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第14章 記憶劇場

 暗闇に漂う朱夏は相変わらず身動き一つとれずにいた。

 真っ暗闇に漂って、どれくらい経ったかも分からない。

 紗理奈も能力の発動に浸かれた疲れたのか、目を光らせるのを止めてしまっている。

 ただ広がる闇の中、朱夏は精神を摩耗していた。


(これ……ずっとこのままだったら……どうしましょう……)


 朱夏からは何一つ見えないし、聞こえもしなかった。

 さっき海馬の声が聞こえただけで、それからは何の変化もない。


(エリ……連覇君……無事かしら……?)


 泣き出しそうな気持になるが泣くことさえもできない。自分がどう言う状態になっているかも分からなかった。


(海馬君にせめてもう少し……近づけたら……)


 体を動かそうと何度も藻掻いてみた。けれども、やはり何の変化も起きない。

 その事実にまた、精神を打ちのめされそうになる。


(……この状況がいつまでも続いたら……)


 考えたく無いことが再び朱夏の頭を過ぎる。そして先程からこの繰り返しだった。

 しかし、この状況はいつまでも続く訳ではなかった。


「レディース&ジェントルマン!!」


 突然だった。どこからともなく、若い男の子の声が辺り一面に鳴り響く。

 それはまるで、これからショーをやるような口ぶりだ。


「お待たせしてしまいごめんなさい! 今から始まりますのはとても楽しい劇でございます!」


 急にあたりは明るくなる。

 スポットライトのような真っすぐな光は朱夏を包み込んだ。

 真っ暗闇からのライトの直撃にひどい眩しさを感じ、朱夏は目を細める。


「な……なんですか?」


 眩しい光の中、ゆっくりとゆっくりと目を開いた。



 目の前に広がっていたのは、小学校の体育館にあるような大きなステージだった。



 そして、驚いたのはそれだけではない。


「……私……ステージの上に括りつけられてるのでしょうか……?」


 そのステージの天井のど真ん中にいるようで、真上からステージを見下している状況に頭が付いていかない。


「なんだこれ!?」

「どういう事っしょ!?」

「我にもわからぬ……」


 三者三様の声が聞こえる。朱夏からは見ることはできないが明らかに海馬、紗理奈、キングの驚いた声に違いなかった。


「こ……これは!?」


 首の向きが紗理奈の方を向いている海馬から驚愕の声が聞こえてくる。


「どうしたんですか? 海馬君!」

「僕たちが今、どういう状況か……分かった……」


 海馬は驚きを隠せないままそう言った。


「私からはステージしか見えないんです。何が起こっているんですか!?」


 朱夏が海馬を問いただすと信じられない言葉が帰ってきた。




「僕ら……操り人形にされてるんだ……」




 朱夏は言っている意味が分からない。困惑して言葉を失った。


「ど……どういう意味っしょ!?」

「……小僧……ちゃんと説明しろ!!」


 紗理奈やキングでさえも海馬の説明に納得ができていない。


「う……。怖いなぁ……もう」


 敵二人からの怒号を受けて海馬は不満を漏らす。


「いいから説明してください!!」

「わかった、わかったって!」


 更に朱夏にまでそう言われて、海馬はもう一度説明を試みた。


「僕の首の向きはいま、紗理奈を向いているんだ。自分の意志では動かせない。そして、僕から見える紗理奈、君は人形そのものだ。両手足の関節は球体で出来ているし、顔も陶器のようなもので出来ているように見える」


 とりあえず、見たまんまを話す。


「へ!? 嘘っしょ!?」


 自分自身がそんな風になっているとは思えず、紗理奈からは驚きの声が上がった。けれども、海馬は紗理奈の驚きを横に捨て置いて、更に説明を続ける。


「しかも、十字の木の板が宙に浮いていて、金色に光る線のようなもので両手足とかに繋がっている。その板にぶら下がる形で僕らは今ここに居るんだ」


 海馬はとにかく見たまんまを言葉にした。にわかには信じられない状況だった。


「……マリオネット……か?」


 キングの低い声がそう言った。


 --マリオネット。


 それは人形劇で使われる操り人形の一種の事だ。人形の要所要所に糸がつながっていて、その糸を巧みに操ることで人形を動かして劇などを楽しむ。


「……そうだと思う」


 床に広がるステージを見ても、そうとしか思えなかった。


「って事は私達……」


 紗理奈が言おうとしたことは、ステージに響き渡る明るい男の子の声でかき消された。


「今からご覧に居れますのは……楽しい楽しい人形劇……『記憶劇場』でございます!!」


 その声が響くとステージの正面からはパチンパチンと拍手の音が聞こえた。

 見えないが、観客がひとりだけいるようだった。


「その人形が……僕らって訳か」


 海馬は最悪の状況を悟った。

 今から自分たちは見世物になるらしい。

 表情があったらいつものごとく顔が青ざめていた事だろう。

 しかも、気になるワードはそれだけではない。


「き……記憶劇場ですか……?」


 朱夏は聞き間違えではないかと思うが、キングも同じように聞き返して来る。


「劇の名前か何か……なのか?」

「……分からないっしょ……」


 どのみち自分たちに選択肢などない事は明白だった。


「きゃっ!!」

「朱夏!?」


 朱夏は急な浮遊感に小さく叫んだ。

 どんどん高度が下がっていく。


「わぁっ!!」

「紗理奈!!」


 そして次に紗理奈も地面に向かって降りていく。

 二つの人形はステージのど真ん中に着地した。



「今から始まるのはここに迷い込んだ人々の記憶で作った、面白い人形劇! さぁ、……幕開けです」



 ブー!!!!



 劇場ならではの開幕のブザーが鳴り響く。

 すると朱夏と紗理奈は自分の意思とは関係なくお辞儀をさせられた。


(勝手に体が動くっしょ!!)

(えっ!? ……声が……でないです!?)


 突然ステージに軽快な音楽が鳴り響くと、完全に操られた二人は成すすべなく踊らされる。

 統率された人形たちは軽やかなステップを踏んだ。


(や……やめて!)

(足が!! 足が変な方向に!! 痛いっしょ!!)


 中身の紗理奈も朱夏も心の中で叫んだ。

 宙に浮かぶ木の板が勝手に動き、それに合わせて金に光る糸が動く。

 その糸に無理やり踊らされる人形たちは意図せぬ方向に体を勝手に動かされる。

 ある程度、踊りを踊ると再び観客席に向かって紗理奈と朱夏は一礼した。

 ナレーションが響き渡る。


「これは、田舎町に住んでいるある少女たちの物語」


 朱夏と紗理奈はその声に驚きを隠せない。

 どうやら主役は自分たちのようだった。

 こうして不穏な『記憶劇場』は開幕した。

 この後どうなるかも分からないまま、ただただ体だけが元気に動き回る。


(どうにか……どうにか脱出……する方法を……!!)


 心の中で朱夏は藻掻く。

 けれども、そこにあるのはただ広いステージと勝手に用意されたシナリオだけなのであった。


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