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アークはケチャップで赤くなっている目玉焼きを食べた。しょっぱい。
イヴァも黙々と朝ごはんである目玉焼きを食べている。
イヴァが聞いた話では、そのルィールとやらが来るのは十時ほどらしい。現在九時半。
ようやくダウンレス街も覚醒し、にぎやかになって来た頃だ。たまに間違えて店に入ってくる者がいるのが少し鬱陶しい。
先ほど料理していたイヴァのエプロンの下は、未だにパジャマだった。アークはかなり嫌そうな顔をして、イヴァへ忠告した。さすがに依頼人が来たとき、パジャマではまずい。
「おい、まだそんな格好をしているつもりか」
「うー、今着替えるよぅ」
イヴァは嫌々寝室へ向かった。アークはその様子を見てため息をついた。甘やかしすぎたか、と後悔した。が、アークが甘やかした訳ではない。ただ、イヴァが聞いていないだけ。
十時十分前、呼び鈴がなった。
ちなみにイヴァはまだ戻ってきていない。仕方なくアークは扉を開いた。ヒューマンが一人と、浅黒い肌が特徴のチェコシェ人が一人居た。
「はい?」
「あ、どうも。今日電話した、ルィール・アディリーランです。こっちは、僕の連れのレヴィアルク・ミア・レイハートです」
チェコシェ人は軽くお辞儀をする。ヒューマンであるルィールがおずおずと口を開く。
「それで、その、依頼の話をしたいのですが…」
「あ、あぁ。入ってくれ」
アークは二人を店内に入れ、適当な席に座らせた。イヴァはまだ居ない。
アークはルィールとレヴィアルクに聞こえないように舌打ちをした。不機嫌絶頂。
「ちょっと、朝出たものを呼んできますので、お待ちを」
「あ、はい」
アークは店奥の寝室へと入る。そこではイヴァが着替えてはいるものの、ベットにうつ伏せに寝そべり静かな寝息をたてていた。
額にぶちぶちと青筋が浮かぶのを抑え、アークはイヴァの頭を軽く殴った。イヴァが呻く。
「…うむぅ……なぁに〜…あーくん……今日はおやすみでしょぉ〜」
「寝ぼるな。依頼人が来た」
その言葉にイヴァは頭を持ち上げる。眠そうな顔をして、アークに一言。
「おはよぉ、あーくん」
「行くぞ」
未だ寝ぼけ眼のイヴァを引き連れ、依頼人の下へと戻った。
「ありゃ、ルィールさん?と…誰??」
「レヴィアルク・ミア・レイハートです。レヴィとお呼び下さい」
一応二人とも了承する。