それでも
弘人さんが私に彼氏がいたことを教えてくれて以来、不思議な夢をみるようになった。
誰かが必死に私に叫んでる夢。
こんな思いしたまま、死にたくない。
本当は大好きなのに。
だれかの悲しい声がこだましている。
そして私は汗だくになって目を覚ますんだ。
この声も天野くんのものなのかな。
天野くんのYouTubeのサイトを開いてみることにした。
また心臓がどくどくいってる。
コレイジョウハキケンダ。
そう心臓が警報を鳴らしているみたいに。
それでも思い出さなきゃいけない。
だから、思い切ってYouTubeを開いた。
動画を開くと、整った顔立ちの彼が現れて、そしてギターの弾き語りを始める。
なんて優しい歌声なんだろう。
そして動画の最後に、
「俳優目指して配信活動しています。よろしくお願いします」
なんて言って、頭を下げて動画は終わった。
彼、俳優目指してたんだ…。
私、よく俳優育成所みたいなところに当時小説家になりたかった頃小説の内容を膨らます為に通ってたけど、それは天野くんを見るためだったのかな。
そうだ、そこの俳優育成所のスクールに行けば何か分かるかもしれない。
場所はわかる。ただ天野くんの存在が私の記憶から抜け落ちていただけだ。
訪れてみよう。
その日仕事が終わると、俳優育成所のスクールに出向いた。
「こんにちは」
受付の人に声をかける。
「あれ、あなたは…」
受付の人が固まったように動かない。
「どうかされましたか?」
「あ、ごめんなさい。
あなた天野くんの彼女さんだった日向さんよね?」
この人、私たちのこと知ってるんだ。
「そうです…あの、少しお時間もらえませんか?」
唐突に私はそう言った。
受付の方は快く個室へ案内してくれて、話をしてくれた。
「信じられないかもしれないけど聞いてください。私、事故で天野くんの記憶だけが無いんです。知り合いに天野くんの存在を教えて貰って、思い出そうといま努力してるんです。だからここに来るのも遅くなっちゃいました。もし、天野くんに関することがあればなんでもいいです、思い出したいんです。だから、教えてください」
「そうだったのね…。あなたが嘘ついてるようにも見えないし、わざわざ出向いてくれたのだから、話しましょう。
私ね、天野くんが亡くなったってご両親から聞いて、あなたもここに来なくなって亡くなったのだとばかり思っていたわ。元気そうでよかったわ。
天野くんはね、将来有望な子だった。私の生徒でね。そして、貴方は小説家になりたくて題材の為と言いながらいつも天野くんを見に来てたわよね。この2人には何か特別な絆があるんだろうなって思っちゃうくらいにね、仲良かったわよ。
そういえば天野くんが生前最後のレッスンで海に貴方を連れていくってかっこよく言ってたけど、彼と海には行けたの?」
「うみ…?」
「高校卒業したばかりの彼があなたのために運転免許を取得して、海に連れていくんだって張り切っていたのよ?
もし、海に行ったら何か思い出せるかもしれないね」
「海、行ってみます、ありがとうございます。」
「また、何か力になれることがあればいつでもいらっしゃい」
海に行けば、何か思い出せる気がする。
でも心臓がいつも以上に叫んでる。
コレイジョウハキケンダーーー。
それでも私はいくよ。天野くんと私の全てを思い出すために。