家族兼弟子が5人になりました
「「おはようございます…旦那様?」」
双子のメイドがカーテンを開け、俺が寝ていたベッドの横で礼をする。
「おはよう…。見た目は女だけど呼び方はなんでもいいよ」
眠い目をこすりそう言う。
「「かしこまりました。では朝食の準備をしてまいります」」
「ああ、頼む。あとローズも起こしてきてくれ」
「分かりました」
いやーやっぱ買ってよかったな、一軒家。
家具はリグとレグとローズにどんなのが欲しいか選ばせたら即決していったし、俺の仕事がなんもなかったな…
双子の奴隷を奪い取ったシルヴィアは庭付き風呂付トイレ付きのいうなれば豪邸というやつだ。
「ある程度はここであの子たちを勇者として育てれるな」
自室の窓から庭を見渡す。
「さて、そろそろ行かないとな」
三人が待つダイニングへと向かう。
「お待たせ」
「む~おそいです!シルヴィア!」
「ごめんて」
この生活にも慣れてきたのか、無邪気な一面を見せるローズ。
この子に戦闘ができるのかは分からないが…可愛いから良しとしよう。
「旦那様、食事が冷めてしまいます」
「ああ、すまない。いただくよ」
リグがそわそわとしている。
「うん。美味しいよ、これ作ったのってリグ?」
「はい!」
「旦那様こちらも食べてください」
横からレグが作ったであろう料理を出してくる。
「お、おお分かった」
あれ、リグのほっぺが膨らんでいくのはなんでだ。
そんなことを思いながらレグの料理を口に運ぶ。
「うまい!火加減もバッチリだな」
「とうぜんです……ふひ」
え、今笑った?ていうか、今の笑いなの…
ま、まぁ。朝からメイドの意外な一面が見れたということで良しとしよう。
「さてと、今日はあそこに行ってみるか」
朝食を終え、外出の準備をするシルヴィア。
「旦那様どちらへ?」
リグが話しかけてくる。
「ん?王都に用があってね」
「それなら私も…」
「一人で大丈夫だ。それよりローズを見てやってくれ」
「…かしこまりました」
ふむ、リグの元気がないな、飯の量が少なかったのか?
ここは、
「まぁそう気を落とすな。今度王都へ買い物に行こうじゃないか」
「そっそれって…」
「ああ、みんなで行こう」
「ちっ」
先ほどまでの表情とは打って変わって、汚物を見るような表情へと変わるリグ。
「どうした、リグ」
「別になんでもございません。ふん」
そう言ってローズたちの元へと戻っていく。その足取りはどこか重かった。
「どうしたんだ…」
乙女心は難しいな。
屋敷を出てシルヴィアが向かった先は、活気づいた屋台が連なる大通り…ではなく、痩せほっそた人たちが座り込むスラムだった。
「変わらんな」
富を得たものはさらに優雅な暮らしを求め、地を這うものなど見向きもしない。前にも来たがなんら変わってないな。
ため息をつくシルヴィア。
その時
「おりゃあ!」
少し太い木の棒を持った少年が窓から飛び出し、シルヴィアめがけて木の棒を振り下ろす。
「甘いは馬鹿垂れ」
ヒョイと躱し首をつかむ、そしてそのまま壁に押し付ける。
少年からはガハッと息が切れる音が聞こえる。
「喧嘩を売る相手は選ばないとな」
「うぅ…」
やべ、やりすぎたか。
そう思いシルヴィアは手の力を弱める。
「くらえ糞貴族!〖流水斬〗!」
突如、目を覚ました少年が蹴り上げると同時に、足の先から水で作られた刃物がシルヴィアの鼻先をかすめる。
「悪くない発想だ。だが、威力がない」
「な、なんで死んでねぇ…」
シルヴィアを気味悪そうに見る少年。
「簡単なことだ、体内の魔力量が少なかっただけだ。それっぽちじゃ脅しにしか使えない」
「…ろせ」
「ん?」
「殺せよ!貴族に襲い掛かったんだからどのみち死刑だろ!」
確かにこいつは俺を襲ってきたが、貴族っていうのはいったい…
そうか、この格好で来たのがまずかったのか。
「あー何か誤解しているようだけど、俺は貴族なんかじゃないぞ?」
「嘘だ、貴族の娘とかだろ!」
面倒くさくなってきたな。
「とりあえず寝とけ」
〖安眠〗の魔法を少年にかける。
「ZZZ~」
「さて、あとそこのお前もついてきな」
近くのレンガでできた建物の一部を見て言う。
「何もしないから出てきてくれないか?」
「…」
スゥと体の色が戻っていく少女。
いや、男…か?
「今からこいつをうちの屋敷に連れて行こうと思うけど、お前も来るか?」
「(コクリ)」
何も言わないが頷く少年。
「それじゃついてこい」
少年二人と家へ戻るシルヴィア。
「「おかえりなさいませ旦那様」」
「ただいま、リグ、レグ。ローズは?」
「お眠りになってます」
「ぐっすりと」
まるであらかじめ練習していたかのような連携だな…
「それで旦那様」
「お客様ですか?」
「いや、家族だ」
「「・・・・・」」
ち、沈黙が長いな。ダメだったか…
「そうですか、それではお食事の準備をしてまいります」
「では私はお風呂の準備を」
何事もなかったかのように淡々と家事をしに行くリグとレグ。
「えと、あの部屋で待っていてくれ。後でリグたちに案内させるから」
「(コクリ)」
一言もしゃべらない少年がもう一人の少年を担ぎ部屋に入る。
「さて、しばらく待つか」
・・・しばらくして・・・
リグとレグに案内され、風呂に入った少年二人。
上がったばかりなので頭からは湯気が出ている。
「どうだったうちの風呂は?あそこは俺の意見を取り入れてもらった自慢の場所なんだよ」
「ふん」
「…」
相変わらずムスッとした表情の少年。そしてその隣に座っている少年はただひたすらに食事をしている。
「とりあえずお前も食べな」
「…」
こちらの許しを待っていたのか、シルヴィアが勧めると目の前の食べ物を手に取り食べていく。
「なまえはなんていうの~?」
俺の真横に座っていたローズが少年二人に話しかける。
口の周りにソースがついているけどそのままにしておこう。
「…ルナ」
ここへ来る前から一言もしゃべらなかった無口少年が名前を言った。
「ルナっていうの!いいなまえだね!」
「あ…あり、がと」
素直に名前を褒められたことに頬が赤くなる。
言葉をうまく話すことができないのか、ただ単に緊張しているだけなのか片言になっている。
「あなたは?」
「…サン」
お、意外と素直に答えたな。もう少しなんか渋るかと思ったんだが。
「そろそろ話せよ」
完全に敵意むき出しのサンがシルヴィアに話しかける。
「ん?なにを?」
「とぼけんな!ここに俺たちを連れてきたことだよ」
興奮したサンが机の上に乗り出す。
その直後、
「座りなさい」
「黙りなさい」
リグとレグが壁に飾ってあった剣と斧の刃をサンの喉元に突き立てる。
「なに、やるか?」
強がっているサン。
脈が速くなっているな。
それよりも、やはり彼らは…
「そこまでにしておけ。サン…今のお前じゃ彼女らの足元へすら及んでないからな。もちろんローズにも、な」
「ちっ」
ドスリともと居た椅子に腰かける。
「それじゃいくつか聞かせてもらえるかな」
「(コクリ)」
「ああ」
「お前たちってもしかして魔族と人間のハーフか?」
サンとルナが身体を震わせるのが分かった。
「だがハーフというだけでなんでスラムなんかに?」
二人に聞き返す。
「捨てられたんだよ。俺たち」
やっぱりか。
この世界には獣人やドワーフ、エルフなどの種族は人と友好的なかかわりを持っているのだが、神が言っていたように魔族は人間を含める他の種族との条約を破っている。そのせいで人と魔族のハーフである彼らにも矛先が向いてしまったのか。
「お前たちはどちらとして生きたい?」
「「え?」」
「人としてか魔族としてか、どちらで生きたいと聞いているんだ」
机に肘をつき手を組むシルヴィア。その目はしっかりと二人の方を見ていた。
「俺は…選べない」
「僕もどちらかなんてわからない」
うつむいてしまう二人、だがシルヴィアはそんな二人にニッコリと笑って話し出した。
「正解だ、二人とも!」
「「へ?」」
「どちらかを選ぶなんてよほどの馬鹿しかしないことだ。今お前たちは二つ力を持っている。人としての知識と魔族としての力、片方を捨てるなんて面白くない!」
「「…」」
口をぽっかりとあける二人。
「今は分からなくても、選べなくてもいい。ただ、一番ダメなのが卑屈になって生き物としての歩みを止めることだ。その点に関してはお前たちは大丈夫だと言える」
椅子から立ち上がり二人のそばへと歩み寄る。
「どうだ、うちの家族にならないか?」
「な、なんでそうなる!」
「俺なら生きる術、知識、力、作法。様々なものを与えてやれる、それに…」
「それに?」
「お前の魔法の才を無限に伸ばすことができる」
「っ!?」
「まぁ、少し考えるといい。リグ、レグ。彼らをベッドへ案内してやってくれ」
「「かしこまりました」」
そう言って部屋を後にしたシルヴィア。
・・・その夜・・・
「なぁ、ルナ。どうする?」
「僕は兄ちゃんについていくよ…」
「またそれかよ」
「ごめん…」
いちいち謝りやがって。思えばこいつが自分の意見を言ったことなんて全くなかったな。あぁもう!イライラしてくる。
「でも…」
「あん?」
「僕も兄ちゃんみたいに強くなりたいな…」
「……寝る」
「うん、おやすみ」
「お、一晩のうちに決まったようだな、サン」
「ちっ、あいつが言ったからそうするんだよ。俺が決めたわけじゃなねぇよ」
そう言って目をそらすサン。
ほ~なるほどね~
サンを見てニヤニヤしてしまうシルヴィア。
「それじゃ改めまして…ようこそ!我が屋敷へ。これからは家族仲良くしていこうか」
「あぁ」
差し出した手を嫌々握るサン。
「あと、来週から勇者になるための修業を開始するから」
「は??」
「ちなみにお前以外のやつにはもう伝えてあるから」
「え、ちょっ…」
「じゃ、次からよろしく、弟子」
転移魔法で即座に消える。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
残されたのはサンの叫び声だった。