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序章 あの日の悪夢

新連載です!よろしくお願いいたします!

挿絵(By みてみん)


 薄暗い山の中を、中学3年生の女の子が駆け抜けている。

 早乙女朱夏さおとめしゅかは荒い息をしていた。


「はぁっ……はぁっ……!」


 呼吸が整わない。

 中学校の制服は泥だらけだ。

 それでも、なりふり構わず全速力で山を駆け抜けた。

 舗装などされていない道につまずきながらも、懸命に走り続ける。


「はぁっ! ハァッ!」


 息はさらに荒くなる。

 人生でこんなに走り続けたのは初めてだった。

 朱夏はしばらく走ると限界を迎えてしまい立ち止まる。

 適当な木に手をつき必死に呼吸を整えた。


「早く……早く!……助けを!!」


 足と止めるた途端、目に涙が溜まる。

 溜まった涙を乱暴に拭うと、少しだけ整った息で朱夏は再び走り始めた。


「急がなくては……紗理奈さりなが死んでしまいます!」


 朱夏は走りながらもう一度自分の手を見た。

 その手は泥だらけ。

 先ほど友人に届かなかったこの手を八つ当たりのようにぎゅっと握りしめる。

 


「紗理奈の……紗理奈のバカ!!!」


 朱夏は走りながら口惜しさと怒りが入り混じった感情に大声で叫ぶ。

 それでも、走る足は止まらない。

 涙をこぼしながら、助けを求めて森を駆け下りた。



 しかし、その足は不意に止まる事となる。



「朱夏っち……! 朱夏っち!」


 大きな声で朱夏を呼ぶ声がしたからだ。

 声の方向を向くと、目の前には紗理奈の姿があった。


「へ!? 紗理奈!?」


 先程からこの子を助けるために必死で駆け回っていたはずだ。

 朱夏は混乱した。


「無事だったのですね!?」


 それでも、朱夏は涙を流しながら紗理奈に駆け寄ろうとした。

 紗理奈の無事を喜んで抱きしめようとしていた。

 しかし、すぐに、朱夏はある事に気が付き足が止まる。

 


 目の前の紗理奈のお腹を、野太い尖った枝が()()()()()()()


「きゃぁぁぁあ!」


 朱夏は紗理奈のお腹を見て尻餅をついた。


「あなたが……あなたが……」


 紗理奈はボタボタと腹から血を流しながら朱夏の元へ近づいてくる。

 その顔はいびつに歪み、顔がピシピシとひび割れる。


「やめて! 紗理奈! ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

朱夏は泣いて謝るが、紗理奈は不気味に笑いながら歩みを止めない。

とうとう紗理奈は血を垂れ流しながら、朱夏の目の前まで来て立ち止まった。




「あなたが、私を殺したんだよぉ? その手でねぇ!」




 朱夏がもう一度自分の手を見ると、徐々に赤い血がにじみ出てくる。


「いやっ! いやぁぁあぁ!」


 目を見開いてそれを凝視してから正面を向くと、紗理奈も口から血を吐き血まみれになっていく。


「きゃぁぁぁぁあぁ!」


 朱夏は紗理奈を指さしながら叫ぶ。

 体がお腹の所でくの字に曲がり口からゴボゴボと大量の血液が流れ出てくる。

 辺りには血だまりが出来て朱夏の足元にまで血の川となり届いた。

 生温かい血が朱夏を包むように流れていく。


「やめて! もう! やめてええええ!!」


 紗理奈の体がバキバキと変形すると、それはまるで、『枝に突き刺さったような形』で留まる。

 それは先程、朱夏が助けを求める為に駆け出した時の紗理奈と同じ形だった。


「い……いやああああああああああああああああああああ!」


 朱夏はありったけの声を張り上げて叫んだ。

 目をつぶって頭を抱え、耳を塞ごうとしたその時……。


「しゅ……か……朱夏!?」


 その聞きなれた声に朱夏はすがるように目を開いた。


「あああぁあ……あ……あれ?」


 朱夏はゆっくりと夢から覚めていく。


 目を開くとそこは病院のベッドだった。

 急に変わった景色に朱夏は困惑する。

 酷い汗をかいているようで、朱夏は背中に気持ち悪さを感じた。


「……夢……?」

「大丈夫かい? かなり、うなされてたんだよ?」


 隣には心配そうに見守る射手矢海馬いてやかいばの姿があった。


「隣の僕の病室までうなされてる声が聞こえたんだ。それで、心配になって……」


 時刻はまだ、朝の4時。

 自分がよっぽど声を上げていた事に朱夏も驚いた。


「……ひ……酷い夢を見ました」


 朱夏は真っ青な顔で俯いてそうポツリと言った。


「それって……」

「い、いえ! デジャヴ・ドリームではないです!」


 海馬の言わんとしていることを朱夏はさえぎる。

 デジャヴ・ドリームは死の予知夢。パラサイトである同居人エリの異能力なのだ。予知夢ゆえに物理法則を超えたことは基本的に起こらない。けれども、先ほどの夢は朱夏は中学生の姿だったし、泥だらけだった手からは血が溢れた。何よりも、紗理奈が目の前で血塗れに変貌を遂げた。非現実的なことがたくさん起こった。


「そう……なの……?」


 海馬はそれを聞いても心配そうだ。


「……あの日の夢を……みたんです」


 朱夏は布団をぎゅっと握りながら震える声を出す。昨日、【人類犬化事件】で朱夏は紗理奈に殺されかけた。大怪我を負い、海馬と朱夏は今は病院にいる。恐怖が夢に出たのかもしれないと海馬は思った。


「昨日の今日だもんね……無理もない……」


 2歳年下の朱夏の事を妹のように接してきた海馬は昔のようにそっと頭を撫でてあげた。

 朱夏はその手のぬくもりを感じながら海馬を見つめる。


「あの、海馬君? もしよろしければ……今度私に時間をください」


 真剣なまなざしだった。

 潤んだ瞳は朝の薄暗い日差しを浴び、とても綺麗に光る。


「いいけど……。どうするの?」


 その目に気圧されながらも海馬は答えた。


「……あそこへ行きたいんです」


 朱夏が「あそこ」と言った場所に、海馬は心当たりがあった。


「……まさか! あそこ!?」


 目を見開いて朱夏を見る。

 朱夏はゆっくりとうなずいた。


「そう……3人の思い出の秘密基地です!」


 朱夏と、海馬と……そして紗理奈の思い出の秘密基地。

 真剣なまなざしに、海馬は首を仕方がなく縦に振った。


 こうして、傷も癒えぬまま再び新たな事件が幕を開ける。

 これは、3人が過去と向き合い、真実へと近づく物語。

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[良い点] 情景を観ているような感じにさせる文章は見事なのじゃ! [気になる点] これからの展開なのじゃ! [一言] 面白いのじゃ!
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