6食目6皿
マタンゴをそのまま5倍ぐらいまで肥大化させたような奴が、C-1区画の真ん中あたりに生えていた。
巨大になった所為か、口と思しき割れ目が縦にクパァと開いて見える。
極め付きの悪趣味さが、第一周辺活動拠点が初心者に受けない理由である。
ザ・カシ達は壁の脇に隠れて、様子を伺いながら話し合いをする。ライトの明かりなどで気付かれていたかもしれないが、出無精なのか動き出さない。
声はそれほど抑えずとも、チーム用の耳打ちモードにすれば大丈夫だったりする。たまにそれらを忘れて、普通にコソコソしてしまうのはご愛嬌である。
「何だ、ありゃ……? マジでキメぇんだけど……?」
ドワッコもこれには困惑を隠さずザ・カシに訊ねた。冗談などを抜きにした、本気の雑言だとわかった。
確かに、先述の通り誰が見ても巨大マタンゴのビジュアルは最低だった。
しかし、それに反して手足が金色に包まれているという最良の状態でもあった。
「これは、マタンゴの名前ありだろうな。しかも、ゴールドの奴だ」
「金の玉でもなんでも良いけどよ、勝てんの?」
「そういうこと言うの止めなさい……。金だから耐熱耐寒がある所為で倒し辛いけど、イージー、イージー。こんなのイージーさ」
続く問いに、いつも通りの強がりを返した。
相変わらずの発言を諌めようとしたが、そちらは聞いていない様子なので諦めた。
「オッケー。ならザ・カシに任せたぜ」
作戦もこれまでと同様に、全面的に従うと言った。
他の皆も、うなずいてその意思を示す。
ゴールドのマタンゴで、更にネームドともなると勝てないことは無いが面倒くさい相手である。戦術を任せるというのは重責を背負うのと同じだ。
「ドワッコ、俺のサポートをッ。筋肉はマリアのカバーに入ってくれ。三人でパソペの守りと雑魚の掃除だ」
ザ・カシは直ぐにチームメンバーへ指示を出した。
武器欄から閃光手榴弾を取り出し、マタンゴ達が動き出すギリギリまで歩み寄っていく。
ピクリッ。
小さなマタンゴが僅かに動きを見せると、後ろをついてくる仲間達に最後の指示を与える。
「3カウントで行くぞ」
「了解」「了解です」「わかったのん」「がんばりますッ」「皆、頑張って」
返事を聞くと同時に、ザ・カシは手近なマタンゴと接敵した。
2D視点に換わった直ぐに、部屋に向けてスチールの円筒を投げ込んだ。瞬間的に室内を眩い光が満たし、爆発音がバーンッと地下を揺らす。
「ッ!?」「ッ!?」「ッ!?」「ッ!?」「ッ!?」「ッ!?」「ッ!?」
少し離れた位置で目を閉じていたザ・カシ達とは違い、突然のことにマタンゴ達は戸惑うことしかできなかった。
視聴覚が地上の生物よりも弱いマタンゴ達ではあるが、閃光手榴弾が彩る光と音の共演に5秒は反応が遅れてしまう。
こういう時に閃光手榴弾があると先制が取れて、本当に楽だ。五人は一斉に部屋へと駆け込んで左右へ隊列を展開した。
数秒の硬直が、全てを決定づける。
「ギノッ? ギノォ!?」
閃光手榴弾の拘束から逃れたネームドマタンゴが、周囲を見渡せば半数以上の仲間が倒れていた。
その状況を作り出したのは、紛れもなく奴らだ。眼の前にいる、五体の人間と呼ぶべき生物。
「ギネェェェェェェェッ!!」
死ねと、怒り任せにザ・カシ達へと向かって突進を繰り出した。
筋肉まんとう達は通路へと避難して事なきを得る。
「危ないですね……。ザ・カシッ? ドワッコッ?」
「ゴゴズゥッ!」
「アッ……いや、クソッ……」
部屋に取り残された二人の安否を心配するが、ネームドマタンゴが追いかけるように動いたため一時は安堵した。続けて通路へとなだれ込んでくる通常マタンゴ達の対応に追われることとなった。
コロス、コロスと喚き散らし唾を吐き捨て、その粘菌に覆われた体でザ・カシ達へ追いすがる。
決して早くない移動な上に菌床の壁でも防げるため、行き止まりのC-1区画でも追いつかれるということはない。
金の“パラスダイト”と共生しているので、本来の弱点である『火炎弾』が物理弾と変わらぬ威力となる。それとネームドによる特性を除けば大した敵ではなかった。
名前[ダケクナカ] 種族[] 職業[] ARM[]
TEC[3]+[2]+[0]+[1]
SPE[1]+[1]+[]+[1]
INT[2]+[0]+[]+[2]
SAN[2]+[2]+[0]+[1]
H.P[56/100]
A.P[32/60]
MWE[]
SWE[なし]
MEL[]
TAC[]
BUL[]
S.F[]
ABN[自然治癒]
SPC[]
BLD[]
そんな状況が油断を呼び、調子に乗ったドワッコは周囲への警戒を怠ってしまう。
「馬鹿の一つ覚えみたいに突進ばかりしやがって……」
「キィノォコォ」
「なッ!? 離しやがれ!」
突進を避けようとした瞬間、ガクッと重力が強まったように地面へ引き戻された。
足に通常マタンゴがしがみついていたのだ。
そして、ネームドマタンゴ改めダケクナカもワンパターンな行動ばかりではない。なんとかマタンゴを処理したドワッコを、ただ吹き飛ばすだけでは足りないと掴み上げたのである。
「ドワッコ!」
「クソッ……! 息臭いんだよッ!」
ザ・カシも火炎弾で雑魚を掃討しながら、妹を解放しようとダケクナカの背中であろう部分へ攻撃を加える。
「ギギノノゴゴゴゴッ!!」
ダメージをそれなりに与えていても、ドワッコを絞め上げる手は緩まなかった。
ドワッコも、僅かな残弾で戒めを解く方法を考える。
「グァッ! ち、ちくしょぉ……」
か細く息を漏らしながらも、U.Iを操作して武器欄のスモークグレネードを取り出した。
壁に叩きつけられ、見る見る内にA.PとH.Pを減らしていく中で取った苦肉の策。円筒をダケクナカの口へと投げ込む。
「汚物の消毒と消臭にゃちょうど良いだろ」
口腔へと落ちる前に、銃弾と同時に言い放った。
火炎と煙が眼前で炸裂する。
これにはたまらず、ドワッコを投げ出して顔を覆った。
「大丈夫かッ?」
「もんだい、ねぇ! トドメだ!」
盛大に転がって行ったものの、ザ・カシに返す言葉はいつもと変わらぬ声音だった。
一瞬の安堵を見せるが、直ぐに気を引き締めてダケクナカに火炎弾の接射を食らわせる。
ズズズゥゥンッと巨体が汚水に沈む頃、ザ・カシは肩で大きく呼吸して佇んでいた。直ぐにドワッコの元へと駆けつけた。
続々と他の四人もやってくる。
「なんともないか、ドワッコ? 皆は?」
「私は、なんとか大丈夫だよ。何度も言わせんな、バカッ。まぁ、“パラスアームズ”は動かせないぐれぇにやっちまったけど」
ザ・カシの安否確認に生意気に言い返すドワッコ。
全員のステータス表示を見れば、大したダメージを負っていないことがわかる。ドワッコのA.P表示が0だということを除けば。
「……やらかしたなぁ」




