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休日の訪問者

 今日は、今日こそは休日。

 天気もいいし、気候もいい。

 朝起きて台所へ行けば、テーブルには朝食が並び。

 部屋は掃除され、洗濯も・・・あ、終わってる。

 うーむ、セイナのおかげで生活がものすごく楽になっている。

 が、良いのか俺。

 10歳そこらの女の子の世話になりっぱなしの、おじさん。

 うわっ、きもっ。

 ってハマドは言うな、絶対。


 まあ楽なのは有難い。

 朝食を食べながらぼーっと考える。

 セイナが来てから1ヶ月以上経つ。

 追い出すつもりは毛頭ないが、彼女が結局何者なのか、今のところ分からない。

 ウチの母親が来れば判明するだろうが、なにせ捕まらない人だ。

 本人もそれほど喋る方でもなく、尋ねれば答える程度で、その答えからは大した情報がない。

 子供のくせにどういう生活をしてきたのか、家事はするものの、食事は時間が合わなければ別々、大抵その後は部屋に籠ってしまう。

 まあまだ子供だからか、普段は結構早寝というのもある。


 学校ではそつなく勉強し、多少の友達もできたようだ、ということは分かった。

 何処から来た、と問えば此処シュトラスからずっと北東のモネアだというが、どんなところか聞いても

「うーん、ここと大して変わらないくらいの街ですね。食べ物も似ていますし、少し寒いくらいでしょうか」

 としか言わず会話も発展しない。

 あんまり社交的でもない、というのも分かった。


 何のために此処に居座っているのかも、最初に聞いた、住むところもないし親も勝手にいなくなった、うちの母親を頼って来た、ということで済んでしまう。

 エマ先生のところで聞いた、セイナが普通の子に見えるように何かをした男性についても、聞いては見たが

「色々なことを教えてくれた先生のような人なのですが、ふらっと来て、ふらっといなくなるので私も良く分からないんです」

 だそうで。

 親の事に関しては、聞こうとすると何となく嫌な雰囲気を出すので聞けない。

 まあなんとなく、良い関係ではなかったような感じだし、自分を捨てて行った親には複雑な思いがあって当然だろう。


 じゃあ、本当に暮らすところがほしくてここにきたのだろうか?

 なーんか違う気がするけど、考えてもどうせわからない。

 のでやめることにした。


 朝食を終え、片付けると、珍しく眠そうにしたセイナが部屋から出てきた。

「おはよう」

 声をかけると俺がいたのが意外だったらしく、びくりと顔をあげる。

「おはようございます」

 どうやら家事の後二度寝したようで、顔に跡が付いている。

「洗濯ありがとう。洗濯屋行く手間省けた」

「いえ、ついでですから」

 洗濯は皆、洗濯屋に頼む。

 洗濯屋は家事技術の中の一つ、“洗濯”を生業としている。

 技術がないものがしようとすると、洗濯物を洗って干して(機械ですることもできるが時間がかかる)、取り込んでたたむまでを自分で行うが、洗濯屋は大量の洗濯物を一気に短時間で仕上げてくれる。

 水と風、火の適性さえあれば容量はそれほどいらないため、なるのは難しくないが、それほどたくさんの需要もなく、頼んでも安価なため多くの人は洗濯屋に頼んでしまう。

 晴れた休日なんかは、洗濯屋が大量の洗濯を始末する様子が外で見られ、結構壮観だ。


 セイナは大きな屋敷で家事をして働いていたことがあるらしく、一通りの家事技術を持っているらしい。

 一通り持っているというのは珍しいため、恐らく、望めばかなりの高給で雇ってもらえる程の技術だ。

 実際重宝はされたが、それほど高給ではなかったらしい。

「雇ってもらっていたウチは、それほどお金持ちではありませんでしたから。でも、良い人だったと思います。子供でもちゃんと雇ってお金もくれましたし」

 そうじゃない人もいた、ということか。


「そういや、夜更かしでもしてたの」

 寝ぐせもついている。

「はい、ちょっと色々調べていたらついつい遅くなってしまって」

 申し訳なさそうに下を向く。

 別に咎めているわけじゃないんだけどな。

「まあ今日学校休みだし良いんじゃない。俺なんか飲んで昼まで寝てることもあるし」

 言うと、ああ・・・というような顔で

「そうですね」

 と返される。

 うーむ、分かっているけど普通に肯定されるのもちょっとショックだなあ。

「家事だって別にそんなにまじめにやんなくても良いんだよ」

「自分の分のついでにしているだけですし、前に言った通り、住むならきれいなところがいいです」

「あ、そう?」

 真面目だなあ。


 俺が勝手に感心しながらお茶を飲んでいると、セイナはごそごそと自分のバッグをあさり

「お給料が入りましたので、今月分の家賃をお渡しします」

 そう言って家賃のちょうど半分のお金を差し出してきた。

 子供が持っているには不自然な、お金。

 先月も払おうとしたところを、俺は断った。

 あまりお金がないようだったからだ。

 食費は頑なに払うことを主張したので折れたが、それ以外を受け取る気にはなれなかった。


 子供に家賃を折半?

 自分の感覚では素直には受け取れない。

 自分も、母親に家賃なんて払ったことはない。


「うーん。お金が稼げるのは分かった。でも、家事もしてもらっているし、その分家賃はいらないということにならないかな」

「でも、仕事でしていた時と違ってできないときもありますし・・・」

 セイナは居心地悪そうに目をそらす。

「十分やっていると思うよ。技術があるとしても、容量があるとしても、疲れないわけではないんでしょ?」

「はい、そうですが・・・」

 まだ不安そうにこちらを見あげている。

 あ、そうか。

「大丈夫。急に追い出したりしないし、いなくなったりもしない。1ヶ月見てとりあえず信用できないような子じゃないのも分かったから、今まで通り保護者として名前や住所も使っていい。母親には連絡が付けば教えるし、それまではここにいていいから」

 そう伝えると、セイナはちょっとほっとしたような表情になった。


 裏の理由はともかく、彼女は仕事をするにも住んでいる場所、連絡先、保護者が信用として必要な年齢なのだ。

 今までは扱いはどうあれ、親がそれを担っていて、そこの中でやりくりしていたものが、突然消えたのだから、それからここに来るまでそれを失ったことでの不利益を実感してきたのだろう。

 なんだか不憫になってきた。

 今更?そう今更です。


「今日休みなら何か服でも買いに行こうか?」

 何か買ってあげようかなとか、単純な思考しかできない自分が残念ではある。

 でも、セイナはいつも同じような服を着ている。

 可愛いんだからもっと色々着ればいいのに。

「・・・どうしたんですか。なにかやましいことでもあるんですか」

 気持ち悪がられてしまった。


 なんだか変な雰囲気が漂ったところ、家のドアをどんどんと叩く音がする。

 呼び鈴があるんだからそっちを押してくれれば、と思いながらドアを開けると、誰もいない、のではなくて、視界の下に子供が立っていた。


「こんにちは!セイナちゃんいますか?」

 薄茶色のくせ毛を型のあたりで切りそろえ、その年代らしい服装をした、可愛らしい女の子。

 セイナは美少女、という感じだが、可愛らしい、という形容がしっくりくる。

 俺の体の横から部屋の中をのぞくと、セイナを見つけて声をあげた。

「おはよー!迎えに来たよ!」

「アンナちゃん?・・・あっ、ごめんなさい、約束・・・」

 どうやら友達と遊ぶ約束をしていたらしい。

 セイナは慌てて支度をしに部屋へ戻っていく。


 アンナちゃんと玄関先に取り残されてしまった。

「あ、入って待つ?」

 声をかけると

「いえ、いいですよ~、ここで待ってます」

 とニコニコしながら答える。

 小柄でおしゃれで今どきの子はこんな感じなんだなあ。

 セイナの部屋を見やれば、バタバタごとごとと、まだ準備している音が聞こえてくる。

「ゴメンね、昨日夜更かししていたみたいで」

 そう言ってアンナちゃんの方を見下ろすと、さっきまで天使のようにニコニコしていたアンナちゃんの、真顔とばっちり目が合ってしまった。

「大丈夫です~」

 アンナちゃんはすぐさままた笑顔に戻る。

 あれ、なんか、観察されてた?


「お待たせしました。じゃあ行きましょう」

 いつもと変わらない服装のセイナが登場し、玄関へ小走りで近づいてきた。

「早くいこうよー」

 セイナより頭一つ小さいアンナちゃんがセイナの服を引っ張って外へ出ていく。

「すみません、出かけてきます」

「あーいってらっしゃい。気を付けてな」

 引っ張られるまま小走りに、2人は角を曲がって消えていった。


 そして取り残されるおじさん。

 まあ、予定もないし、とりあえずお茶の残りを飲んで、可愛い女の子の映像でも見ようかな。

 そう思って座ったとたん。

 今度はちゃんと呼び鈴が鳴った。


 忘れ物でもしたか?

 いや、セイナなら鍵あるし、誰か来たんだな。


 落ち着かないなあ、と思いながら扉を開けると

「やあ、久しぶり」

 そこに立っていたのは俺の母親だった。


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