お勉強は次回から
カーテンの隙間から差し込む朝日、鼻先をくすぐるような料理の匂いとともに銀髪の少女は目を覚ました。
「「シルヴィア様、おはようございます」」
銀髪の少女シルヴィアのベッドの横に立っている双子のメイドがペコリと会釈する。
以前までは『旦那様』や『ご主人様』と、距離を感じていたが…大丈夫そうだな。
「おはよう、リグ、レグ。他のみんなはもう起きてる?」
「いえ、まだ皆さん目を覚ましていません。それよりも…」
リグとレグが同じ方向へ視線を向ける。
「ん?あぁ、これね」
シルヴィアが二人の視線の先を見て言う。
そこには壁にヒビが入るほどに打ち付けられたサンが倒れていた。
「何があったのですか?」
レグが尋ねる。
「なに、おおかた夜襲でもしにきたんだろう」
リグが倒れているサンに目をやる。
「殺してしまったのですか?」
「はっはっは!そう心配するな、手加減はしたよ」
リグとレグの頭にポンポンと手を置くシルヴィア。
「あと…サン、いつまで寝ているんだ!早く起きないと一切手合わせはしてやらないぞ」
倒れていたサンが起き上がる。
「お前、手加減がどうだって言っていただろ…カハッ」
口から血を吐くサン。その血は魔族と人間のハーフということもあり、黒く濁った色をしていた。
「風呂でその血を洗い流してこい」
「ちっ、次こそは…」
小声でぶつぶつと呟きながら部屋を出ていく。
あいにくと俺の耳は悪くないから丸聞こえなんだよなぁ。
・・・朝食にて・・・
「どうだ食べてるか、ルナ?」
「は、はい、美味しいです」
この少女のような風貌をした少年の名はルナ。先ほどのサンの弟で、彼と同じ人と魔族のハーフだ。
と、そろそろ言わなければな…
「みんな、話したいことがあるから食事を止めてもらってもいいか」
先ほどまでの団欒していた雰囲気とは打って変わって、場が静まり返る。
「初めにみんなに言いたいことがある」
普段見せることがない表になるシルヴィアに皆の顔に緊張が走る。
「まず初めに、俺は400前にした悪事によって神に封印されていた」
「「「「「?」」」」」
「あー言いたいことは分かる。だがひとまず聞いてくれ」
頭に?マークが浮かぶ家族たち。
「400年経ち、封印が説かれると俺は神に『魔族に太刀打ちできる勇者を育ててくれ』と言われた。嫌だったんだが下界に降りるために仕方なくその命令を受け入れたんだ。だからこれからお前たちを勇者として育てるつもりだが、無理になれとは言わない。断ったとしてもまた捨てたりとかはするつもりもない。これを聞いて何か言いたいことのあるやつはいるか?」
ひとりひとり、シルヴィアは目を見ていく。
初めに口を開いたのはローズだった。
シルヴィアの方へと近づき、
「ローズはシルヴィアのこと好きだから大丈夫だよ~」
と、手を前に出して言う。
実にローズらしい理由だな…
「そうか、ありがとう」
その手を掻い潜り脇へと手を回し持ち上げる。
「ひゃ~~」
ニッコリと笑顔になるローズを下ろす。その時のローズの表情は名残惜しそうな表情だった。
「「シルヴィア様、私たちを家族として受け入れていただけたお方を軽んじることなど私たちにはできません」」
あのリグとレグがあんな表情をするなんて…やべ、涙腺が緩くなってるのか?
肉体のみならず精神まで幼くなっているシルヴィア。
「うむ、二人がそう思っていてくれて嬉しいよ」
あと残るはサンとルナか。
シルヴィアが視線をやると、まだ考えがまとまっていないのか、二人とも頭を抱えている。
「そう悩むなって、もう少し楽に考えた方がいいぞ?」
「うっせーなわかってるよ」
反抗的に言い方をするサン。
「ぼ、僕…きまったよ」
おお!ここにきてまさかのルナが!
高ぶる感情を押さえつけながら聞き返すシルヴィア。
「改めて聞くことになったが、ルナはどうしたい?」
「はい!僕をシルヴィアさんのもとで勇者にしてください」
まっすぐとこちらを見る…いい目だ。
「本当にいいんだな?」
「はい」
「よし、ならあとはお前の兄だけだな…おい!もう決まってんだろ?さっきから悩んだフリとかしやがって…」
「え?」
ルナがサンの方を見る。
「やっぱりばれてたか…」
「その様子だとお前もルナと同じみたいだな」
「あぁ、俺もルナと同じ___」
「よし、それじゃみんな、修業は一週間後から始めるからな。心の準備をしとけよ」
脅しではないがこれくらい言っておかないとやる気を出さないやつがいるからな…特にサンとか。
「あぁそれと…」
ドサドサと魔法袋から本を落としていくシルヴィア。
「これ、修業の日までに全部読んどけよー」
袋から出された本の数はパッと見約200冊ほどあった。しかもシルヴィアの優しさなのか、本の厚みが恐ろしく分厚いのばかりだった。
これにはさすがに子供たちも黙ってはいなかった。
「何考えてんだよ!」
「む、無理ですぅ」
「「ここれはいささか酔狂が過ぎるのでは?」
「ローズ頑張る!」
ローズ以外がそう言いながら詰め寄ってくる。
「仕方ないなぁ…ほいっと」
シルヴィアが山のごとく積まれた本に魔法をかけた。
「シルヴィア~、何やったのぉ?」
「これか?本に〖速読〗と〖記憶整理〗の魔法をかけたんだよ」
「〖速読〗?〖記憶整理〗??」
首をかしげて聞き返すローズ。
「そうか、ローズはまだ本を読んだことなかったな」
「うん。いつもリグちゃんとレグちゃんが読んでくれているの」
「ならちょうどいい、この〖速読〗という魔法はな、簡単に説明すると、いつものリグとレグが読んでくれる本の速さが今までの倍以上の速さになるんだ」
「でもそれじゃあお話分からなくならないの?」
「大丈夫だよ。内容を理解する力も倍以上に上がるからより短時間で内容を理解することができる」
「おおー!!」
耳はこちらに向いているけど、たぶんまだローズには難しいだろうな…
ローズ以外の四人もサン以外がこの魔法の効果を理解している感じだな。
「ついでに言っておくが、もう一つの〖記憶整理〗っていうのは、今のローズたちの記憶を消したりするわけではなく、各種類ごとにまとめて記憶することだからな。こうすることで、一つの言葉の切れ端から他の記憶につながることができる」
長々とシルヴィアが説明したせいか、ローズとサンは完全に眠ってしまった。
「しまったもうこんな時間か」
壁に掛けられている時計を見ると10:00を越えて辺りはすっかり暗くなっていた。
「すまないがリグ、レグ、それとルナ。眠ってしまったこの子たちを寝室へ連れっててくれ。それと、もう三人とも休んでいいぞ、話を聞いて疲れたろ」
「いえ!僕は全然…」
手を横に振るルナ。
「「私たちも問題ありません」」
キリッとした表情で答え返すリグとレグ。
全くこいつらは…
「お前たち、少しは甘えるということを覚えなさい。無理なことをしても肉体的、精神的に来るだけだ。とゆうわけで今日はもう寝なさい」
「「「はい」」」
「うん、良い子だ」
その言葉を最後にかわし、子供たちはそれぞれの部屋へと行く。
もちろん、ローズとサンは俺が魔法で浮かしながら部屋へと持って行った。
なにかとべんりだよなぁ。
自室に戻り、俺も眠りについた。
彼らが今後どれだけ成長するか楽しみだな。・・・ふふふ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「聞こえるか●●よ」
うるさいなぁ。さっき寝たばっかなのに誰だよ…」
目をこすりながら体を起こす。
「この我の呼びかけには早々に答えんか●●」
「なんだお前か、神様」
この俺を封印した張本人が何故ここにいるんだ?
「てか、いつの時の名だよ」
「お主が100年の時を過ぎた時につけられた名じゃよ。忘れたのか?」
「そんなんあったな」
モヤモヤとした視界の中聞こえてくる神の声。
「で、用件は?」
「おお、そうじゃったそうじゃった」
「完全に忘れていただろ」
早くしてくれ眠いんだから…
「勇者の育成は順調か?」
「まぁまぁだな」
即答で答える。
「どうやらお主が拾ってきた者たちは皆、才にあふれているではないか」
「ま、俺が目利きしたからな」
本当はただ単にめんどくさかったから適当に拾ってきたなんて言えるわけない…
「現時点ではそこまでの成長はまだ見えないが、それもあと数年すれば立派にお主のものを巣立つだろう」
「そうだな。まぁ、俺を最後に越えられればな…」
「うぅむ。と、今宵はここまでのようだな」
身体が光に包まれる。
「最後にいいか?」
「手短になら許そう」
「魔族の侵攻はいつまで抑えれる?」
「ちょうどお主の勇者たちの初陣のときだそうだ」
だそうだ?
「それって誰が…」
「時間だ」
まばゆい光とともにもと居たベッドの上へと戻った。
「考えてもしょうがないか…」
頭を掻きながらまたひと眠りにつくシルヴィアであった。