
「良いだろ別にぃ?」
心琴は怒るが死神はお構いなしだ。
「はぁ……大きいのじゃなくて良いから、その辺の肉をとってもいいか?」
その様子に見かねた鷲一は心琴のトングをさっと取って自分で自分の皿に肉を盛り付けた。
「あー! 私が鷲一に取ってあげたかったのにぃ!」
そんな鷲一に心琴はトングを取られて不満を漏らす。
「え!? ……まぁ、そう怒るなよ。ほらよ?」
口をとがらせる目の前の彼女に呆れながらも、鷲一が心琴に肉を皿に盛ってあげる。
すると、心琴は怒るのをすぐにやめて嬉しそうな顔をした。
「えへへ……! 鷲一から貰ったお肉♪」
無邪気な顔でお肉を食べ始める心琴の様子を見て桃と杏は顔を見合わせた。
「心琴さんって、本当にわかりやすいよね」
「うん。幸せそうでなによりって感じぃ? キャハッ!」
杏と桃は二人のラブラブっぷりにちょっとだけ呆れた顔をして笑うのだった。




