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銀色だった髪は赤く変色し、後ろ髪がわずかに跳ね上がっている。つけたての鎧も失せ、赤ずくめの派手な服。灰色の瞳も深紅に染まっている。アークしか居ないはずの店内に、知らない声が響く。
“なあアーク、俺も戦闘したいって!いっつも一次式だけでさ、炎獣の斧だけでさ、無理いって毎朝最大式にしてもらってなまるのは抑えてもらってるけど、いい加減飽きちまったぜ!”
男のようなしゃべり方をする、甲高い女の声。アークは相変わらず無人の店内につぶやいた。
「文句を言うな。こうして毎朝最大式にすることすらやめるぞ」
アークはぐっと鍵に力をこめる。
すると、アークは元の姿に戻り、代わりにアークの目の前に先ほどのアークとまったく同じ格好をした赤い長髪の女が現われた。女は空にふよふよと浮かんでいる。
“わーってますよ、我慢しますって。イヴァ坊や世間に知られるとあんたが面倒なんだしょ?『キーマスター』さんよ”
「口が軽いぞ。ファー」
へいへい、と頭をかくこの浮かぶ女は、人間ではなく、鍵獣のうちの精霊である、炎の精霊ファーのようだ。
アークはキーマスターだ。いかなる時も世界にたった一人だけ存在する究極のキーユーザー、キーマスター。キーマスターは鍵獣の力を最大限発揮することが出来る。そして、今のように精霊を具現化することも。だがそれは、鍵に眠る鍵獣を死に至らせる可能性も出てくることもあるため、あまり使用はしたくない。
それ以前に、世界に一人しか存在しないキーマスターだということがバレれば、研究やら実験やらの対象にされて面倒くさい。それに、鍵術使用に反対する人間の集まりである気性の荒いレジスタンス、通称『ロッカー』にも何をされるか分からない。実際、ロッカーに属する人間にキーユーザーが何人か殺されている。
それゆえ、アークはキーマスターであることをイヴァも含めている全世界の人間に隠し通している。