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飛行船に乗ろう

 朝役場へ着くと、既に出発の準備がされていた。

 中央からの距離を短時間でどうやって来たのかと思っていたが、専用の飛行船があるそうで。

 そこまで車、そこから飛んで行くそうだ。


 そんなのに乗る機会はこんなことでもない限り無いだろうな。

 ちょっと得した気分になるのは不謹慎かしら。


「おはようございます」

 既に課長とハマドが玄関先で待っていて、挨拶するといくつか手続き用の書類を渡してくれた。

 そもそも引継ぎなんて大層なものが必要な仕事はしていない。

 雑用でもいいという人がいれば誰でも代わりになる。

「ちゃんと眠れたか」

 課長が心配してくれた。

 が、実は自分でもびっくりするくらい普通に眠れている。

 疲れてたんだよ、色々あって。

 それを考えるのも面倒で横になったら一瞬でしたが何か。


 そう伝えるとハマドはにやにやしながら

「昇進だもんな。悠々自適に暮らせるくらいの給料がいただけるんだろうさ」

 そう言って珍しく荷物を運ぶ手伝いをしてくれた。

「おお、珍しいな、ありがとう」

 つい口からでてしまうと、ハマドは呆れた顔をしてため息をつく。

「おい、そんなんで大丈夫かよ。・・・まあ仕方ないな。気を付けてな」

 そういうと、大してない俺とセイナの荷物を荷台に乗っけて後ろに下がった。

 実は見た目通りの力持ちなんじゃん。


 ハリスさん達は先に行ってしまったらしく、車に乗るのはセイナと俺だけだ。

 一応役場の中に入って一通り挨拶し、車に乗り込む。


 ナナミさんが走って来て、窓からセイナと俺に、と言ってお菓子と飲み物をくれた。

「トシオさんが寂しがりそうねえ」

 そう言いながら寂しそうに笑ってくれる。

 それを見ると俺もちょっと寂しくなった。

「あのじいさんなら上手くまた若いのをこき使うから大丈夫ですよ」

 ふふふ、と笑うナナミさんと雑用課の2人にセイナと手を振って、車を出発させてもらった。


 走り出してから、ハマドになんか皮肉で返してやればよかったと今更残念に思ったのだった。



 そこからは北に走り、飛行船が留めてあるところまで1時間ほどかかった。

 そこまで人口のないこの地域には、定期船のようなものはなく“何かあったときのため”にわざわざ場所を作ってある。

 軍用ではない、という証拠に、それ以外の設備はない。

 飛行船、と呼ばれているが、ここにあるのは軍用機だ。

 まあ俺達2人運ぶだけなんで別に旅客機である必要はないし、迎えに来たのが軍だからそういうもんなんだろう。


「飛行船なんて初めてです」

「俺も」

 今まで黙っていたセイナがちょっと興奮気味に呟く。

 俺のところまで来る道のりには使わなかったのだろう。

 というか、一般市民はあまり使わないし子供一人じゃ余計に使わないかもしれないな。


 映像で見たことはあったが、実際見るとカッコイイ。

 が、こんな大きいもんがどうやって飛ぶのか分からん。

 魔法じゃないの?魔法だよね。


 そんな話をしていたら、

「もちろん適性と容量がなければ運転できませんが、どんなに容量があってもこの大きさは無理ですよ?」

 と、真面目に何で飛行船が飛ぶのか、丁寧に説明してくれた。

 なんか、分かったような分からんような。


 出迎えは1人だけ、昨日応接室に居た役人さんの1人だった。

「こちらへどうぞ。荷物は運んでおきます」

 そう言って中へと促す。

 当たり前だが思ったより殺風景な内部だ。

 説明を受けて、注意点も説明されて、きちんと座って。


「では大丈夫だとは思いますがお気を付けて」


 発進!

 っていうのかな。

 思ったよりうるさくも衝撃も無かった。

 ちょっと浮くときに気持ち悪かったぐらい。


 そこから数時間、暇で寝る余裕すらあった。

 セイナは寝るなんて勿体ない!と張り切っていたが、そこは子供、俺が目を覚ますとしっかり寝ていた。

 旅行用じゃない分、首や腰は少しきしんだ。


「もう少しで着きますので、目を覚ましてくださいね」

 丁寧だが砕けた口調で放送されるのは、客が俺達しかいないからだろう。

 セイナもすぐ気づいて座りなおしている。


 小さな窓から見えるのは、生まれてこの方見たことも無いような異世界だった。

 密集した高い建物。

 その周りにも広範囲に隙間なくある低い建物。

 その周囲に立つ塔。


 映像で見たことはあったが、実際見ると異様だ。

 感動もするがちょっと怖い。

 田舎者だからね。


 飛行船は何の問題もなく整備された場所に着地し、俺達は降ろされた。

 降りた場所には既に迎えが来ていて、そのまま車に押し込まれ、中央の街中を走って何処かへ連れていかれていく。

 車の中から外は見えないようになっていて、本当に荷物の様に運ばれているが、座席は心地よく、飲み物も置いてあった。

 そろそろお腹空いてきた。


 セイナの方を見れば飲み物をちらちら見ているが、手を出してはいない。

「飲んでもいいんじゃないの」

 そう言って蓋を開けて渡す。

「あ、良いんでしょうか・・・」

 躊躇いがちにこちらをうかがう。

「大丈夫なんじゃないかな。万が一駄目でもそんなに高いもんじゃないし」

 そう言うとごくごくと飲みだした。

 喉が渇いていたらしい。

 俺も飲むことにした。


 揺られること多分1時間弱、車は何処かで止まった。


「お疲れさまでした」


 ドアを開けた向こうから声がして、出迎えてくれたのはハリスさんだった。

 先回りして迎えてくれたようだ。


「お疲れでしょうが、部屋へ荷物を置いた後、あなたが配属される部署に案内します。しばらくはこの建物から出ることは出来ませんが、不便はないかと思いますので安心してください」


 どういう意味?

 職場も住居も同じ建物ってことだろうか。

 なんかやだな。

 と思ってふと見やると、そこには自分が元々住んでいた家と同じくらいの大きさの“入り口”があり、首が痛くなりそうな高さの建物が建っていた。


 地下にも色々ありますし、と上ばかり見ていた俺にハリスさんがニコニコしながら言った。

 俺はそれに、はあ、と間抜けに応えて後をついていくことになった。

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