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6食目5皿

 マリアの問いに対して、ザ・カシは明確な答えを持ち合わせていなかった。


 このゲームを知り尽くしているなどと言う割に、役に立たないと言われそうだ。


「そこまでは知らないな。流石にNPCの考えること全部は無理だ」


「そうなん……。自身ありげにリーダー役をやっている割に、深くは考えないんね」


「耳が痛いお言葉だな。まぁ、少しぐらいは予想も立つけど」


「なんなん。ヒントがあるのなら言って欲しんよ」


 ザ・カシは別にとぼけているわけではなかったが、それを確かめる術がなかった。また、それを知るのが怖いというのもあった。


 怪しむマリアを差し置いて考えるのは保身。


 せがまれたところでこればかりは譲れない。


(あの人を相手に、何かを探ろうって気は起きないんだよなぁ……)


 思い出しせば出すほど、ザ・カシさえ身震いしてしまうような人物なのである。


「『第一コロニー管理局999(スリーナイン)』の主任【セリフェ】……奴を知ってるらあんたも、可能な限り触れたくないのは同じだろ?」


「そ、それはそうなのん……」


 ドワッコもそれに便乗してきた。


 引きつった笑顔にマリアも、何かただならぬ事態を思い出して口を閉ざす。多分、彼女の場合はマシな方だったのだろう。


 誰がどんな表情をすれば危険なのか、徐々にわかってきた様子だ。


 そうしている間にカールもログインしてきた。


「すみません。お待たせしました」


 光の粒子が人型を作って行き、アセアセというオノマトペが聞こえてきそうな様子で少女が現れる。


「いや、大丈夫なんよ。次はB-2やんね」


「う、うん……」


 カールに答えて、マリアも歩を進めた。


 後ろをついていく姿がどこかぎこちなく感じるが、あんなことの後では色々と考えてしまうだろう。間違いではないはずなので誰もが口を閉ざしているが。


 今度は皆、頭上にも気を使う。


 来た道を戻り三叉に分かれる内のもう一方へと入って、途中の横道からB区画へ。


 この区画は3部屋にしか分割されておらず、一周回ってB-3に出ていく構造になっている。B-2は居住区が立ち並ぶ地域の真下で、温水の他に側溝から光が漏れてくる。とてもキノコが成長しやすいのだ。


「あれ……? 鍵なんて掛かってなかったはずだぞ?」


 目的の地点へ到着しようとしたところで、ザ・カシがやや驚きを含んで言った。


 B-2区画へと入る手前の通路に、中型以上の生物を通さないための格子がある。今までであれば、扉になっている部分は丸型のドアノブが付いているだけだ。


 しかし今は、扉を固定するように鎖と南京錠が取り付けられている。


「あ、ごめんザにぃ……。ソルねぇ、危ない言う。鍵掛けた。忘れてたごめん……」


 原因を思い出したパソペが、説明をして二度謝った。


「いや、まぁ、大丈夫だ。なんとかするよ」


 酷く申し訳なさそうにするので、気負いしないようザ・カシは微笑んで答えた。


 しかし、言ったはもののどうするべきか思案する。


「ぶち壊せば済むだろ?」


 ドワッコは言った。


 その通りで、ちょっとした攻撃を加えれば“パラスアームズ”の膂力なら容易く破壊できる。少し頑張れば引きちぎることもできるだろう。


(わざわざパソペ達のために取り付けた鍵を、壊したままにするっていうのはどうも……)


 飲み込めないものを抱え、ザ・カシはダイヤル錠と睨めっこを続けた。


 0~9の10桁を六つ並べて開くもののようで、一つずつ揃えて試すなどという方法は冗長である。


「10の6乗なんて、百万通りもあるから手探りでは現実的じゃないんよ。確か、途中の落書きに六つくらいの数字は書かれてた気がするん。けど……」


 アリアが横から口を出してきた。


 言われてみれば、それらしき羅列がパソペ達の住処前に見られた気がしてくる。


 ただ、それを頼りに戻れば時間に余裕が無くなってしまうだろう。外れていたときのロスを嫌うか否か。


 六桁ともなるとパッと見で覚えられるものではなく、保証すらない状態だった。だからと言って、この区画を無視して進んでもセリフェの怒りを買うことになる。指定された時間も刻々と近づいてきている。


 そこで救いの手を差し伸べたのが、カールだった。


「142857ですか?」


「は?」


 またしても横からの口出しに、ザ・カシは素っ頓狂な声を上げてしまった。


「えっと、ですから。その描かれていた数字は、いち、よん、にー、はち、ごー、なな、でした。独立して書かれていたので、なんとなく」


 なぜそんなことまで覚えているのかといった疑問は出てこなかった。カールが、暗記科目は得意だと言っていたのを思い出した。


 ザ・カシはハッとなって忘れない内にダイヤルを合せる。


 重機の太い指でありながら、器用に十センチ四方くらいの錠を弄る。


「いち」「いち」


 隣に並び、ザ・カシの呟く言葉をカールが繰り返してくれた。


「よん、にー……」「よん、にー」


 別に間違えたからといって何が起こるわけでもないのに、なぜか緊張してしまった。


「はち、ごー、ななッ」「はち、ごー、なな。はい」


 番号を揃えたところで、つなぎ目の部分がカチャリと別れた。


 鎖をジャラジャラ取り外したら格子戸を開いて進む。数メートルほど先に大きな部屋が一つあって、マタンゴ達が所狭しと犇めいている。


「キィー!」「ノッ!」「ゴォォォォォォォォッ!」


 人間がやってきたことにそいつらは嬉々として、なんの躊躇(ためら)いもなくザ・カシ達へと飛びかかってきた。最初の1~2分の間は、マタンゴ達も大量の獲物に喜び勇んでいた。


 ハラカラ(同胞)が二十ほど倒れたあたりで漸く、自分達の相手にしている敵がただの苗床(・・)ではないことに気づいたのだろう。


 逃げ出しはしなかった。なんとか、一矢報いようと向かってきてくれた。


 後ろの道も鉄格子で塞がれているのを知っていたのかもしれない。ここで退けば、倒れていった仲間達に会わせる顔がないと思ったのかもしれない。


 いずれにせよ、お終いだった。


「たぁッ!」


 カールは声を上げた。


 ドンッ、ドンッ、ドンッ。


 ショットガンを数発放ち、飛び掛かってきたキノコを蜂の巣にする。


 集団相手に少なからず気後れしていた様子だが、奇襲でもなければ正面からくる敵を処理することはできるようだ。


(うんうん、結構やれるみたいじゃないか。ちゃんと考えた通りに処理できれば、問題ないみたいだな)


 こちらへ引き入れる前に聞いた話と、これまでの行動を見て予想した通りだった。


 もしかしたら、ザ・カシの気づいていない何かが奮い立たせていた可能性もある。ただ、言えることは一つだ。


 弱点は、予想外。


(帰ったらちゃんと後衛用に装備を整え直さないとな)


 アンバランスな状態をなくして、適所にはめ込めば実力を発揮できるタイプだとわかった。


 思案を巡らせている間に片が付き、変わらず“ラー・グリモワール”で素材などを集め終えたら次へ向かう。


「ちょっと不安になったけど、万事順調じゃねぇか!」


「そうですね。これなら問題なく今日中に終えられそうですよ」


「それは良かったのん」


「私、ちょっと頑張れてますッ」


「皆強い。パソペ安心」


 四人が各々で言いたいことを言い合った。


 調子良くことが進んでいる所為か、気持ち油断があったのかもしれない。このままC-1区画も片付いて、何事もなく依頼を完遂できるのだと。


 誰もが思っていた。


 結果だけを言えば、依頼だけは無事に終えることができた。多少の波乱万丈があったことを除けば。


 あくまで多少だ。


「あれを見て、どう思う?」


 カールは神妙な表情で問いかけた。


「凄く、デッカイのん……」


 マリアは顔を伏せつつ歯切れ悪く答えた。


 例えそれが、カールは目を回してマリアがゲンナリした表情だったとしても、そこにいる大きく反り立ったモノは多少の波乱にしか過ぎない。

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