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選ばれし名も無きモブ  作者: 通勤 成郎
1/3

モブの運命

初投稿につき、テスト的な部分もございます。

見切り発車しております。

ラスト前はどうするか決めておりません。

あらすじしか用意していないので矛盾や、より良い未来案などありましたら、過去に戻って過程を書き換える可能性もございます。


いろいろ試していきながらとなると存じますがお付き合いいただけると幸いでございます。


では、本編をお楽しみください。

――▷▶︎ケースN:9月30日 13:12

                校舎屋上◀︎◁――


――待ち合わせの時間まで、あと、3分――



――▷▶︎ケースE:9月30日 5:00

               モブの部屋◀︎◁――


もう、秋だと言うのに

その日はやけに暑い、季節外れの真夏日だった。


僕は、入学当初から片思いをしていた

1学年上の先輩へ告白をしようと

普段よりも早く起きて準備をしていた。


文明が発達したこのご時世に、

前時代的な恋文を下駄箱に忍ばせるのだ。


あぁ、笑いたい奴は笑うといい。


でも、僕がどうやって、彼女と現代における

連絡手段となる、スマホの連絡先を

手に入れられると言うのか。


不可能だ。

誰がどう見ても。


イケメンなわけでもないし

話術に長けているわけでもない。

金持ちでもなければ、頭が良いわけでもない。


何か取り柄があれば、

もう少し自分に自信を持てるのかもしれないが

そんなものあったら苦労はしない。


平凡。

まさに、モブだ。

登場人物Aから始まったら

Nぐらいの空気みたいなモブだ。

僕の存在なんて

この世界の数合わせみたいなもんなのだ。


そんな僕が、こんな主人公みたいな行動を取るなんて

むしろ、この計画を実行に移した勇気を

是非褒めて貰いたい。


先輩は、来年、東京の大学に行ってしまう。

もう、会えることはない。

主人公なら、運命的な巡り合わせによって

出会えるのかもしれないが

モブにはそんな運命は待ってはいない。

分かっているのだ。


だから、やるしかない。

人には何度かターニングポイントと呼ばれる

重要な分岐点があるらしい。

それが、これなのかは分からないけど

『やるしかない』と

何故か心の中の誰かが叫んでいた。


ラブレターはもう、書き終えている。

と言っても、昼休みにB棟の屋上に来てほしいと

書いてあるだけだが。

だけど、それすら、手が震えて何度も書き損じた。

ゴミ箱は丸められた便箋で一杯だ。


――▷▶︎ケースE:9月30日 6:30

               モブの部屋◀︎◁――


ラブレターはカバンに丁寧に入れた。

3回も確認したから、入れ忘れはない。


下駄箱にいれるところを誰かに見られるのは

恥ずかしいから、いつもより早く登校する。

その為の早起きだ。


朝食も抜いて

少し慌ただしく、玄関のドアを開けると

何故か委員長がいた。


「おはよう。奇遇ね」


委員長は、にこりともせず

こちらを一瞥して言った。


「あ、お、おはよう。

 今日は早いんだね」


いきなりの不意打ちに

普段通りの受け答えに遅れるものの

なんとか自然体を装おうと努める。


「あなたもね。

 授業が始まる前に少し準備する事があって――」


「あ、そうなんだ。大変だね。

 僕も少し急いでるから、先に――」


委員長が、キッと睨みつける。


――やってしまった。

先を急ぐあまり

委員長の話を遮り、切り出してしまった。


委員長はそういう

――話を最後まで聞かないような――

輩を非常に嫌っていることは

何度も説教されて身に染みていたはずなのに――


「ごめ……」


普段の委員長なら

淡々と、理路整然と、相手に一切の言い訳を許さない

むしろ、オーバーキルな説教タイムがはじまるのだが

今日はいつもと違っていた。


「少し話したい事があるから、一緒に行きましょ」


突然の提案に、頭の中で言いたいと思っていた言葉が

自然とこぼれ落ちてしまう。


「え、あ、でも、急いでて……」


委員長は歯切れの悪い返答に

片方の口角を少し上げ、静かに

しかし、最大の威力で囁いた。


「もしかして、お説教が聞きたいのかしら?」


僕は、いつもの委員長に戻った事を瞬時に悟り

無言で、高速頷きを繰り出すしかなかった。


これは、僕が今までの教訓から得た

最大限の対委員長スキルである。


委員長はお決まりの僕の挙動に

今度は一瞥もせず、学校への歩みを進めた。


僕は、少し呆然と佇んで

これ以上距離が開くと委員長が振り返り

さらなる追撃がくることを察知し

駆け足で委員長の斜め後方

近づき過ぎず、離れ過ぎずの距離を保ちつつ

歩を合わせた。


歩きながら僕は

無い頭をフル回転させて考えてみようとした。

けど、頭は真っ白で、何から考えればいいのか

考えるという字が頭の中をグルグルと巡り

遂には考えるという字がゲシュタルト崩壊し始めた。


ふと、前にも同じようなことがあった様な気がした。

でも、そんな事はどうでもいい。

今は、この状況をなんとかしないと――


「――」


委員長は話したいと言っていた事を

多分、話しているのだろう。


僕は、計画が初っ端から失敗に向け

動き出した事に焦りと、絶望を感じながら

モブとしての当たり前の日常を

受け入れる準備を始めていた。


そうだ。

モブな僕が計画を成功させることなんて

できるはずがなかったんだ。

もし、奇跡的に成功させることができたところで

フラれるのは火を見るより明らかというやつだ。

でも、フラれるのもモブの役目の様な気もするな。

できれば、そこまではたどり着きたい――


委員長の話に生返事を繰り返しているうちに、

いつの間にか正門を通過しようとしていた。


終わった。


当然、ラブレターを忍ばせる余裕もなく

1時限目が始まる。


そして、午前中の時間が何ら変わりなく

過ぎ去っていった。


何度も書き損じながらも書き上げたラブレター。

下駄箱に忍ばせるための早起き。

台本まで用意した告白のシミュレーション。


今日のために

いつもとは違う行動をたくさんしたはずなのに

いつも通り流れる時間。


これがモブの運命。


そんな事を考えたり、考えなかったりしながら

つまらない人生と授業に憂いを感じていた。


ふと、僕は少し違和感を感じた。

それは、何が違和感なのか説明はできないが――


こうなる事を分かっていたかのような――

先生に指名されるような予感を――

校舎の前の通りを消防車がサイレンを鳴らし、

通り過ぎるタイミングを――

教室が何となく、歪んで見えるような――

音が遅れて二重に聞こえるような――


――▷▶︎ケースE:9月30日 13:15

               2年B組教室◀︎◁――


僕は、告白するはずの時間になったことを

受け入れられぬまま、虚ろに校庭を眺めていた。


ふと、窓の外を影が、過ぎ去る。

人のような2つの影が――


時が止まった。

僕の一瞬の記憶がフラッシュバックして、

人影がゆっくりと、もう一度窓の外を通過していく。


今度は人影がはっきりと見えた。


それは――僕と先輩だった――


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