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1食目1皿~作り方は後出しジャガイモと牛肉のコロッケ~

 密林の中、そこにはメスの顔があった。


 見つめる先には、シルエットにしてみるとシチュエーションに合う縦長の台座。その上にある筐体の中の物体を欲していた。


 男女に関わりなく人間は、欲求の前に本性を曝け出すものなのである。


(フッ、フフフフフッ。これ……この顔だ)


 男はそのことを知っており、内心でほくそ笑む。


「フハッ、ハハハッ」


「クケッ、ケケケッ」


 脇を固める凸凹な2つの人影も、男の心情を代弁するように笑いを漏らした。


 眼の前のメスへと成り下がった金髪ロングの【女流騎士】が、膝を着いたまま悔しげに歯噛みする。


 パワードスーツとか、パワーローダーとでも呼ぶような鎧に身を包んでいる。この男達に言わせれば、騎士と称するのは少し野暮な格好だ。


 (いず)れにせよ女流騎士は男達に屈服する寸前だった。


「クッ!」


(あぁ、そうだッ。その言葉を言えぇッ!)


 待望したセリフを早く吐き出してくれと、昂ぶる気持ちを抑える。


 もはや女流騎士の心は、こちらの手中にあるのは確実だった。彼女も、それを願わざるを得ないはずだ。


 今それを乞えば、身の破滅を呼ぶことになると分かっているとしても。


「コロッケ、食べたいッ!」


 ついに女流騎士が、水気の混じった粘りのある声で懇願する。


「いいぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ! どぉぞッ。どぉぞぉ!」


 これには仕掛け人も大満足。


 絶叫して、背後の調理台に乗った保温器から熱々のコロッケを取り出す。ズズイッと女流騎士に渡した。


 まだ、揚げたばかりの油が衣の中で煮立つ音がシュウシュウと聞こえている。湯気に乗って漂う、甘く炊きあがったデンプンと野菜達のコラボレーション。


 これに、肉の(あぶら)が合わさり究極の一品となる。千切りキャベツはお代わり自由だ。


「ごくり……」


「遠慮ぜず召し上がれ」


 女流騎士が喉を鳴らした。


 男は、美形だが個性のない顔で微笑み食べるように促した。


(さぁ、食べるんだ。一口でも食べたなら……)


 今にも高笑いを上げたいのを堪えて、優しい眼差しで女流騎士を見つめる。


 しかし、それを制止する声があった。


「待ったぁッ!」


 その場にいた誰もが振り向いた。


「誰だッ?」


 男が誰何(すいか)すれば、振り向いた先に新たな三人。声音からして、一人は女性だと確定しても良い。


 この場に、鎧姿の人物が七人になった。


 一際目立つのは、主犯各の男の黒い鎧。


(邪魔が入るとは……。時間をかけすぎたかぁ?)


 その重厚な漆黒に似合わず、突如として訪れた状況に戸惑いを見せる。


「貴方が、最近噂になっている、“ソウル(S)・フード(.F)”を奪って悪さしているって人たちね!」


 ビシッと指を向けて、男達の悪事を説明してくれる。


 ショートボブの緑髪が揺れて、彼女の気丈を体現する吊目が睨んできた。


「奪うって、そりゃ人聞きが悪いってもんよ。俺を悪人に仕立てて、正義の味方気取りか?」


「“ソウル・フード”を相手に食べさせようって時点で、悪いこと考えてるんでしょうッ?」


(悪いこと……まぁ、近からず遠からずか)


 指摘に指摘で返されると言葉に詰まってしまう。あながち間違いではないこともあって言い返せない。


 男は少し思案した後、言葉を尽くしても解決しないことを悟る。


 善悪の差異などただ見る方向が違うだけの話なのだからと、思考に決着をつける。


「わかった。争いは避けられないみたいだな」


 気は進まないものの、「力づくで解決しなければならないんだろう?」と態度で見せつける。


「人を無理やり従えさせようとしていた割に、争いは好みませんって?」


 緑髪が肩を竦めて男に言う。しかも、鼻息混じりに。


 これには、温厚なのであろう黒鎧の男も少しばかりカチンと来たらしい。


「無駄な争いは、な。君こそ、緑髪のくせにリーダー気取りかい?」


「むぅッ。そういう偏見はどうかと思うわよッ!」


 深い意味のない挑発の応酬だったのだが、何やら女の子の(かん)に障ること言ってしまったようだ。


(地雷、だったかぁ……? まぁ、大人げないっちゃ大人げないな)


 怒らせ方にもいろいろとあるもので、この手の傷は広げないほうが良い。


 男はそういうところをちゃんと理解していた。


「うん、悪い……すまなかった」


 謝った。


「……良いわ。分かってくれたなら」


 緑髪の少女も、カッとなったことを悔やんだ様子だ。


 意外にも素直に許して貰えたので、男も拍子抜けた表情になってしまった。


「ま、まぁ、偏見は良くないよな」


「えぇ、良くないわ」


 二人して、思うところのある部分は示し合わせておく。


 そんな両人に、口を挟んでくる少女がいた。


「それで良いん? 善とか悪とか、そういうことをもう少し議論すべきではないのん?」


 青い髪のロングヘアーを撫でながら、理知的な顔をしかめている。


 口調はいささか間延びしているようにも思えるが、訛りともなれば致し方ない。


「良いのよ」「良いんだ」


 二人のセリフと意見が一致したので、知的女性はもはや突っ込むまいと思ったのか引き下がる。


「そうなん……。それで、戦うんよね?」


 一応は納得したようで、改めて周囲を見渡して確認する。


 確かに、今から戦闘をしようとしていた関係だったが、男側に無用な争いをする気はない。


 決して変に馴れ合ったからとかいった理由ではなく、最初から難しいとわかっていた。


「まぁ、仕切り直しってことで」


 男は女子達から距離を取り、形だけの臨戦態勢を見せる。


 当然、男の意図はまだ仲間達に伝わっていない。しかし、空気くらいならばわかる関係だ。


「なぁ、もうこっちのアーマー(A)・ポイント(.P)もカツカツだぜ?」


 コソッと耳打ちしたのは、最初に控えていた二人組の内の凹んだ方だ。


 小さい方だ。


 鎧の重厚さにも差があるため、一概に小柄などとは言えない。しかし、その子は確かに小さい。


「わかってる。ここは残念だが、引くぞ」


 男も耳打ちを返す。


「了解」


「……」


 小さいのが答えた後、もう一つの大きい人形もうなずく。


「作戦会議は終わった? じゃあ、行くわよ!」


(話し合いの間、ちゃんと待ってくれるとは。律儀というのか……優しい女子達だ)


 男の溜め息で場を仕切り直されて、ここに六つの鎧が睨み合う。


 周囲は大樹が疎らに群生する森で、降り注ぐ陽光が周囲を照らしながらも障害物には事欠かない。


 戦うにも、こっそり悪事を働くにも、うってつけの場所でもあった。後者の価値は、今や地に落ちているが。


「ステータス!」「ステータス!」「ステータス!」「ステータス!」「ステータス」「ス、ステータス……!」


 六人の声が森の中に木霊(こだま)した。


 声が響くと同時に彼らの周囲に変化が現れる。


 枠に囲われた半透明のボードが、各自の頭上に一つずつ浮かび上がったのだ。



名前[ザ・カシ] 種族[ヒューマン] 職業[] ARM[ライトアーマー]

TEC[]+[]+[]+[]

SPE[]+[]+[]+[]

INT[]+[]+[]+[]

SAN[]+[]+[]+[]


H.P[]

A.P[]


MWE[]

SWE[]

MEL[]

TAC[]

BUL[]


S.F[]

ABN(異常)[]

SPC(特性)[]

BLD(通貨)[122]



 漆黒の鎧を着た男の名前が判明する。


 枠内で表示されている情報はそれだけで、後は背景画像で目隠し(マスク)されている。何かの料理を表したシルエットだ。


 凸凹の二人のステータスは、更に多くの情報が(あらわ)になっている。しかし一目でそれを読み切るのは難しい。


(さっき、女流騎士さんに食らった分か……)


 ザ・カシ側からだと、ステータス画面は全て把握できる。仲間の分も見られる処理にしてある。


 目隠しが剥がされていた部分は、赤い光が薄く点滅して区別できるようになっている。


「ちょっとは手負いなのね。勝ち目がありそうで良かったわ」


 緑髪が言って、臨戦態勢に移る。


 ちなみに、争いの中心となった女流騎士はどうしているかと言うと。


「なぁ、食べても良いだろうか? ジュルリ」


 コロッケの皿を片手に、ヨダレを垂らしていたりする。

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