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6食目3皿

 エレベータが底へと到達し、ゾロゾロと地下道へと足を進めた。


 まずは、石造りの大きな踊り場がある。壁も石でできており、終始半円型の通路と言った感じだ。(さび)かけのパイプが天井を這っている。


 突き当りの角を曲がると、奥に向けて二つの足場が現れる。その間を濁った水が流れる。ピチョーンと水のぶつかる音が反響する。


 ここが終点なので、流れていくと言うべきか。揺り戻しの流れは、僅かな小波(さざなみ)を生み出す。


 地下だからか、外よりは涼しく感じる。


 そう思っていると、次第にジメッとした空気が肌にまとわりついてくる。


 それでいてどこか埃っぽさを感じさせるから厄介だ。どこか精神的なプレッシャーがある。


「思ったより、臭いはきつくないのんね」


 マリアはスンスン鼻を鳴らし、地下水道の環境について感想を言う。


 汚物は薬剤により凝固されて、()され肥料用のプラントへと送られる仕組みだ。なので、ここへ流れてくる液体はほとんどが水である。これが浄水装置へと向かい、上水道として戻ってくる。


「まぁ、だからって良い匂いとは言えないけどな。浸かりたいとも思わねぇ」


 ドワッコがボヤく程度に、悪臭と呼べるものは漂っていた。


 排泄物を混ぜ合わせて薄めた臭い。動物的な嗅覚を惑わせてくるからか、ドワッコはお気に召さない様子。


「虫とかも湧いてないですね。ネズミなんかは居るみたいですけど」


「これなら、私でも大丈夫ですッ。ネズミさんくらいでは驚きませんッ」


 筋肉まんとうなら問題ないと思っていたが、割とカールも大丈夫なようで安心する。


 ジャングルの町で過ごしていて、多少の生き物にビビられても困るというものだ。


「えー、事あるごとに森の虫にてんやわんやしてたカールは可愛かったんよ」


 マリアなど、からかって遊んでいる。


「そ、それは言わない約束でしょッ」


 今から出会うキノコ怪物に比べれば、なんと微笑ましい光景だろうか。


(やれやれ……(かし)しくなったもんだ)


 それが悪いとは言わず、見守りながら先へと進み始める。


 よって、ザ・カシが最後尾だ。


「各自、レーダー確認を怠るなよ」


 U.Iから正立方体を作り出し、ライトなども準備しつつテキパキと指示をしていった。


 前を行くマリアもレーダーを表示するが、あまり頼りにしていないようだ。


「これ、いつもランダムに動くから使ってないんよ。ほとんどが前方ばっかりなのん」


「そうだよね。たまにモンスターを見つけてくれるんですけど」


 更にその前に居るカールも同意見。


 しかし、役立たず扱いするのはその仕組を理解していないからだろう。


「それはだなぁ。前ばっかり気にしてるか、敵の気配に意識が引っ張られたからだな」


「?」「どういうことなん?」


 ザ・カシの言葉に、二人が疑問を返す。


 その時、ザ・カシはカールの前を進んでいたパソペが丁字路の下方に当たる道を見ていたのに気づく。


 レーダーは進行方向に対して右にビーコンを発する。


「曲がり角、先にパソペの家族がいるんじゃないか?」


 レーダーに反応があったため、思い当たる人物を言ってみた。


「ザにぃ、凄い。母、弟、そこいる」


「なんで?」「おぉーッ」


 パソペが答えたら、マリアの驚きやカールの感心する声が響く。


「要は、使用者の意識が向いた側へビーコンを発するわけだ。人間って、本当に一箇所って場所に集中しない限り、思ったより色んなところに意識を向けてるんだよ」


 ザ・カシが解説していき、これに二人が板書でも始めそうな感じでウンウンとうなずく。


 しかし、ただただ考えなしに歩いていく人間は前しか意識しない。なまじ運転に慣れた人などがやりがちだ。


 物音がしたり、何かが目の端に映った時にそちらへ意識を向ける程度。


 今までのモンスターの発見など、偶然と言ってしまっても良いだろう。


「わかったところで、進むぞ。まずA-3区画だから……」


「こっち」


 ザ・カシの言葉に、パソペが走り出した。三叉に分かれる道を、斜めに北東へと進んで行った。


「お、おい、先に行くなってッ」


 隊列を守ろうとするドワッコが、追い抜かされないように早足で移動する。更に前を、筋肉まんとうが駆けて行った。


 後ろ姿を追いながら、パソペ達の住処の前にある通路を進む。


 子供らしいチョークによる落書きが残されており、ザ・カシっぽい絵などが並ぶ。“ヒューマン”の文字や数字もあるのは、勉強をしているからだろうか。


「頑張ってるん、ですね。あの、ザ・カシ」


「うん?」


 壁の様相を眺め、カールが何か言いたそうにする。


 恐る恐る進んでいた所為か、気付かない内にマリアが抜かしてしまっていたようだ。


「パソペ君に、歌を教えてあげて良いですか? 私、音楽が一番得意科目なんですッ」


 そこそこのものを突き出し、ちょっと自慢気なカール。


(あぁ、そう言えば職業は『吟遊詩人(バード)』だったか。道理で)


 カールは割と、自分のことを隠すなどしない。そういうところが可愛いと言えば可愛い。


 とりあえず、頼み事の答えについては決まっている。


「構わないぞ。別に俺が世話してるわけじゃないから、そのあたりは時間がある時に好きにしな」


「ありがとうござます!」


 カールが凄く嬉しそうに言った。


 足取りが少し軽やかになった気がする。


(まだ緊張は抜けないみたいだけど、慌てさせても仕方ないか)


 隊列の崩れはそれほど問題ないため、ザ・カシは黙ったまま歩み続ける。


 町の北東をA区画として、基本的にエレベータフロアを基点に1番、2番と数字が振られている。


 パソペ達が根城にしているD区画だけは、中央の船団に繋がっていてD-12が先に来る。


「そろそろA-3だな」


「うん。そこ抜けた場所。あ……」


 地下水道の地図を頭に思い描き、パソペに訊ねるザ・カシ。


 瞬間、ライトが奥からやってくる数個の動体にシルエットを映す。同時に、レーダーのビーコンにも十個ぐらいのキノコっぽいマークが表示される。


 小さめの部屋を抜けた先で、“パラスアームズ”が二機すれ違えるぐらいの通路に固まって、こちらを待ち構えていたようだ。


 だからこそ、最後尾のザ・カシしかその違和感に気づけなかった。


「マリア! カール!」


 順番に通り抜けた三人は良いとして、ザ・カシの前を行く二人を呼んだ。


 ミシッ。


 僅かな物音に、マリアも気がついて頭上を仰ぐ。


「上から来るん! 気を……!」「ヒッ、ヒャァァァァァァァァッ!」


 言いかけた言葉を裂いて、カールの悲鳴が薄闇を揺らした。


 頭上の、パイプにぶら下がっていたマタンゴが、肩口へと降ってきたからだ。加えて、濁った水から飛び出した二体目も大腿部(ふともも)へとよじ登って行く。


「ケ、ケェケェケェー」「なぁ、ねぇちゃ、ん。キノ、コ……激しぃ」


 待ち伏せ。卑怯極まりないアンブッシュだ。


 おどおどしていたカールを、A.Iは弱いと判断して仕掛けたのだろう。


 2D視点へと切り替わる。


「は、離れて! はな、たすけ……助けてッ! マリア!」「カールッ!」


「壁に向かって体ごと叩きつけろ! マリア、足の奴を抑え込め!」


「ハッ!? コノッ! ハァ……ハァ……」


 ザ・カシが指示を飛ばし、直ぐにカールが反応した。


 ドンッと壁に肩をぶつけて、マタンゴAの身動きを封じる。重ねるようにマリアが股下に足を滑り込ませ、這い上がっていたマタンゴBをサンドイッチにする。


「お、眼ぷ……とか言ってる場合じゃねぇなッ」


 また何か不謹慎なことを言いかけたが、ドワッコもインベントリの武器欄から急ぎサブマシンガンを取り出した。


 進行方向、背後、水路からワラワラと湧いてくるマタンゴを対処する。


 筋肉まんとうもグラブを装備して近づいてくるキノコを殴り飛ばしていく。


「動くなよ!」


 ザ・カシも、カールが動かないように後ろから押さえ込み、刀を模したブレードでマタンゴAのカサを串刺しにした。


 まだピンピンしているキノコ野郎を対岸へと投げる。


「大丈夫、チッ!」「キノコォ、るよぉ……」


 しかしそこで、危険を察知したマタンゴBが先走って毒の胞子を撒き散らした。


 ザ・カシはギリギリのところで、咄嗟に飛び退いた。

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