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自らがキーマスターと気づいた十年前から。イヴァを拾い、初めて鍵を使ったときから。ずっと。
ファーは急に小声になった。
“イヴァ坊、まだ平気みてぇだな”
「あぁ、お前に言われて気づいたことで、まだ実感がわいていないのだが、おそらく、一度目覚めたら手はつけられんだろう」
“レベルもはかれないほどの強力なや…”
寝室のほうから物音がして、ファーは口をつむいだ。イヴァが起きたようだ。
“やべっ!じゃなっ!”
「さっさと帰れ」
アークは鍵を閉めて、ファーを消す。店奥の寝室から現れたのは寝癖がぼさぼさのパジャマ姿の寝起きイヴァ。幼気の残るメカ文明族は目をこすりながらアークを認識する。
「あーくん、もう起きてたの〜…早いね…」
「ひどい頭だ。顔と一緒に直して来い」
「あーい…」
アークは閉まっていたカーテンを開ける。太陽は大分昇っており、光を差し込んで来たが、ダウンレス街自体は覚醒していないようだ。街の住民達の姿は無く、無人の通りと化していた。
こういう時、ネスが居ることがある。アークは店から出た。パトロール兼腕鳴らしである。
表通りから路地裏へ、ダウンレス街を歩き回る。密集住宅の周りもくまなく捜索。
最後に自分の店、シリーズの周りを一周。読みの通りに店の裏口辺りに異常とともにネスを発見。
昨晩狩ったネスとは姿形が異なり、大型犬なみの大きさをした透明なハリネズミのようで、あたりに体から放ったであろう淀んだ色をした針が刺さっていた。
朝開放したばかりの鍵を持ち、一次式開放。
赤く、大きな鋭い斧がアークの手元にあった。ネスは威嚇し、無数の針をアークへと放つ。
アークは冷静を保ったまま、斧を一振り、針を全てなぎはらう。動きを止めないまま、ネスの元へと走り抜け、斧で一閃、ネスははじけ飛ぶように消滅した。
「またタイプCか…」
アークはため息をつき、裏口から店内へと入った。
そこにはエプロンをして料理するイヴァの姿。すでに料理は出来かかっているようで、鼻歌を歌いながら盛りつけをしている。見た感じだけでは、目玉焼きにケチャップで飾り付け…という微妙なことをしているようだ。イヴァはアークに気付いて、にかっと笑ってケチャップを持ったまま手を振る。
「アーク、お帰りんっ!朝ごはんできてるよ〜それとね、…」
イヴァはエプロンのポケットから小さな紙切れを引っ張り出す。
「さっきお電話があってね、えーと、ルィール・アディリーランさん、長期依頼。今日来るってさ。今日はお店お休みにしなくちゃね」
「そうだな」
アークは店の扉に『臨時休業』とかかれた看板を出した。いつもなら店を開くため、鎧を外すのだが、今日は外さなかった。久々の長期依頼。内容は分からないものの、腕が鳴る。
アークはわずかに口元に笑みを浮かべた。