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3食目2皿

「よし、早速行こうぜ!」


 後先考えずに、ドワッコが“パラスアームズ”に乗り込もうとする。


「まぁ、待てって。俺もその意見には賛成だ。けどな、まずは買い物だ」


 装着すること自体は予定通りだが、そのまま飯屋に突っ走られても困るので止めた。


 伝え忘れていた事は確かだ。昨夜の内に話しておけばマシだったかもしれない。


「銃弾くらいだろ、欲しいものって」


「良くて、“メディカルキット”と“パラスツール”を買い足したいぐらいですか?」


 武具の『タクティカル』枠のアイテムは他にもあるらしく、二人は新しく購入する気がないらしい。


 以前にも使ったスモークグレネードなどのことで、その名の通り戦術面で大きな役割を持つ。


(こういうところはまだまだ、だな)


 『タクティカル』枠のアイテムは基本的に使い捨てのため、安く買える上にイベントでも手に入る。


 けれど、イベント配布されるのは大抵が擲弾(グレネード)の類である。効果時間の短さや単純さから、特定の職業を選ばなければ効率が良くない。


 一人で複数を扱えないアイテムである以上、どうしても戦略的価値が低くなる。


 それの講義を始めると一時間ほどが吹き飛ぶので止めておく。


「治療用アイテムはポーション屋で、補修材は“パラスアームズ”の専門店。俺は武具店にも寄りたい」


 なぜ総合デパートのようなものを造らないのかと、ザ・カシは購入予定のものを頭に並べながら溜め息を吐く。


 理由がわかっているからこそ、運営に対してサポートを求めないし、誰も造ろうとしない。


「商業区で揃うとは言っても、端から端まで歩くのは骨だよな」


「仕方ありませんよ。“異星(この星)Chalice-0”の住民のことを思えばこそ、通商的な介入は限定しなければ」


 ドワッコの愚痴に、筋肉まんとうが答えた。


 土地や法律の面でも、文明としては未だに原始的と言える。


 原始人とまでは言わないまでも、バイキングくらいまでにデパートを与えて上手く運営されるわけがない。


 古代ローマ人くらいの秩序がなければ難しいだろうと思う。


人間(ヒューマン)が手を出しすぎると、成長の余地がなくなるんだっけ? 良くて中世ぐらいの文明がないと、逆に堕落するかもな」


「頼り切ってしまっては、誰しもダメになってしまいますからね。僕達は、言ってしまえばまだ非政府組織(NGO)とか平和維持活動団体(PKO)みたいなものだと思った方が良いでしょう」


 ザ・カシが続いて問う。


 筋肉まんとうは、ある程度わかりやすく説明してくれる。


 言ってしまえば、コンピュータの使い方を知らない子供にそれを渡しても遊び道具になるだけだ。使い方がわかっているなら、有意義に利用できる。


 そういうことだ。


「宝の持ち腐れになるってことか。けど、それを教えると今度はバカになるって……ずいぶんと厄介だな」


 ドワッコは呆れ顔をする。


「星に棲む種族の知能が、そこまで低いというわけではないんですけどね」


「まぁ、一番の問題は各々の種族が一つにまとまらないってところか」


「あ、やっぱり?」


 三人で顔を見合わせ、ヒソヒソと本質に触れる話をする。


 プレイヤ達はある理由から仲良く目的を果たそうとしているが、生憎と星全体で言えば各種族はいがみ合っている。


 ケンカしている種族を、一つの建物に突っ込んだらどうなることか。


「この町だって、表向きは平和だけど裏じゃ剣呑な空気がなぁ」


 第一周辺活動拠点(コロニー)だけに限った話ではないが。


 “ヒューマン”を中心になんとかまとまって、もしくは雇われて町を運営している。種族が各自で営むなら、なんとかヒビ割れずに済むというわけだ。


 そんな状態のため、自治としては“ヒューマン”が指揮しなければガタガタだ。


「厄介なことに、あぁいう輩がいるわけだ」


 法が整備されていないのを良いことに、悪事を企む奴らもいる。


 それを証明するかのように、ザ・カシの視線の先に二人組の男が佇む。彼らもコソコソ裏路地で、何かを相談中のようだ。


「純正品ってぇのは本当か?」


「あぁ、下手な裏物じゃないぜ」


 それを見聞きして、ドワッコが誰ともなく訊ねる。


「なぁにやってんだろな、あれ?」


 答えたのはザ・カシ。


「おおかた、電子ドラッグのやり取りしてんでしょ」


 ゲーム内で電脳用の麻薬を売り買いすることはたまにあるらしいと聞き及んでいた。


 当然、ドラッグの取引は違法な上、ゲーム運営がアカウントを削除するだけの理由になる。


 知る限りで、アカウント停止処分になったという話は聞かないが。


(ゲームの攻略さえ上げられないからって、噂まで聞こえないってことはないと思うけどなぁ……?)


 そう考えている間に、男達は薄暗闇の中へと消えていった。


「『中央警備隊』に通報しなくて良かったのか?」


 犯罪者を見逃したことに、ドワッコはやや憤慨した様子で聞く。


 好きなゲームを(けが)されそうだというのに、ザ・カシが何も行動しないのがおかしいと思ったのだ。


「ほっとけ、ここの運営はなぜか悪評に強いんだ」


 『副王エレクトロニカル』は、薬の売買があったくらいで揺らぐ会社ではない。


「そういう問題か?」


「素人目での判断は危険だし、あんなに怪しい動きをしているようじゃ直ぐに捕まるさ」


 トーシローに感づかれる程度では、大したことはやっていないだろうという。


 憶測を述べるのも憚られるので、黙っているが。


「あぁ、確かにバーチャルセック」「わぁぁぁぁぁぁッッ!!」


 しかし、察したドワッコが口を滑らせてしまった。


 ザ・カシが声を上げてなんとか封じる。


「な、なんだよッ……。そんな大声出したら驚くだろ。注目されて恥ずかしいし……」


「いやいや、倫理セキュリティがあるからって、迂闊にそんなこと言っちゃダメじゃないですかッ!」


 これには、珍しく筋肉まんとうが声を荒げる。


 聞く人によってはピーピー音が流れて隠されるのだが、ガールフレンドである女の子の口からはそのノイズを聞きたくない。男とは、幻想を追い求める生物だとも聞く。


 いや、もちろん時と場合と場所もある。


「なんだよ、これぐらいはいつも筋肉まんとうも言ってるじゃんか」


「僕だってTPOは守りますッ。それに、聞かれる相手がどうであるかによって違いがあるんですよ……」


 筋肉まんとうは、その日焼けした肌(テクスチャ)にもわかるくらいに顔を赤くして説明していく。


「親しい者同士なら、冗談やコミュニケーションの一環です! しかし、赤の他人に聞かれるということはズボンの中にある(その)を見せるのと同じくらい恥ずべきことです!」


「……あ、あぁ。うん」


 声を潜めながらも、必死になる大男の姿を見て、ドワッコも申し訳ないと思い始めているようだ。


 もう少しわかりやすく言うと、「誘っているのか?」とか言われる言動である。


「僕は貴女のことを大事に思っているのです! だからッ……」「わ、わかった! もうわかったから、ごめんってば……」


 唐突に始まるラブロマンス。


 ドワッコもこれには折れるしかないようで、ボーイフレンドを宥めて謝る。


「あ……うん、わかってくれれば良いんだ。バーチャルで大丈夫ってだけで、それの良し悪しを言っているわけじゃないんですよ。そこはよろしくお願いします」


 二人の会話を聞いて、ザ・カシは察する。


(なるほど、そういうことか)


 デートの帰りが早いのは、仮想体験を利用した行為で事足りるからだ。お金のない学生には、とてもお手軽と言える。


 筋肉まんとうがそれを使っているかは別として、人間の脳がネットワークとつながった利便性の弊害だ。


 ドワッコにとってそれが逆に、知らず知らずの内にストレスとなっているのだろう。


 ちょっと可愛そうだと感じる。


「なんだよ、その顔は……」


 ザ・カシの気付きが顔に出てしまったらしく、いつもの半眼睨みが繰り出される。


 もちろん受け流す(パリィ)


「いえ、なんでもないですよー。我慢は体にも心にも毒なんだなってだけの話さ~」


「ぐぬぬ……」


 これには妹も追撃不可能だ。


 しかし、このままだと機嫌が直らないため、好きそうな話題を振ることにする。


「まぁ、まぁ。今日の夕飯はどうするよ? 今日、特売だった材料でなら好きなもので良いぞ」


 言って、特売で買った食材を説明していった。

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