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異動のお話

 いまいちまわらない頭のまま役場につくと、なんだか騒がしくなっていた。

 玄関に入れば課長が出迎え、そのまま何故か応接室にと促される。

 誰か客が来ているのだろう。

 正直、早く帰りたい。


「誰が来てるんですか?」

 課長に問えば、困った顔で

「中央の方々だよ」

 と答える。

 横目でアランさんの顔を見れば、強張った顔と目が合ったので、褒めに来てくれたわけじゃなさそうだ。


「失礼します」

 課長が先に入り、アランさん、俺と続く。


 応接室のソファには、中央の制服を着た、恐らくこの中で一番偉い人であろう方が一人座っていた。

 その周りにも同じ服を着た役人が男女一人ずつで2人いるが、こちらは座らず、ソファの両脇に立っている。


 中央の制服は灰色の上着とズボンという簡単なもの。

 詰襟で、袖や襟のふちは銀。

 その分作りはしっかりしていて、生地も上等なものなのだそうだ。

 大体の役人が普段は襟を開けているし、中にシャツ等を自由に着て過ごしている。

 普段は私服で適当な俺達と違い、毎日制服は着なければならず、面倒そうだ。

 女性はスカートを組み合わせることも自由らしく、ソファの横に立つ女性は上着と同じ色合いのスカートをはいている。


 ソファに座っていた役人が立ち上がりこちらを向く。

「お疲れのところ来ていただきありがとうございます。中央管理国防総省より派遣されました、ジョン・ハリスです」

 見ると、若い男性がこちらを見ていた。

 金髪、碧眼、美少年だ。

 役人なんだから少年ということは無いだろうが、やけに若く見える。

 ちなみに省の名前は仰々しいが、単に軍のトップというだけだ。

 もちろん俺達にとっては雲の上。


 課長がハリスさんの後に続き、俺を紹介する。

 アランさんは既知のようで、お久しぶりです、の一言で済ませていた。


「では本題に」

 ハリスさんは反対側のソファに俺達を促す。

 いいのかな、と課長を見るとアイコンタクトで座れと指示が出たので皆で座る。

「昨日の結果を確認させていただきました。アラン所長、ありがとうございました」

「・・・そういうことでしたか。通りで上手くいったわけだ」

 アランさんは引きつった笑顔で答えている。


 どういうことだろう。

 2人の顔を交互に目で追うと、アランさんが申し訳なさそうに話し出す。

「あの非常事態はこの人たちのせいだということです。上手くいけば実験成功、うまくいかなくても実入りのあることだったのか、それほど問題だとおもっていなかったんでしょうかね」

 こちらに向けてはいるが言葉がとげとげしい。

「その通りです」

 あまり表情を変えずにハリスさんは頷いた。

「実験は成功でした。ウルス・ケイは古代機械を動かす力を持つ可能性が高い」

 え?

 実験ってそれ?!

 ハリスさんはこちらをまっすぐ見ると気持ち悪いくらいにっこりとほほ笑む。


「ウルス・ケイへの中央への異動を命じます」


「は・・・?」


 話が早くてついていけません。

 えーと。

 鉱山の魔物襲撃は中央が仕組みました。

 バードは知ってて怒ってたんだな。

 鉱山にあった機械が動いたのは俺が叩いたからか。

 それと、冒険者達が戦ったおかげで鉱山も人もほぼ無傷で守られた。

 その一部始終をこの人たちは見ていて、実験だったという。

 実験は、俺が機械を動かせるかどうか。

 それは成功。


 じゃあ、上手くいかなかったら?

 全員死んで、鉱山も街も壊滅したら?


 避難も終わっていたし、鉱山は小規模。

 人が何人か死んだだけ。

 もしかしたら組合員でしかないバードやアレスが死んだって中央は喜ぶだけだろうか。


 ・・・・セイナもいたんだぞ。

 組合員とはいえ子供も。


 もう怒っていいのか呆れていいのか。

 いや、怒りたいんだけどその元気もないのか。

 とにかく何の声も出てこなかった。

 そもそもこの場で怒り散らせるわけもなく。


「その異動は断れるんでしょうか」

 唸るように搾り出たのはそれだけ。

 ハリスさんは目だけを冷ややかに戻し

「それはできません。役場を退職したとしても、中央には来ていただくことになるでしょう」

 そう告げる。

 異動に応じたほうがましな生活ができるよ、ということか。


 両側から課長とアランさんの視線を感じる。

 どちらも色んな感情が混じっているような気がするが、助け船は出てこない。

 ん~もう上司なんだから助けてよ!


 まあ仕方ないか。

 天の声ですものね。


 どうせ何の力もない俺には断れない。


「わかりました。行きます」

 そう言うと、ハリスさんは再びにっこり笑う。

「そうですか。よかった。では行きましょうか!」

 ハリスさんの後ろについていた人たちがこちらに動く気配を見せる。

 え?!今?

「ちょ、異動なんですから、引継ぎと引越しの時間はいただけますよね?!」

 流石に課長とアランさんに助けを求める。

「いいえ、何があるか分かりませんので、すぐに来ていただきたいのです」

 いまにも連行されそうな雰囲気だ。

 助けてっ。


 あわあわしていると、アランさんが立ち上がらせてくれる。

「大丈夫ですよ。私と課長で監視しますので、せめて着替えや手続き、簡単な引継ぎくらいはさせてやってくれませんか。まあ、1日あればいいでしょう。どうですか?ジョン君」

 ハリスさんは一瞬ムッとしたが、仕方なさそうに頷いてくれた。

「分かりました。1日でお願いしますね」


 挨拶を終えてアランさんと帰宅することになった。

 課長は先に手続きをやっててくれることになった。

 面倒だったからありがたい。


 帰宅の道すがら、アランさんがポツリと物騒なことを言う。

「逃げますか?」

「え、何を」

 冗談かと思って顔を見れば本気の真顔だ。

「軟禁されますよ。生活は保障されるでしょうが」

 軟禁。

「どんな生活になるんでしょうか」

「まあ、3食食べられて、それなりの部屋と服、必要なものが支給され、仕事の時は護衛され、勝手に飲みには行けないでしょうね」


 ああ、最後の一言がなければ何も問題はなかったのに。


「飲みには行けないんですか」

「護衛という監視付きなら」

「好きな映像とか、見るときも監視付きですか」

「何を見ているかは全部筒抜けでしょうね」


 ヤダ!

 あんなのとかこんなのとかもばれちゃうんデショ。

 恥ずかしい!


 まあ、嫌に決まってる。

 中央も嫌だし、移動も嫌だ。

 来た人の雰囲気も好きじゃないし、面倒そうな感じが強すぎる。


 でも、逃げてどうするんだろう。

 逃げ続ける能力はなさそうだし、与えられた仕事がなきゃ生活もしていけない。

 サバイバルなんて真っ先に死ぬタイプだ。


 だって俺には何もないんだし。


「逃げれるもんなら逃げますけど、上の命令だし、他にも迷惑掛かるし、生活困らないんだったら行きますよ。殺されるわけじゃなさそうだし」

 ため息交じりに言うと、アランさんが背中をぽんぽんして

「ですよねえ。正直私も何もしてあげられません。今度良いお酒でも送りますね」

 すまなそうに笑った。


 家に帰ると簡単に荷造りした。

 元々あまり物がないので後のものは処分してもらうことにした。

 別にあのまま行っても困らなかったんじゃなかろうか。

 悲しい考えも浮かんだが、すぐさま消しておく。


 セイナの事はアランさんに頼んでおいた。

 普通の異動とは違うだろうし、連れて行くわけにも行かないので施設に行くことになるだろう。

 あの子なら本当は何処でもなんとかやれるんだろう。

 俺の立場だったとしても、もし望めば逃げられるし、生活もできる。

 自分の身も守れるし、やりたいこともやれる。

 でも、一応話しておかなきゃな。


 セイナが組合から戻ってくるのを待って、アランさんとお茶を飲みながら適当な映像を眺める。

 もう日は傾き、薄暗くなっていた。


「ただいまかえりました」

 若干疲れた声が玄関から届く。

 外套を脱ぎながら台所へ入ってきたセイナは、俺達を見て、というかアランさんに軽く会釈をする。


「お邪魔しています」

 アランさんが言うと、何か感じたようでこちらをうかがうように見た。


「ちょっとこっちにおいで」

 呼んで座らせる。


 そうして、異動することになった経緯、連れていけないのでアランさんに後を頼んだこと、この家も使えなくなることを簡単に説明した。


「私も連れて行ってくれないんですか?保護者でしょう?」

 納得はしてくれないようで、大きな目を見開いてこちらを見つめる。


「連れて行っていいって言われるかどうかも分からんし、一緒に軟禁されるわけにもいかないし」

「連れていく分には拒否されないと思いますよ、一応異動ですし」

 アランさんが要らぬ補足をしてくれる。


「だったら着いていきます。一緒に軟禁でも構いません」

 こちらもなんでもないように言う。


 せっかく学校に入ったのに。

 友達もできただろうに。

「ここにいないと俺の母親にも会えないだろう。あの人はここ近くの山にいるわけだし」

 それが目的でいるんだろうに。


「いいえ。多分、ウルスさんと一緒にいないと会ってもらえません」

 言い切る。

 何で?


 アランさんはこちらとセイナを交互に見ていたが急にあ、と口を開け

「ウルスさんのお母さんをセイナさんは知っているんですか」

 セイナに問う。

「はい。知っているだけで会ったことはありませんが」


 その返答を聞くと、アランさんはしばらく考えたのち

「ウルスさん連れて行ってあげてください。後の面倒について私は降ります。セイナさん、自分の身は自分で守れますね?」

 そういうと。


 セイナは目を輝かせて

「はい!」

 と答えた。


 後のことを頼んだはずのアランさんが敵にまわり、俺は移動先にセイナを連れていくことになってしまった。



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