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6食目1皿~旬の味覚? キノコ焼きはやってやれないこともなし~

 ザ・カシは、依頼について説明する。


 まったくもって依頼そのものにはあまり関わりない設定を。


「地下水道にマタンゴが巣食う原因を知ってるか?」


 ザ・カシは皆に訊ねた。


「討伐対象でしたよね? 私は知りません」「ぅんなもん知るか。ぶっ倒せば終わりだろ?」


「マタンゴ。作品によりけりだけど、マイコニド、ファンガス等の呼び名を持つモンスターなんね。まぁ、キノコの怪物なだけに暗くてジメッとした場所を好むのは自然なんよ」


「久しく聞く名前ですよね。最初の頃、少し倒した以外は関わってないですし、最近のゲームじゃ見ませんからね」


 四人が答えていくが、ドワッコあたりのは期待してなかった。


 マリアはマリアで不正解ではないまでも、聞いてもいない説明をしてくれた。


 筋肉まんとうの言う通り、最近のゲームではビジュアルが苦情の対象になるなどあって登場数を減らしている。


 問題なく登場させられる『副王エレクトロニカル』社は凄い。“マッティア”の見た目を変更しなかった意地を見るに、結構な拘りがあるのだろう。


「前から気になったが、マリアはレトロゲー好きか?」


「好きなんよ! このゲームだって、レトロゲーム(レゲー)感があったから始めたん!」


 ザ・カシが聞いた瞬間、マリアの目は輝く。


 相当、レトロゲームが大好きな様子。時折、聞き覚えのあるゲーム用語や、セリフなどを言っていたのには気づいていた。


「マリアって、たっくさん古いゲームを持ってるんですよ」


「父がやっていたものだったんよ。電脳化しても、しばらくはレゲーばっかやってたんね」


「俺も数作やったくらいだから、多くは語れないけど。まぁ、レトロ、レトロってバカにできないくらいには面白いな」


 徐々に、あれやこれやと古いゲームの話になり始めた。


 当然、ザ・カシはそれに気づいて軌道修正する。


「おっと、それはそうと、マタンゴが地下水道で繁殖する理由なんだが。確かに環境が合っているっていうのもある」


「そうそう、その話だったん。半分正解ってところなん?」


「あぁ。環境だけが理由なら、数週ごとにこんな依頼は来ない」


 依頼の内容が書かれた書類を掲げて、再度説明していく。


 わかっての通りマタンゴはキノコのモンスターである。そのため、胞子をばら撒いて繁殖(はんしょく)する。これは30度以上の環境では発芽せず、生物に付着したままとなる。


 動物であれば巣の中に持ち帰る。変に地中深くよりも、地表に近い場所や樹洞(じゅどう)なんかの方が育つのは、一定以上は光がなければキノコだって育たないからだ。


 ここまで説明すれば、言わんとすることはわかるだろう。


「キノコさん達は育ちやすい環境を探している。他の生物さんに連れて行って貰う。暑すぎたり乾燥していてもダメ。なるほど、だから地下なんですね」


「人類に運ばれた場合、外に菌床(きんしょう)を見つけられないとシャワーとかで流されて下水にたどり着くわけなんね」


「暗いとは言え、色々な要因で明かりが入るので植物は育つと」


「生活しやすい環境なのに、わざわざ地下で問題起こして人を呼ぶのは、胞子を外へ運ぶためか?」


 ワイワイと皆で答えを言い合った。


 意外にも、ドワッコが話に入り込んできている。しかも、思った以上に鋭いところに気づく。


 今回の討伐依頼は、地下水道で浄水装置を壊したり汚水を()き止めて、悪さをしているマタンゴを討伐するのが目的だ。


「ドワッコ、お前って脳筋のフリしてるだけなのか?」


「お、今バカにしただろ? どこの口が言ったんだぁ? うぅんッッ?」


 ザ・カシの迂闊な発言の結果、ドワッコにコブラツイストをかけられた。


「ウギィー! タップ! タップ! “パラスアームズ”で器用すぎるわ!」


「うるせぇぇぇぇぇぇぇッ! 土下座できる奴に言われたかねぇ!」


「フッ、フフッ……あ、すみま、フフフッ」「プッ。な、なんなんッ。貴方らおかしすぎ、ハハハハッ」


 珍しくない光景に、新入の二人から笑いが漏れた。


 今までよりも少し、打ち解けられたような気がする。


 そうしている間にも、五人は地下水道への入り口へと近づきつつあった。


「ふぅ、痛かった……。あ、ちなみにお化けキノコという呼称もあって、それもあながち間違いじゃない」


「その話、まだ続くのかよ。それで?」


 サブミッションから開放されて閑話に戻った。


 ドワッコが呆れているが、重要でこそないものの言って置かなければならないことがあった。


「奴らは菌類にも多くある、動物の死骸を基質にするタイプだ。プレイヤの場合は、H.Pが0になっても中央の船団に戻されて治療を受けるわけだが」


 ザ・カシは言葉を区切って溜めを作った。


 NPCは死ねば遺体となる。最も発育しやすい温度になった基質を、外に持ち出すのだ。


 今でこそ周辺活動拠点の付近では、火葬という概念も増えてきている。


 しかし、昔は土葬や風葬など当たり前だったために(つか)には多くのマタンゴが発生した。


「治療ってゲーム的な建前だから、下手すりゃ中央付近に増える」


「ウゲェ……」「そういうことは、触れたいけないんよッ」「ま、まぁ、ちゃんと消毒はしますよ……」


 ドワッコは、ちょっとキノコが嫌になりそうだ。


 マリアの言う通り、ゲームの大人の都合な部分にはあまり触れずに置くのが吉である。流石に、輸送船団の人達だって身を護るための手段を講じるだろう。


「ふん、ふん。なるほど、気をつけます」


 カールの返事も聞いたところで、一行は地下水道入り口の昇降路へとやってきた。


 通常の管理作業ならば、町にあるマンホールから入っていける。しかし、ザ・カシ達は重機に乗り込んでいる状態だ。


 斜面を板が昇降するタイプのエレベータが、地下へと送り届けてくれるというわけである。


 古びた発電機一基で動かせる程度の簡易な機械。


 そんなエレベータへの入り口だが、勝手に住民が出入りしないよう施錠されている。当然だ。


 そして、依頼用書類に電子鍵(キー)は同封されていた。


 シャオパイが言うには、「返却は例の博士のところまで」とのことである。


(俺達が返しに行けって? 俺達も会いたくないんだけどなぁ……)


「鍵、なくさないでくださいね?」


「そうだぞッ。変な実験を手伝わされるのは嫌だかんなッ?」


「私もなん!」「だよ!」


 クセの強い人物が管理していることに、一同は辟易するのだった。


 “パラスダイト”の研究をしていて、“パラスアームズ”の開発に携わった人物と言えば、だいたいどんな種類の人物か理解していただけると思う。


「お、オッケー。ちゃんとイベントリに入れた」


 紛失した際の代償を考え、思わぬ緊張を強いられることとなった。


「とりあえず案内人を呼んでくる」


「案内人?」


 硬直していても仕方ないため、ザ・カシは言って近くのマンホールへと近寄った。


 筋肉まんとうが首をかしげる。


 入り組んだ地下道を進むには地図らしきものがない。依頼の書類に書かれたいくつかの区画を、手探りでは移動するのは危険だった。


 浄水施設を提供する都合上、上下水道は輸送船団の待機地点までつながっている。そのため、内部構造が機密情報扱いになっているのは仕方ないことだろう。


「あぁ、地下は地図を作れないんでしたね。でも、案内人なんていたんですか?」


「そうだぜ。ザ・カシが全部覚えてるのかと思ってた」


 筋肉まんとうとドワッコの言葉が、少しばかり胸に突き刺さった。


 案内人を見つけられたのは、今から一年と半年ほど前のことだ。知らないのは仕方ない。


 今まで隠していたのには、海より深い訳がある。


「あんまり、変な目で見ないでくれよ? 後、何度か潜ってるから構造は覚えてるんだ」


「なんだそりゃ?」


「俺だって、一人でゲームプレイするのが寂しくなることだってあったんだよ……。その名残さ、これは」


 嫌なところを突っつかれて、ザ・カシも拗ねたように答えた。

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