始まり
はるか昔、若くして最強の名を手にした男がいた。
各地を転々とひたすら戦いに明けくれていた。
そう、男は暇だった。
その暇を紛らすために、各国を相手に喧嘩を売り、壊滅状態にした。
また、男は魔族の王に喧嘩を売り、魔界を滅ぼしかけた。
さらには天界の女神にまで喧嘩を売り、見るも無残な姿にした。
当然、この男に神は黙っていなかった。
人間の、魔族の、女神族の各種族の祈りを受け取った神は男を生まれ変わらすため、禁忌を犯した。
本来は肉体が生命活動を停止した状態から魂を取り出し、そこから輪廻へと旅出させるはずなのだが…。
男はなぜか死ななかった。
神の雷に打たれようと、魔界の炎に燃やされようが死ななかった。
そこで神は男の魂を肉体から直接引き離した。
そしてその魂に呪いをかけ檻の中に入れた。
「汝の魂は脆く。呪い、苦痛に侵されやすく。自慢の腕力が皆無な生娘になった」
檻の中でフワフワと漂っている魂に神が告げる
「しばらくの間己のしでかしたこと罪を受け入れ、頭を冷やすがよい」」
呪術が書かれた紐が厳重にまかれる。
この神の神罰により男は深い眠りにつくのであった。
・・・・あれから400年後・・・・
「おい、起きろ」
「ん?あ~あんたか」
俺が向いた先にはこの暇地獄に落とした神だった。
「我に向かってそのような態度をとるとは…なんとも怠惰なことだな」
「いやいやだってそりゃあ、こんな檻の中に入れられて、やることがあんのか?」
「それがお主への罰だからな」
ちっ、いつか首から下を消し飛ばしてやる。
「聞こえとるぞ」
「うわ、じじぃの耳は恐ろしいね~」
こんな奴と話すくらいなら脱出の計画でも立てといたほうがましだな。
そんなことを思い、また眠りにつこうとしたとき。
「お主ここから出たくないか?」
意図していない言葉が出てきた。
「なんで?」
「質問を質問で返すな。さっさと答えろ」
「まぁ、出れるなら出たいな。そんなことわざわざ言いに来なくたって勝手に出るつもりだったがな」
「バカ者、そんなことをすれば我直々に処分を下すわい」
神の両手から青色の火花がバチバチと音を立てている。
あれくらうと動けないんだよなぁ…。
「話がそれたな」
コホンと咳払いをする。
「なぜこんなことを聞いたかというとな。魔族の王の勢力が他の種族と交わしていたはずの条約を破り続けているのだ。」
「そいつはあれか、俺のことをここに閉じ込めるようお前に頼んだやつか?」
「ああそうだ。400年前にお主に魔界を滅ぼしかけられたものだ」
ほう?俺の暇つぶしを邪魔してくれたやつね~。
男の周りが歪む。目の錯覚などではなく空間そのものが歪んでいた。
直後
「ふん!!」
雷を帯びた巨大な拳が男の入った檻を殴りつける。
「がぁぁぁぁぁっ!」
「頭を冷やせと言っていただろ」
黒焦げになった男を見て神は言う。
「復讐は何も生まん、馬鹿者が」
「また説教か」
「ん!?」
いやーじじぃの驚く顔は傑作だな。
と…こんなことしている場合じゃなかった。
「おい、用件はなんだったんだ?」
「うむ、端的に言うと魔族の王に対抗できる勇者をお主に育ててもらおうと思ってな」
「はぁ?俺が直接行けばいい話じゃないのかよ」
「お前が行くとほんとに壊滅させるだろ」
ですよねー。
思惑が見透かされたことに俺はそっぽを向いた。
「そうじゃな…5人勇者を育てることが条件としよう」
「育てるってどこまで?」
「成人までとしよう」
「人選は?」
「お主が選べ」
適当かよ!!!
「まぁそんなことでいいならやってやるよ。ほら、さっさと下界へ下ろしてくれ」
「下界に行く転移台はそこにある。しかし、その態度を更生させるべきだったか…言っておくが———」
「そんじゃあなー!」
「あやつめ!」
こうして俺は勇者を育てに下界に行くことになったのだ。