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第11章 下山

 連覇は山道を急いで駆け下りる。


 子供にはきつい勾配を何とか転ばないように走り続けていた。


「はぁっ!! はぁっ!!」


 息がどんどん上がって行くのを感じるが連覇はお構いなしに走り続ける。

 先ほどまであんなに楽しく感じていた木々に囲まれた獣道に近い山道に連覇は少し恐怖さえ感じていた。


「はぁ……はぁ……」


 しばらくすると分かれ道があり連覇は立ち止らざるを得なくなる。

 行く時には手を引かれていて気が付かなかったが、細い道に細い道が重なり合うように山道は二つに分かれている。


「そう言えば……道が入り組んでるって……海馬お兄ちゃん言ってたっけ……」


 息を整えながら連覇はどっちに行けばいいのか迷った。


「う……こ……こっちに行ってみよう! 下に降りてるっぽいし!」


 連覇は勘だけで道を選んで進んでいく。

 けれども、しばらく行くとまた道が分かれていた。


「え……こんなに分かれ道なんてあったっけ?」


 戻るべきかどうか悩んだが連覇はそのまま突き進んだ。


「どっちみち、山を下れば町に出るよね……!! って……え?!」


 連覇が真っすぐに歩いていくとそこは崖だった。

 明らかに見たことがない風景に連覇は立ち尽くす。

 見晴らしのいい景色だがそもそも街が見えない。

 真っすぐ降りただけでは到着できない事を連覇は悟った。


「道が……違ったんだ……引き返さなきゃ!」


 そう思い、慌てて引き返す。

 けれども、どこまで戻れば元のいた場所なのか、連覇にはもうわからなかった。


「どう……しよ……。皆が倒れてるのに! 急がなきゃ!!」


 連覇は闇雲に走り始めた。

 けれども、行けども行けどもそこは森。

 徐々に子供が歩けない勾配の場所さえ出てくる。

 そして、その時は来てしまった。


 連覇が急斜面を走っていると、とたんに足元の岩がガラッと音を立てて崩れたのだ。


「あっ!!!!!」


 気が付いた時には連覇は宙に浮いていた。

 勾配が急な斜面を連覇は転がり落ちる。




「うわあああああああああああああ!!!!」




 連覇は叫びながら転がった。

 体中すりむいて痛みにうずくまる。


「い……いてて……」


 連覇が顔を上げると先ほどまで自分が居た場所ははるか上の方にあった。

 大人でも上れなさそうな斜面に連覇は顔を青くした。


「どう……しよ……」


 自分の膝から滲む血を連覇は涙目で眺めた。


「エリ……ごめん……海馬お兄ちゃん……朱夏おねえちゃんも……」


 連覇は静かにボヤいた。

 しばらく膝を抱えてその場から動けずにさっきまで来た道を呆然と眺める。


「今……誰か……ました……?」


 連覇は真後ろから声がしたのを聞いた。

 その声はか細い声で、若い女性のような気がする。

 こんな所に誰もいるはずがなくて連覇の足は竦む。

 そして、恐怖で後ろを振り向けないまま固まった。


「いま、海馬おにいちゃんって……言いました?」


 今度ははっきりと声が聞こえて、連覇は肩を震わせる。

 明らかに誰かが自分に話しかけている。

 こんな山奥で、誰もいないだろうこの場所で。


「あ……あの?……すみません。何でもないです」


 けれども、その女の子の声があまりにも寂しそうで、連覇は勇気を振り絞った。

 後ろを向かないまま言葉だけ返す。


「そ……そうだよ。海馬お兄ちゃんって……言ったよ」


 震えながら、連覇はそう言った。

 すると声は、先ほどよりも明るく帰ってくる。


「海馬お兄ちゃんは元気ですか?」

「え? ……うん。元気……だよ?」


 あまりにも普通の会話に連覇は少しずつ恐怖心を取り払っていく。


「そうですか! ふふっ。なによりです」


 可愛げのある高い声はどこかで聞いたことがあるような気がする。

 そう思って、連覇はようやく後ろを振り返った。

 そして叫んだ。



「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」



 連覇が見た物、それは……



 陶器でできた、ボロボロの人形だった。



 ホラー映画を彷彿とさせるフリルの沢山ついたスカートを纏った西洋人形。

 ところどころひび割れていて、しかも、塗装があちこちはがれている。

 その気味の悪い人形が歩いてこちらへカタリカタリと向かって来ているのだ。

 連覇はあまりの怖さに腰を抜かした。


「に……に……人形が動いて……喋ってる!?」


 人形を差した指は震える一方で、連覇は怖すぎて涙が出ている。足は全くもって動かない。


「あ……。ご、ごめんなさい。怖がらせちゃって……人に会うのはとても久しぶりで……その……怖い……ですよね」


 悲しい声が連覇に届く。連覇は声が出ず口をパクパクさせた。


「襲ったり……しませんよ? それとも……やっぱり見た目……ですよね」


 人形は自分をくるくると回りながら確認をする。見た目以外は怖くないその人形を連覇は何度も瞬きをして見つめた。陶器でできている為、表情は無表情だが、明らかに哀しげな声が感情を物語る。


「……君……」


 徐々に落ち着きを取り戻してきた連覇はようやく声が出た。


「なんですか?」

「き……きみ……誰?」


 そう聞かれて人形は後ろを向いた。


「そうですね……私の友達は……って私を呼んでました」

「……え?」


 名前の所だけ小声で言うその人形を不可解に思いながら連覇は聞き返す。


「もう一回言って? 聞こえなかった」


 連覇が怪訝な顔をしているのに気が付いて人形は今度は連覇を見て恥ずかしそうに自分の名前を告げる。


「……かっち」

「カッチ……? カッチって言うんだね?」


 連覇は届いた音を繰り返してそう言った。

 人形は数秒動かないでいたが、しばらくしてゆっくりとうなずいた。


「僕は連覇! よろしくね、かっちゃん!」


 連覇は笑顔でそう返した。


「かっちゃん?」

「うん! カッチだから、あだ名はかっちゃんね! あ、あれ? でもカッチの方が言いやすい? ……まぁ、どっちでもいっか!」


 連覇が歯を見せてにやりと笑う。


「ふふっ! よろしくお願いします。連覇君」


 表情がない人形は笑っているのかどうかはわからないが、明るい声が返ってくる。


「ねぇ、カッチ? 友達が山で倒れて……助けを呼びに行かなきゃいけないんだけど……」


 連覇は藁にもすがる思いでカッチにそう言った。


「そうだったのですね。それでは……田舎町まで案内しましょうか?」


 人形は後ろを指差した。連覇はその答えにいつもの明るい表情を取り戻す。


「本当!? ありがとう!! カッチ!」

「いえいえ! 久しぶりにおしゃべりができたお礼です。さぁ、こちらへ」


 カッチは獣道でさえない道を悠々自適に歩いていく。

 まるで自分の庭のように場所を把握しているようで、ものの10分で入り口である『私有地につき立ち入り禁止』の看板が目に入った。


「カッチ!! ありがとう!!!」


 連覇は道まで来るとカッチに大きく手を振った。


「いえいえ! また……いつか会えるといいですね!」


 カッチも連覇に向かって大きく手を振る。

 そして、その言葉を最後に隠れるように山の中へと消えていった。


「……それにしても……今時の人形ってすごいね! しゃべれるんだ!」


 連覇は勝手にそう納得してその場を後にするのだった。

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