願い
改めて医者にも行って症状を話したが、思いだす解決策は無いと言われてしまった。
それでも弘人さんは協力してくれるという。
「君が彼と付き合ってた数年間を思い出す方法は、彼といた場所に行ったり、
所持品を見たり、彼のご両親に会ったりしてそれで何か変わらないかな?あとは陽汰のことで俺が知っている限りのことを話すよ。」
私はずっと疑問に思っていたことを口にした。
「なんで、弘人さんは、協力してくれるんですか…
私が天野くんを思い出さなければ、私はあなたのことが好きで、付き合うことだって出来たのに。」
そういうと少し悲しげな顔をして俯いて弘人さんは言った。
「俺は…もう後悔したくないんだ。大切な人には幸せになってもらいたいから。
君にとって思いだすことが幸せかどうかわからないけれど、黙っているよりはいい気がしてね。」
「後悔って…家族のことですか?」
「あぁ」
弘人さんが高校生の頃東京の大学に来るために上京したいと言ったら、お母さんに反対されたらしい。それを押し切って関東へ来たことで、お母さんが病んで、家族で心中を起こしたって、前に聞いたことがある。
「俺が関東へ来たことで家族は死んでしまったから。関東へ来たことへの後悔はしていないけれど、もっと話し合えば良かったっていう後悔はある。
それに…陽汰と俺はある関わりがあったんだ。」
〜弘人side〜
ある日俺は急いで自転車を漕いでいた。
信号も見ないで道路を突っ切ると角から人が現れてそのまま止まることが出来ず、その人を跳ねてしまった。
彼は骨折して、入院。
もちろん何度も謝ったけれど取り合ってすらくれなかった。
それが天野陽汰だった。
でもある日いつものように病室に花を届けに行ったら、その日は拒んで部屋にすら入れてくれないいつもと違って、花を見て、ありがとう。っていったんだ。
俺は花瓶に花をさすと、あの、ひまわりがお好きなんですか?
なんて質問をしていた。
俺の、彼女に似てるんだ。ひまわり。
明るくて、周りの人を元気にさせちゃうすげーやつ。
そういう彼の目は輝いていた。
その彼女が未来ちゃんだって知ったのはそう遠くない日、病室でばったり会った時だったけどね。
「私の事、そんなふうに、ひまわりみたいだなんて言ってくれて…ロマンチストな方なのね。素敵。」
ひまわりみたいに笑う彼女の笑顔を俺は独り占めすることが出来ない。
彼だけの特権だ。
だけど、それでいい。
それでいいんだ。
陽汰を思い出して、大切な人を失った辛さにいつか彼女が直面するかもしれない。
だけど、ずっと忘れていたら陽汰が報われない。彼女の陽汰への想いも忘れ去られたままだ。
大切な人を失った辛さは痛いほどわかるからこそ、彼を大切にしてきた気持ちをどうか思い出してほしい。
いまはそう願うよ。