4食目3皿
ステータスをマスクした像が浮かび上がる。
景色も2Dになった。
その瞬間、先手を取ったのはドワッコと筋肉まんとうだった。ザ・カシも『グリモワール』へと行って“レシピ・グリモワール”を使う。
ダッシュとバーニアスラスタの噴射で木々を縫うように進む。その間に、U.Iを弄って武器欄から二人が武器を取り出す。いつものサブマシンガン二丁とグラブだ。
女流騎士は、攻め込んでくる2~3秒の間を突っ立って過ごす。
こちらのことを舐めているわけではない。
「“恐怖値”は流石に勝てなかったか」
言葉を発し、漸く動きだした。
インベントリを弄って武器を取り出そうとする。
それを阻止しようと、筋肉まんとうが真っ先に殴りかかる。
「3対1ですからね。しかし、やらせませんよッ」
人数差のおかげで、多少の乱数ではこちらの“恐怖値”を相手は[SAN]で受けきれない。
以前の視界不良や先の硬直などは、戦闘開始時の“恐怖値”判定でどっちが勝ったかである。
ゲームシステムによって生まれた隙の間に、肉迫して会心の一撃を繰り出す。
「ハァァァァァッ!」
「グッ……残念」
ズザザッ。
女流騎士は、ぎりぎりでシールドを取り出し筋肉まんとうの攻撃を受け止めていた。
衝撃で僅かにノックバックしたものの、からかえるぐらいには余裕があるようだ。
「チッ!」
反面、慌てて飛び退いたのは筋肉まんとうの方。
“ヒューマン”と“魔騎士”の組み合わせによって生まれる特性“リフレクト”を警戒したのである。
近接攻撃を受け止められた際、攻め手側にスリップダメージが入る。
そのため長く競り合うのは危険だと理解していた。
「もっとゆっくりしてくれても良いんだよ?」
「この特性には、前の戦いでもだいぶお世話になりましたからね……」
女流騎士の妖艶な誘いを、苦笑い混じりに断る筋肉まんとう。
ドワッコが木々の隙間から飛び出して、追撃に対するフォローに入る。
ズダダダダダッ。
「人の彼氏に手ぇ出してんじゃねぇ!」
二丁サブマシンガンの連射で物理弾を降らせる。
弾倉二つ分をお見舞いするが、命中したのは60発の内の2割程度。冷静に女流騎士の表情を見ていれば、わざとドワッコを挑発したのだとわかる。がむしゃらに連射してくることまで予想して。
「どうだ、お見舞いしてやったぜ!」
ほとんどが避けられたことに気づかずドワッコが威張って見せる。
「おーい、乗せられてどうするーッ」
遠巻きに見ていたザ・カシが、冷静になるように宥めた。
「げッ」
「遅い!」
着地後に気づいて、急ぎ弾倉交換を行うも女流騎士が走り込んでくる。
ドワッコだけでは対処できないと見て、ザ・カシはなんとか手を止めずに指示を出す。肉と刻んだ野菜を炒め始めた段階なのでなんとかなる。
「筋肉、カバー!」
「しかしッ……」
「相手はライトアーマーだ、吹き飛ばせる!」
筋肉まんとうは“武闘家”なので、グラブだけで戦うため攻めればまた反射されてダメージを受けてしまう。
ザ・カシに反論しようとするも、競り合いさえしなければ良いと無理を承知で命令する。
「こ、のッ!」
ドワッコを助けたいという気持ちが先行したらしく、筋肉まんとうが女流騎士へ向かって駆ける。
弾倉を交換するために大きな隙ができたドワッコか、それとも攻めてくる筋肉まんとうか。女流騎士の判断力が求められる。
ドッゴーンッッ。
「グウッ!」
紙一重で間に合った攻撃は、シールドで受け止められる。無理な体勢で防御したため、女流騎士はバランスを崩して数歩下がる。
そのまま後ろに二度程跳んで間合いを取る。銃からの遮蔽を作ることも忘れない。
両陣営ともに睨み合いながらも、“メディカルキット”などを使われないように牽制は続ける。
(良い動きだ)
ザ・カシは感心した。
茹で上がったジャガイモと炒めた具を混ぜ合わせながらも、軽装甲を駆る騎士の技量を眺め感嘆の息を吐く。
まだシールドしか使っていないものの、隙を生じない攻防を繰り広げてくる。
先程の判断も、ドワッコの粘りの反撃を避けるためだった。
打たれても撃ち返す気迫は、最初の戦いで嫌というほど味わったことだろう。
「ドワッコさんのその粘り強さはスポーツマンのそれかな? 知り合いがそういう性格でね」
「世間話ったぁ余裕だな。まぁ、元陸上部だよ」
「膠着状態は予想の内だったろ? 転んでもタダじゃ起きないところ、野球が好きな彼に似ているよ」
「そんな話をしても油断はしないぜ? 着々と料理が出来上がってきてんだ」
二人の会話が一区切り着いたところで、コロッケのパテも出来上がる。後は小麦粉をまぶし、水溶き卵とパン粉をつける。最後に180度くらいの食用油で揚げれば完成だ。
ここまで来て、まだ女流騎士に動きが無いことが不思議でならない。
その不気味さが、違和感がミスを誘発してしまう。
「そっちから来ないなら……。こっちから行くまでだ!」
ドワッコが言った。
そして、スモークグレネードを女流騎士の隠れている大樹の根本へと投げる。
煙幕が女流騎士を包み込んだ瞬間、ドワッコはサブマシンガンを構えて走り出す。もうもうと立ち込める白煙に銃弾を浴びせかける。
(おいおい……大丈夫か? あ?)
煙の中に突っ込んでいく寸前、女流騎士が銃撃を回避するために飛んだのだろう。バーニアスラスタで煙を吹き飛ばすつもりでもあったのかもしれない。
その時、僅かにステータスの像が姿を見せた。
名前[] 種族[] 職業[魔騎士] ARM[]
TEC[2]+[]+[]+[]
SPE[]+[]+[]+[]
INT[]+[]+[]+[]
SAN[]+[]+[]+[]
H.P[96/100]
A.P[]
MWE[]
SWE[]
MEL[]
TAC[ピットフォール]
BUL[]
S.F[]
ABN[]
SPC[]
BLD[]
もしここで、『タクティカル』枠が開かれていなかったならばどうなっていただろう。
まさに強運中の豪運。
掴み取った。勝利を。
「ドワッコ! 罠!」
「!?」
ザ・カシが咄嗟に上げた声で、ドワッコはバーニアスラスタを吹かして急制動とジャンプを行う。バランスを崩して盛大に転ぶ。
しかし、ギリギリで落とし穴を回避することに成功した。
「クソッ! やってくれやがる!」
思わぬトラップに、ドワッコは怒り心頭だ。
一回目の時にはなかった武器である。だが、2D視点で見ても仕掛けた場面は隠されるため、かなり効果的なアイテムと言える。
たったの一手が油断ならない。
これは完全に、ドワッコが突っ込んでくることを見越しての仕掛けだった。ハマっていれば数十秒とは言え行動できなくなっていた。
(的確過ぎる。いや、そもそもどうしてあそこで突撃するとわかった……?)
「ドワッコ、安い挑発に乗っちゃいけない」
ザ・カシは頭を捻るも、筋肉まんとうはその答えを知っているようだ。
「すまん……。まぁ、とりあえずコロッケはできたぜ。後で覚えておけよ、このメスブ……スブタ!」
敗北の引き金にならなかったことを安堵し、意外に懲りた様子で威張るドワッコ。
他人を無闇に傷つけないという約束は守ってくれそうである。
「ドワッコさんさえ押さえれば逆転できると思ったんだけど、ダメだったか。しかし、無茶のある罵り方だね……」
ドワッコが動けなかったら、筋肉まんとうをくぐり抜けてザ・カシに逆転の一撃を加えるつもりだったのだろう。
謎の雑言には女流騎士も苦笑を禁じ得ない。
あっさりと負けを認め、“ソウル・フード”が出てくるのを待つ。
(なんで安心できない……?)
勝ちは確定したというのに、なぜかザ・カシの心中に一抹の不安が過る。
その正体が、直ぐに姿を表す。
「そこまでよ!」