〜あなたに送るラブレター〜
私は5年前交通事故にあった。
車に跳ねられて、重症を負ったらしい。
事故のせいで、当時の記憶が抜けてしまっていて事故の記憶だけ何故かないのだけど、それ以外の記憶はちゃんとある。
弟が海外に長いこと住んでいる事。
お母さんが施設にいて、私の事なんかもう分からない事。
お父さんは…昔にお母さんと離婚してしまったからどうなっているか分からないけれど。
そして、私は現在23歳で、販売業をしている。
学生だった頃は、小説家になりたくて、これから俳優を目指す人たちに私の書いた小説を演じて欲しくて、俳優を目指す人が通うスクールに出向いたり、何度も小説を書いては投稿してたっけ。
でも、その夢は叶うことなく、いまは現実を見て、働いている。
そして事故から5年経ったいまはすっかり日常生活には支障のない体になった。
退院してから、1年に1度検診があって、異常がないか診てもらっていたけれど、それも今日で終わりだ。
「日向さん、5年間お疲れ様でした。
異常はないので安心して、生活してください。」
「はい、ありがとうございました」
病院を出ると、よく知っている人物がいた。
「弘人さん!」
「未来ちゃん、待ってたよ、検査お疲れ様。
5年間よく頑張ったね。」
弘人さんは弟の先輩でそして、弟のバンドの元仲間?いまは大学でパラレルワールドとか過去や未来に関する研究をしているらしい。
私の弟は海外だし、母は介護施設にいるからおそらく最後になるであろうこの病院から出てきた時に待っててくれる人がいたことはとても嬉しい。
それに、長いこと私の片思いをしている人だ。
バンドマンとしての彼に惹かれ、それから何年になるだろう。
事故で気を失ってから、初めて目を覚ました時、弟の代わりにいてくれた人だ。
つまり5年以上恋をしていることになる、そう考えると長い片想いだな、そう思って彼の横を歩く。
彼女になれたらいいのに。
弘人さんは私の事どう思っているのかな。
車に乗せられ、連れていかれた先は素敵なバーだった。
「今日は君に言いたいことがあって。」
こんな所で何を話されるのか、ちょっと期待する。
「ずっと黙っててごめん。」
「なんですか?
」
弘人さんが俯く。
そして心に決めたように顔を上げた。
この日私はとんでもない事実を知らされることになる。
「君には5年前、彼氏がいたんだ。」