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5食目1皿 ~キマシの秋? 転がしてないのに里芋の煮っ転がし~

「教えるん。お前を何度殺せば、カールを解放できるのん?」


 アサルトライフルを鼻先に突きつけ、ロングヘアーの娘は尋ねてきた。


 その目に映る狂気の光がただならぬものだと察する。


 一撃ではH.P0にならないとは言え、先制を許すことはまずないとしても、威圧感は凄まじかった。


 ザ・カシを脅してる知的少女と、彼らがどうしてこんな状況にあるのか。ザ・カシは苦笑いしながら記憶をたどる。


~約10分程前~


 その日の晩、ザ・カシ達は適当な依頼を受けることにした。


 毎日、獲物を物色するというのも目立って仕方ない。それに、そろそろ第一周辺活動拠点を出ようかとも考えている。


「女流騎士さんは惜しいが、いずれここにも戻ってくる。その時に、また会うこともあるだろうさ」


 ザ・カシは、拠点を離れることを相談する上で皆に言った。


「あぁ、そろそろですもんね」


 筋肉まんとうは、事情に思いを馳せて得心の言葉を持ち出す。


 ドワッコやカール女帝は、お任せモードといった様子で依頼の内容とにらめっこだ。


「そうそう。えーと、二人共、そろそろ大丈夫か? 後、カールじょ……カールはこっちで良いのか?」


 もう直やってくる一大イベントに向けて、ザ・カシ達も動き出そうとしていた。


 ただ、良く理解していない女性二名にいささかの不安を覚える。一日の長がある筋肉まんとうとは違う。


「あ? まぁ、討伐依頼だろ? さっさと行こうぜッ」


 妹はこの通りの反応で、イベント情報など見ていないと思われる。


 攻略こそ情報容量の問題で出回らないまでも、ゲーム公式サイトを見れば重大なイベントに付いて書かれているのだ。


 後、自信から油断しないか心配だった。ドワッコの実力からすれば、第一周辺活動拠点のモンスターくらいは


「えっと、あのイベントですか? すみません、ちょっとだけ触れた程度なので……。依頼の方は、多分、大丈夫かと」


 カール女帝。略してカールの言い様から、一年くらいのプレイ経験はあると予想できる。


 とても不安そうに大丈夫と言われても、信じられないがフォローしていくしかないだろう。


「えぇっと、今夜はジャスも【マリア】もインしないと思いますから。あ、マリアって青髪の子のことで」


「そっか、わかった。じゃあ、行くとするか」


 必要以上の確認はカールの不安を煽るだけだ。ちなみに、カールと呼ぶのは彼女たってのお願いである。いつまでもカール女帝では他人行儀に思えるかららしい。


 しかし、あの知的少女の名前がマリアなのだと漸く知れた。


 マリアなどという普通の名前をPCネームにできたことも少し驚きだ。


 さておき、四人はクランルームを出て討伐依頼へと向かう。


 『海狼娘々』の扉を潜った先で、居るべきはずない人物がいた。そして、銀色の銃口を突きつけられることとなった。


 そうやって向けられた狂気が。


「教えるん。お前を何度殺せば、カールを解放できるのん?」


 このセリフに集約されていた。


~回想終わり~


「マリアッ!? ど、どうして!?」


 カールも、居るはずのない友の姿に驚いていた。


 マリアも、友の無事に僅かばかり気を緩ませる。


 その隙にザ・カシは、アサルトライフルを払い除けて室内へ隠れる。後ろに並んでいた他の三人も、自然と押し込まれて扉を盾にする。


「お嬢さん、街中で武器を抜くのは危ないぞ?」


「……チッ」


 ザ・カシが忠告した。


 周囲の視線が集まってきたことに気付き、忌々しいとばかりに舌打ちする。仕方ないと武器を背中のバックパックに収める。


 ここで無駄に争い、『中央警備隊』に犯罪者として指名手配されるわけにもいかない。∀ジャスティス∀への迷惑を考えれば、ただの脅しだっただろう。


「今朝から様子がおかしかったのん。さぁ、早くカールを解放するん! どんな手で拘束した? どう脅しているッ?」


 マリアが牙を剥き、鬼気迫る表情で指図してきた。


 知的に見えた少女の面影はなく、今にも殺戮を繰り広げそうだ。


「マリア、あ、あのね……」「ハハハッ、傑作だったな」


 マリアの問いにカールは答えようとするが、それをザ・カシが遮った。


 嘲笑を交えて、臆病で全てを話せない少女の前に立つ。


「なん、だって……!」「……」「ハァー」


 ザ・カシの言葉に、怒りが頂点に達したマリアは声を荒げる。


 頭に血が上っていなければ、ドワッコの呆れた表情に、筋肉まんとうの苦笑混じりの溜め息に、カールの丸くした目に、気づいていたことだろう。


 本来ならば、ここで悪役を引受け演じるつもりなどなかったはず。


「“ソウル・フード”を奪うのは止めてくださいだとよ! 笑わされるよ。で、一人乗り込んできたから返り討ち、ざっとこの通りよ!」


「ッ……」


 ザ・カシのおちょくるような身振り手振り、それと口調のセリフにマリアがギリリッと歯を鳴らす。


 追撃。


「恥ずかしいスクリーンショットをいくつか撮らせて貰ったぜ?」「もう、黙るんッ!」


「てめッ!」


 追い打ちの一言に、自分が賢いと思っている少女がキレた。堪忍袋の緒がぶち破れた。


 ザ・カシに組み付いて、店の奥へと押し倒すと再び銃を取り出す。


 ドワッコがマリアの背中のバックパックあたりを掴んで引き剥がそうとする。


 これには流石の店員二名も、仲裁に入ってくる。


「皆さん、止めてください!」


「そうよ。ここは食事処兼食料品店よ。貴女も、それを撃ったところで何の解決にもならないわッ」


 タイランがザ・カシ達にブレイクを掛け、シャオパイがマリアをなだめようとする。


(退)クンッ!」


 マリアが店員の青年を押し退けようするも、下手に怪我もさせられないため言葉を荒げだけだった。


 ザ・カシは大丈夫だと、タイランの手を押し下げて前に進み出る。ドワッコはもう片手で制し、噛みつかないようにしている。


 グルルゥゥゥゥゥッ。


 そんな唸り声が聞こえて来そうな表情のドワッコ。


「タイラン、もう良い。そんなに俺が憎いか、マリアさん? なら、お前も同じ場所に堕ちてこい」


 ザ・カシは言い放った。


 カールと同じところへ来て、ちゃんと互いの気持ちを言葉にしろと。


 どれだけ友が、自分を押し殺して皆に尽くそうとしたのかを知らない。だから、こうして誰かを悪だと決めて救おうとできるのだ。


「私の“ソウル・フード”まで奪おうって算段なん? お前なんて、さっさと『特殊中央警備隊』に消されてしまうんよ!」


「何だ、怖いのか? 『特殊中央警備隊』なんて眉唾だ。そんな特殊部隊みたいなの、この三年間で一度も見ていない!」


「減らず口を! 良いんよ! 3対1でも4対1でも、かかってくるん!」


 売り言葉に買い言葉で、ザ・カシ達は戦うことになった。


 街中で銃を撃つような真似は、できるけど相応の評価が下るので止めておく。


「悪いけど、店を貸してくれるか?」


 店員二人にお願いした。


「……マーマ?」


 ずっと黙って眺めていた白髪の女が店主なのか、シャオパイが可否を訊ねる。


 フードを縦に揺らすのを見て、タイランはすぐさま店内の大型の丸テーブルを倒していく。雪合戦のような、シンプルな的当てゲームだ。


 しかし、結果など過程を語らずともわかりきっていた。


 ザ・カシとドワッコ、筋肉まんとうの三人が負ける相手などそう多くはない。それでも、試合開始5分、からH.P1を残すところまで戦う。更に、料理完成までの5分と、“ソウル・フード”を前に10分を耐え(しの)いだのである。


 合計で20分を、3対1で戦い抜いたマリアに称賛を送りたいぐらいだ。


「どうだ、里芋の煮っ転がし?」


「バクッ、美味いわけ、モクモク……ないんよ! こんなん、ハムッ……煮イカも味が染みてて、不味、くないん……ッ」


 懐かしい味に啜り泣き、悔し涙で顔を洗う。


 憎まれ口を叩こうとしても、心が発する本音を押し止めることなどできない。


 後にマリアが語る。“ソウル・フード”を差し出されたときの感想は次の通りだ。


「一日中飲まず食わずで、大好物を目の前に置かれたみたいな感じなん。相場の二~三倍ぐらいを払わなくてはならないって言われてるような、気持ちになったん」


 そんなわかるような、わからないような意見だった。

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