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保護者のおつとめ~学校へ行こう~

 爽やかな風と子供たちの笑い声。

 今日は休日。ではない。


 セイナの書類申請が無事終了し、学校への編入が決まったのだ。

 今日はその為の説明と、手続きに学校へ来ている。

 この期に及んでセイナは「やっぱり行かなきゃダメですか」と言いだすし、編入試験でセイナは大分優秀であったらしく、そのことを知ったハマドに「行かせなくていいんじゃない」とか言われるし、段々学校に行かせようとしている俺が馬鹿なの?とか思いつつも、いやいや学ぶべきは勉強だけではないと思い直して此処にいるのである。


 気慣れない制服を着込み、座っているのは面談室。

 何のことはない、机と椅子があるだけの殺風景な部屋である。

 手続きも説明も難なく終わり、後は担任との面談で終了ということでこちらに案内された。

 セイナも一緒かと思ったら、彼女は何処かへ行ってしまい、俺だけが取り残されてしまった。


 誰もいない、何もない部屋でやることもなくぼーっとしていると、ドアがノックされる。

「失礼します」

 入ってきたのは教師の制服をきちんと着込んだ女性だ。

 小柄で顔だちも可愛らしい感じだが、薄茶の髪をきちっとまとめていて姿勢もよく、真面目そうな。

「あ、どうも」

 一応立ち上がって挨拶をする。


 多分先生なのだろうその女性は、向かい側の席まで来ると、抱きかかえていたファイルを机に置いて丁寧にお辞儀をした。

「初めまして。この度セイナさんの担任となりますエマと申します。どうぞお座りください」

 促されて再び座る。

 エマ先生はこちらを真正面から見ると、感情のこもらない顔で話し始めた。

「まずは編入おめでとうございます。大体の説明はもうお聞きになったかと思いますので、それは省略いたします」

 そうしてファイルを開き、こちらから見えるようにくるりと回して見せた。

「こちらが今回の成績になります。本来保護者の方であっても見せることはないのですが、今回は事情がありお見せすることにしました」

「はあ」


 ファイルの中身をちらりと見ると、多分テストの結果であろうグラフが大きく表示されていた。

 聞いていた通り、全科目において高い点数を取っているようである。

 まさか、学校に入る意味ないとか、先生まで言うんじゃないよな。

 いやいやまさか。

「学校は一般的な常識と知識を教えると同時に、その子の適性と容量を見極めて伸ばすところになります」

 うむ。


 生まれついての適性や容量は人により異なり、それにより目指すべき職業に制限がかかる。

 勿論努力によって容量は増加するし、適性もある程度なら変化させられるが、自分の適性には従った方が楽である。

 良く言えば、なりたい職に就けるかは適性と努力の兼ね合い。

 悪く言えば、将来はある程度、最初から決められてしまってる。

 生まれついた適性にはどうしても勝てないこともある。

 但し、実際には普通に生活するうえで、そこまで重要かと言われると、その人の価値観によるとしか言えない。


 適性も、容量もない俺でもこうして働いて生きていけるからだ。


「御覧の通り、セイナさんは一般的な知識や常識において、平均以上の能力をお持ちです」

 先生は淡々と話し続けている。

「そうみたいですね」

 学校行ってなかったって言ってたけど、誰かに教えてもらってたのだろうか。

「問題は、適正と容量についてです」

 そういうとまた、先生はこちらを無表情に見つめる。

 ちょっと真正面から見られすぎて居心地が悪い。

「えーと、何か、問題が?」

 ついつい、目をそらしてしまう。


 適性や容量は普通の人には分からない。

 そして、それらがある程度把握できる人が学校には必要である。

 ただ、そういう人が先生になることは何故か少なく、確保するのは非常に難しい。

 そういう先生がいないところは、他の学校とかけ持ちして判定してもらうこともあるそうだ。

 俺はセイナの適性について全く知るわけもない。


「セイナさんは全属性型、容量は非常に多い、ということが分かりました」

「はあ」

 おお、なんにでもなれそうじゃないか。

 何が問題なんだ?

「全属性型というのは珍しいですが、いることにはいます。そこに問題はありません。ですが、普通は容量にばらつきがあり、総容量としては全方位でない人と変わらないことがほとんどです」

 先生がページをめくると、属性と容量のグラフが現れる。

 そこにあるのは全属性の容量が“非常に高い”というレベルに達している長さの棒グラフ。

「うわっ・・・?」

 若干引くくらい。

 セイナって何者?

「ここで適性の見極めが出来るのは私だけですので、この結果を知っているのは今のところ私だけです。会議では通常の判定で分かる適性と容量を提出してあります」

 ちょっと言ってる意味が良く分からない。

 そのまま顔に出ていたようで、無表情だった先生が少し呆れたような、ちょっとほっとしたような顔になる。

「その様子だと、何も知らないし、何かしたわけでもなさそうですね。ではお伝えしておきます。セイナさんの適性と容量には判定への規制がかかるようになっていて、通常の判定で分かる適性と容量はこちらになります」

 次のページをめくる。

 そこでは風と水に適性があり、容量はやや多い、くらいの大していうべきこともないグラフが載っていた。

「規制がかかっている?」

「はい、セイナさんの適性と容量を知られないように、規制をかけたのでしょう。それが誰かは今のところ分かりません。そして、問題は本来こういった適性と容量を持つ人間がいた場合、それは報告され、中央で管理されることになります。危険であることと、希少であることが理由です」

 ちょっと、おかしな話になってきたぞ。

 普通に学校に入る話じゃないのか。

「ちょっと待ってください。じゃあ学校には通えないんですか」

 先生はちょっと困った顔になり、首を振った。

「いいえ。学校に通うことにはなると思います」

 どういうこと?

「規制がかかった状態のセイナさんは何の問題もないただの優秀な生徒です。そして私は規制を解除して判定を行いましたが、規制をかけた方が更に対策をしていたせいでそれを上に報告することが出来ません。保護者であるあなたなら何か知っているかと思いお話しましたが、何も知らないようですし・・・」

 少しがっかりしたような、そしてなんだか哀れまれれているような目で見られる。

 そうだよな、適正判定ができるんだから、俺が何の適性もない上、容量もないとわかれば哀れみもされるわな。

「こうやって説明できるのに報告できないなんてあるんですか」

「口だけで説明しても信じてはもらえません。本人を連れて行っても、規制がかかった状態では何もかわりません。私は判定して知ることは出来ましたが、それを証明出来ないように、私に規制がかかっています。こういうことが出来るのは・・・」


 なんだかよくわからないが、セイナは優秀で、中央に連れていかれることもなく、学校に通える。

 先生の方ではなんだか問題があるようだが、俺的には問題なし。

「えーと、それで、学校には通えるということで、あとは何か問題があるんでしょうか・・・」

 まだ何か話し続けている先生に話しかけてみると、我に返ったようにこちらを見た後、一瞬ぽかんと口を開け、その後元の真面目な顔に戻って答えてくれた。

「・・・いいえ。そうですね、ありません。それでは来週からセイナさんには学校に来ていただくことになります。先ほどの話は出来れば口外しないでいただけるとありがたいのですが、それほど気にしなくても大丈夫です」

「気にしなくていいんですか?」

「はい、誰かに言っても証明ができない以上信じてはもらえないでしょう。ただ、そうなると・・・少しお待ちいただけますか」

 そういうと、先生は立ち上がり、部屋を一旦出て行った。。


 セイナが全属性型。容量も多い。

 まあ天才ってやつか。

 俺のとこに来なくてもよかったんじゃないか?

 まあいいけど。


 すぐに再びドアが開き、先生が入ってくる。

「お待たせしました」

 待ってないけどね。

「ではあなたも」

 先生はそう言うと後ろにいたセイナを部屋へ促す。

 どうやらセイナを連れてきたようだ。


 セイナは俺の隣の席に座ると、さっき聞いたのと同じような説明を先生から受けている。

 先生の説明の仕方は俺にした時よりも大分優しい。

 多分、何か疑われていたのだろうな・・・。

 説明を受けるセイナの表情は変わらず、大きな目をしっかりと開けてただ資料を見ている。

「規制をかけた人に心当たりはありますか」

 先生が問うと、セイナはこくりと頷いた。

「はい。でも、それを言ったらその人に迷惑はかかりませんか」

 表情は変わらない、が、緊張しているのは声で分かる。

「そうですね・・・わかりません。でも、私が考えている人であれば、私たちが迷惑などかけられもしないと思いますよ。その人に言うなと言われているのですか?」

 先生は誰か見当がついているのね。


 少し考えたあと、セイナは首を振ってこたえる。

「いえ・・・むしろばれたら言えと言われました・・・」

「言いそうなことですね。その方は、40歳くらいの男性ですか?」

「えっ、はい。もう少し若くは見えましたが・・・」

 先生はため息を一つ吐くと、少し体から力を抜くように椅子に座りなおした。

「分かりました。大丈夫、その人に迷惑はかかりません。上にも何も報告しないことにします。その代わり、お願いがあります」

 そういうと今度は俺とセイナの両方をみて少し笑う。

 女の人が怒ってるときにする怖い笑いだ。

 可愛い顔の人がすると余計怖い。

「な、なんでしょう」

「全属性型を受け持つのは初めてでして・・・。私としても大変興味があります。一般教養の部は通常通り授業を組んでおきますが、セイナさんとも話し合いながら、適性の部は全属性型の授業を受けていただきます」

 それって大丈夫なのか?

 やっぱり顔に出ていたようで何でもないようにエマ先生は続ける。

「大丈夫ですよ。全属性型の生徒は今誰もいないんです。そしてその受け持ちは私です。セイナさんは無謀にも全属性型を希望したということにします。」

「無謀にも」

「はい、本来ならば水と風。ですがたまにいるんですよ、そういう生徒が」


 先生は今度は何故か困ったようににっこりすると、セイナに向けてたずねる。

「それでは今日はこれで終わりです。何かわからないことはありますか」

 セイナは少し考えてこたえる。

「いえ」

「ではまた来週に。お待ちしています」


 帰宅途中にアルシアによってご飯を食べていくことにした。

 なんだかんだでもう夕方である。

 今日のごはんは、野菜と香辛料とで炊いたご飯の上に、お肉。

 俺は肉と、酒。

「なんか、将来なりたいものとかあるの」

 なんにでもなれるとしても、本人にも希望があるだろう。

 セイナはもぐもぐとご飯を食べながら考えこんでいる。

「なんとなくは・・・でも、よくまだわかりません」

「そうかー」

 まあ、まだ時間はあるしね。

 肉を頬張りながら、2杯目の酒を注文する。

「ウルスさん」

「ん?」

「野菜も食べたほうがいいですよ。身体しか稼ぐ手段がないんですから」

 野菜の煮物を注文される。

 全く失礼な子ねえ・・・。

「いいよ、酒飲むのに野菜とかいらんよ」

 呟くと、もうすでに煮込んであったのだろう、シジラさんが自ら運んできてくれた。

「不摂生なのを心配してるんだよねえ?優しいじゃない」

「勘弁してくださいよ」

 シジラさんはセイナと首をかしげて「ねえ?」と言い合って笑っている。


 仕方なく俺は野菜を酒で流し込んでのみこむ。

「ウルスさん、その野菜嫌いですよね」

 セイナが呆れた顔をして指摘する。

 ばれてた。

 しかしシジラさんは知ってて、いつもは抜いてくれるのに。

 入ってたということは、わざわざ入れたのか。

「いいの、こんなん食べなくても問題なし」

「大人げなーい」

 また二人で笑いあっている。

 いつの間にやら仲良くなって・・・いいけど。



 こうしてお父さん役の1日は終わったのだった。

 あーあ、明日も仕事だ。

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