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第16章 休戦

 ナレーションを境に4人は上の方に引っ張られたかと思うと、朱夏達はまた天井付近にぶら下げられる。とたんに声を発することが出来るようになって海馬は思わずつぶやいた。


「な……な……なんだいまの……?」


 海馬は絶句している。明らかに内容が自分たちの伝記のようなシナリオだ。


「……海馬ちゃんって最初ああだったよね」


 紗理奈が面白そうにそう言った。何もかもが素直じゃない海馬を懐かしく思ったのだろう。


「う、うるさいな」

「そうそう。都合の悪いことを「うるさいな」って言うのもあの頃から変わらないんだね!」

「だ、だからうる……なんでもない!!」


 紗理奈にからかわれて海馬は語尾を濁した。


「『記憶劇場』と言っていましたね……わたくし自身、ほとんど覚えていない内容でした。それに、思い出話をして誰かに伝えたにしては現実の通り過ぎる気がします」


 朱夏は自分の感じた違和感を3人に伝える。


「4人の記憶から形成された劇って事っしょ?」

「ええ。きっと……パラサイトだと思います」


 朱夏はそう断言した。その強い口調にキングが口を開く。


「ふむ……女よ、貴様には心当たりがあるのか?」


 その質問に朱夏は少しだけ悩んでから口を開く。朱夏は3日前に牙をむいてきたキングを許しているわけではない。


「ええ。……正直心当たりは一つだけあります。……ですが言いません」

「……なぜだ。この状況に困っているのはお互い様だと思うのだがね」


 キングは不満そうな声を上げると朱夏からはこんな提案が飛び出た。


「……私の意見が聞きたいのなら事が収まるまでは『一時休戦』と行きませんか? 話をするだけして殺されるのは困りますので」


 朱夏は凛とした声でキングにそう答えると、キングからはムゥと言う小さな息が漏れる。


「……」

「……」


 海馬と紗理奈はその言葉に沈黙した。気まずそうな空気が二人を包んでいる。


「仕方がない。だが、あくまで一時的な物だぞ。いいな」

「ええ。構いません。短い間である事を祈りますが、よろしくお願い申し上げます」


 朱夏とキングはそう言うとこの馬鹿げた劇から抜け出すまでの休戦を誓った。


「して、女よ。貴様は我に休戦を誓わせて置いて何もを言わぬつもりか?」


 キングは朱夏に不満を吐露する。


「……。……不可解な点があります」


 ゆっくりと朱夏が切り出した。


「ほぉ、不可解とな。現時点では山のようにあるが……?」


 意地悪なキングの声とは裏腹に朱夏は理路整然とこう言いきる。


「一番不可解なのは、エリがここに居ない事です」

「……ほぉ? あの小さいのが居ないのがどうしたというのかね」


 キングは大した興味のない小さな子供が海馬と朱夏と共に山に登ってきたのを覚えていた。


「……ここに来る直前の事を思い出してください。あなた方二人が海馬君を殺そうと飛びかかったのは覚えていますよね?」


 その口調は若干の怒りを帯びている。海馬は本気で死を覚悟せざるを得なかった。朱夏が怒りを感じるのも無理はない。


「そうだな」

「敵だからしょうがないっしょ?」

「……しょうがないで済ませないでください」


 朱夏はなんの悪びれもしない二人に呆れた声が出てしまうが、そこは今は言及しない事にする。



「……あの時、エリが紗理奈と海馬君に割って入っろうとした事に気が付きましたか?」



 咄嗟の事で体が動かなかった自分よりも先に、勇敢な小さな少女がキングと紗理奈へ飛び込んでいくのは朱夏からも見えていた。


「気付かなかったっしょ」

「……僕からは見えなかったな」

「何かが動く気配は察知していたが……子供だったか」


 朱夏以外の3人はエリをほとんど認識していなかった。


「そして、私の記憶の片隅では……エリが光ったように見えたんです」


 そして、朱夏が認識している限りエリはまばゆい光を発したのだ。


「エリが光る? 目が青くって事?」


 海馬はパラサイト特有の能力を発現する時に光る目を思い描いて聞き返した。


「いいえ、体全体が……です。海馬君。私たちは一度だけエリが光る所を見たことがありますよね?」

「え!?」


 海馬は覚えがなくて驚いた。

 けれども、朱夏がこう断言するという時はかなりの自信がある時だ。

 海馬は自分の記憶をじっくりと探ってみる。

 すると、一度だけ、エリの体が「現実世界で眩しく光った」事があるのを思い出した。


「……ああ!! 脱線事故事件の時だ! 鷲一の叔父にエリが捕まって……眩しく光ったんだ!」

「その通りです。あの時エリのパラサイトが光って……一度忘れてしまった、わたくしたち全員の記憶が戻った」

「あ……」


 一度デジャヴ・ドリームの中で死んでしまうと夢の記憶が引き継げなくなる。そのため、デジャヴ・ドリームの中で三上に殺されてしまった朱夏は夢で起こったすべての出来事を忘れていた。

 けれども、あの時、エリのその光を浴びた事で全てを思い出したのだ。



「そう。その記憶って、『自分では覚えていない記憶』を、脳裏から呼び覚ましたものですよね」


 そこまで説明して、ようやくこの劇との共通点が出てくる。


「それって……この劇と似てるかも。この劇も、僕たちが小さかった頃の『自分では覚えていない記憶』をもとに作られているよね!! 朱夏、すごいじゃないか。よく気が付いたね!」

「ふふっ、ありがとうございます海馬君!」


 褒められて朱夏から嬉しそうな声がした。


「……でも、って事はこれは『エリのパラサイト』の能力って事だよね?」

「ええ。きっと間違いないと思います。その筈なのにエリがここには居ない。だから、私は不可解だと思うのです」

「あの小さな子供が……?」

「けど……どうして……!?」


 ブーッ!!


 その時だった。開幕のブザーがステージに鳴り響いた。

 ここからが相談の本番という時に4人は急に話せなくなる。

 第二章が幕を開けるのだ。

 人形たちはゆっくりと幕が開き始めたステージへと降り立って行く。


(エリ、どうしてこんな事をするのですか?)


 朱夏はエリに問いかけるように念じるが、その思いが届く事はなかった。

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