奴隷の双子に期待
前回までのあらすじ
温泉の村エッセルで領主の横暴を成敗し、村の人たちを救い出したシルヴィア。赤毛が美しくかわいい女の子、ローズを勇者にするために家族として引き取る。
「ローズ、少し下がってな!」
「うん!」
エッセルで1泊したらまた旅に出るはずだったシルヴィア。しかし、村の人たちの手厚い好意を受け取らないわけにもいかず、5日間も滞在することになってしまった。
そんなシルヴィアたちは今、モンスターの群れに遭遇していた。
「『キラーベア』と『ジャイアントボア』…か、この辺りには生息していないはずだけどな」
これも魔族の王の影響なのか?
っと、とりあえず倒しちまうか。
「グギャァァ!」
威嚇しているのか両の手から伸びた長い爪でガチガチと音を鳴らす『キラーベア』。
「周囲の小物はお前を倒せば解散するからな」
『キラーベア』の間合いまで近づくシルヴィア。
直後、両腕を広げ掴みかかろうとする『キラーベア』。
単純だな。
ひょいと攻撃をかわし、懐に潜り込む。
「〖昇砕〗」
『キラーベア』の腹に掌を当て、真上に突き出す。
自分よりはるかに大きな体が浮き上がる。
ゴパッと、血を吹き出す『キラーベア』。
後ろを振り向くとローズが涙目になっていた。
おっと、ローズにはまだ刺激が強いようだな。
「さて、次は…あれ?」
返り血を浴びた状態であたりを見渡すと、先ほどまでいたモンスターの群れがどこかへ行っていた。
「勝てないとふんだか。利口な奴らだ」
〖地図〗を開き先ほどいたモンスターたちの居場所を確認する。
「結構離れたな…よし、ローズ!もういいぞ」
茂みから出てくるローズ。
「お、おわった?」
「もう大丈夫だ」
「でもシルヴィア、血が…」
「ああこれか、ちょっと待ってな」
そう言ってシルヴィアは魔法を唱える。
「〖クリーン洗浄〗」
シルヴィアを水と泡が包み込む。
そして物の数秒で、
「はい、終了」
頭から浴びた返り血が綺麗になくなり元の姿になっていた。
「すごいすごい!」
目を見開きながら驚くローズ。
「はは、そうか。とりあえず飯にしょう」
倒れている『キラーベア』に向かって、
「〖解体〗」
と言うと。
血、内臓、皮、骨など細かく解体されていった。
「さて、少し時間がかかるから肉だけ取ってと」
やっぱやわらいなこいつの肉は。
「何にしようかな…そうだ、村の人からもらった四角いパンがあったな」
そう言うとアイテムを収納していた魔法袋の中から机と調理器具を出した。
「こいつがあってよかったなぁ、金も素材もこの中に入れていたから、あのジジイの目を盗んでくすねていてよかった…」
「シルヴィア、なにつくるの?」
興味が湧いたのか近づいてくるローズ。
「ん、これか?これはな、俺の知り合いがよく作ってくれたサンドイッチって料理だ」
「さんどいっち?」
話しつつも調理を進めるシルヴィア。
「簡単に説明すると、パンとパンの間に肉とか野菜を挟んで食べるものだな」
「ふぇ~」
想像がついてないな多分。
「お、肉も焼けたし。これを野菜と一緒に挟んでと…、完成だ」
「おお!」
「召し上がれ」
ローズに出来立てのサンドイッチを渡す。
「いただきます!」
口を大きく開け、サンドイッチをほおばるローズ。
「・・・・・」
しばらく間を開け、口を開く。
「おいしい!」
満面の笑みでこちらを向く。
「そうか、まだあるからゆっくり食べるといい」
ローズの頭をなでながらそう言う。
「ここに認識疎外の粉を撒いておくから安心するといい」
「どこかいくの?」
「トイレだよ。すぐ戻る、待ってなさい」
「うん!」
いい子だ。
ローズがいたところから少し離れたところで、シルヴィアは何もない草原に向けて言い放った。
「なにかようか?」
「ほう、ガキのくせによくわかったじゃないか」
黒いマントを羽織った男が現れる。
「〖インビジブル透明化〗か…」
シルヴィア自身に見覚えがあるこの魔法。
自らを透明にし周囲に溶け込むことができ、暗殺者などはよくこの魔法を使う。
だが俺に殺される覚えなどないな、ということは…。
「人攫いか」
「大したものだ」
そりゃこんなことするやつは、お前らみたいなやつしかいないだろ。
「それじゃあガキ、お前とあの赤毛は高く売れそうだから連れて行くぞ」
ローズもか、これは心底胸糞悪い。
「断る」
「では、力づくで!」
来る!
男がナイフを3本投げてきた。
あの刃先の色、毒か。
「よっと」
1本目は避ける。
「それでこれはお返しだ!」
つづく2,3本目のナイフの柄をつかみ投げ返す。
「ふん」
あっさりと避けられたが、仕方がない。
「ちなみにあれ戻ってくるよ?」
「な!?」
先ほどシルヴィアが投げたナイフが男の肩をかすめる。
「くっ…」
首を狙ったんだが…よく避けたな。
だけど、
「よく効いてるそうだね、そちらさんの毒は」
「ちぃぃ!」
「おおっと、解毒薬ならこちらだよ」
「な、なぜそれを」
腰に手を当てる男。
「ポケットにものをしまうようじゃ一流とは言えないな」
そう言うシルヴィアの手には青い色をした解毒薬が握られていた。
「そ、それをよこせぇぇ!」
毒に侵されているにもかかわらず新たに腰からナイフを取り襲い掛かる男。
「見苦しい」
シルヴィアは〖縮地〗で男の背後に回り込み軽く手刀をお見舞いする。
やはり体は変わっても動きは染みついているもんだな。
「あう…」
意識を失い地面に倒れる男。
「つまらん…」
400年前の暗殺者はと言へば何百人返り討ちにしたかな…。みんな似たような手ばっかしてきて面白みのかけらもないんだよな。
あ、でも一人いたな。俺の目元に傷をつけた男が…。
「と、時間かけすぎた。早くローズのところに戻らないとな」
倒れている男を放って置き、そそくさとこの場を後にする。
ローズがいた場所へと戻る途中、シルヴィアは寄り道をしていた。
「〖地図〗を見たところここら辺に…お、あったあった」
木々の隙間から見えるのは2台の馬車だった。
片方は小奇麗な馬車、もう片方は鉄格子付きの薄汚い馬車だった。
「やっぱりか」
謎だったんだよな、路地裏とかだったら人攫いがいるのがわかるが、なんであんな遮蔽物のない場所で襲おうと思ったのか。
大方ついでに2人攫って来いとでも命令されたんだろう。
「ま、この対価は払ってもらうけどな」
とりあえず全員気絶。その後、目ぼしい奴隷を掻っ攫う。
え、盗賊?…人助けだよ。
「それじゃ行きますか」
馬車の方へと駆け寄っていくシルヴィア。
「キャー、助けてー!」
渾身の演技をかます。
「ん?何者だ!」
馬車を守っていた傭兵が警戒する。
「あ、あちらからモンスターの集団が…」
「そこで止まれ!」
こちらの呼びかけに強く反応する傭兵。
すると小奇麗な方の馬車の中から、
「騒々しいぞ!」
豚もとい少し太った男が中から出てきた。
「人がくつろいでいるというのに、なんだ?」
「はっ!突然、あちらからこの女が出てきまして」
シルヴィアが出てきた場所を指さす。
「ふむ…、ほう」
シルヴィアを舐めまわすように見る豚。
気持ち悪い。
おっと、あぶないあぶない。思わず本音が出るところだった。
「貴族様ですか?」
「ん?ああ、私はユークリッドというものだ。それでお嬢ちゃん、モンスターがなんだって?」
「は、はい。村がモンスターに襲われて…命からがら逃げてきたところで。うぅ…」
ウソ泣きはお手の物。
「おお、それは可哀そうに…どれ、馬車で休んでいるといい」
チョロいな。まさかこんな簡単にいくとは。
「おいお前たち、数人を残してその村へモンスター退治に行け」
「し、しかし」
「いいから行け!」
傭兵たちに命令するユークリッド。
「さ、乗って乗って」
シルヴィアに馬車に乗るよう急かす。
「失礼します…」
ユークリッドはシルヴィアが馬車に乗ったと同時に馬車内のカーテンを閉める。
「お嬢ちゃんこれをつけてごらん」
煌びやかに輝くブレスレットを渡してくる。
「はい」
て、これアレだよな。
ガチャンッ!
シルヴィアの腕のサイズに合うように縮まった。
「やったぞー!銀髪幼女だ!」
デスヨネー
「ふははは!お前は今から俺のもの____」
「ふん!」
バキ…と、音を立てて壊れる。
「な、なんで…」
「おっと、静かにしな豚」
喉元へ指を突き付ける。
「おっと子供だからって侮るなよ。ここから少し動かせばお前の首が裂けるぜ」
「ひぃぃぃ!」
突きつけた時かすったのか、豚の首から血が垂れる。
「要求は一つだ。あちらの馬車に乗っている奴隷を一人寄越せ」
「わ、わかったからこの手をどかしてくれ!」
「その前に〖契約〗だ。商人のお前ならこれくらい知っているだろう」
「どこでその魔法を…」
「ほら、さっさとしろ」
「はい…」
そう言って豚と契約した。
内容としては、こちらを追わないこと。それと、この先にある国の情勢についてだ。
前者は当然だとして問題は後者だ。
400年以上経っているといっても、俺はその国を度々出禁になっているからだ。
そんなことはさておき…
「ほ~、より取り見取りではないか~」
〖契約〗を済ましたところで豚は馬車の中で子を失ってもらった。
ついでに奴隷のリストももらったので目ぼしいやつを探していく。
あの豚…幼い女しかいないじゃないか。
「とりあえず実物を見て決めるか」
周囲には数名しか傭兵が残っていないので、ちゃっちゃと眠らす。
おんぼろの馬車の扉を開く。
「おい、そことそこのやつ」
「わ、私たちですか?」
指をさして呼んだのは双子であろう姉妹だった。
「そうだ、お前たちだ。それ以外のやつは逃げようが構わのぞ」
「「やった、逃げれる!」」
ほとんどのものが口をそろえて言う。
「これは少ないが餞別だ、みんなに配って置け」
「え、あ、ありがとう」
中でも年齢が一番高そうな女に金を渡す。
死なれたら夢に出てきそうだしな…
「さて、お前たち、家族は欲しくないか?」
「「え、いりませんけど」」
そんな曇りなき眼で…しかも、ハモリ付きで。
「どうせあなたも、捨ててしまうのよ」
「どうせあなたも気味悪がるのよ」
「「この眼を」」
ど、独特な話し方だな。しかし、
「綺麗だな」
「「っ!」」
顔を赤らめる双子。
「気持ち悪くないの?」
「不気味じゃないの?」
「なんで?綺麗じゃないか。紫色の目と緑色の目…どちらも美しい」
「「私たちは奴隷として肉壁になることしかできません。剣を振ったり、魔法を放ったりなどは…」」
「それに、魔法の才能があるといわれるのは目に色が宿ることだ。だからお前たちはきっとその才能を開花することができ
る」
双子の前に両手を差し出す。
「うちに一人、ローズという子がいるんだ。歳はお前たちとさほど変わらないくらいだ。その子と一緒に勇者になってみないか?」
「「は?」」
あ、変な奴だと思われたかな…
「変わった人ですね」
「そうですね」
「え?」
「「面白そうです、私たちを連れて行ってください」」
シルヴィアの前でひざまずく双子。
「よし。それでなんだけど、名前を教えてもらえるか?」
「私がリグです」
紫色の髪と片方が黒い目、そしてもう片方が紫色の目の少女が答える。
「私がレグです」
緑色の髪と片方が黒い目、そしてもう片方が緑色の目の少女が答える。
「「二人合わせてリグレグです」」
なにその計画していたような言い方は・・・
「う、うん。俺はシルヴィア、これからよろしく!リグ、レグ」
「「はい、ご主人様」」
リグとレグを連れて、ローズのいるところまで戻ったシルヴィア。
「もー!おーそーいー!」
シルヴィアが戻ってくるまでの間、地面に絵をかいたり花を集めたりと一人で遊んでいたローズに怒られるシルヴィア。
「ごめんてローズ…」
「ふんだ!」
そっぽを向くローズ。
「ほら、今日は新しい家族を連れてきたから」
「「初めまして、お嬢様」」
ローズに向かってお辞儀をするリグとレグ。
「わー!かわいい!」
先ほどまでの不機嫌さがどこかへ行ってしまった。
機嫌が直ってよかったよかった。
「とりあえず自己紹介は飯のときにしよう。ローズ机の準備を」
「うん!」
机を取り出してもらおうと、ローズに魔法袋を渡しかけた時、
「「ここは私たちが」」
リグとレグが魔法袋を手に取り、机を出し、さらには椅子まで並べる。
「使い方知っているのか…」
「「もちろんです」」
「そのなかに調理器具も入ってる___」
「「本当ですか!」」
そろいすぎだよ君たち。
「あと肉とかの食材も___」
「ありがとうございます。リグやるわよ」
「ええ、お姉さま」
目にも止まらの手際の良さで品ができていく。
その晩、ちょっとしたパーティーみたいな夕食となった。