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病院へ行こう

 俺は、病院に行ったことがない。

 少なくとも、記憶にある限りは、無い。


 そもそも小さい頃はなーんもなくなった後だったわけで、病院などあるわけもなく。

 丈夫な方だったのか、せいぜいたまに熱を出すくらいで、大きな怪我も病気もしなかった。

 その熱も、母親が飲ませる甘苦い薬で済まされていたから、実際にかかったことのない病院への心理的な抵抗は大いにあるのである。

 流石にね、どんなところか知らないわけではないが。


「さ、行きましょう」

 ぞろぞろと車から降りる一行。

 小さいとはいえ、アレスとバードについている血の汚れや服の破れは普段の生活では目にしないもののせいか、他の患者が時々ぎょっとした目で見ていく。

 3階建ての白い建物。

 力を入れなくても開く扉。

 中に入ると、綺麗に掃除された院内にはたくさんの患者さん達がいた。

 それほど大きくはないが、繁盛している。

 復興後にできた病院だから、施設も比較的新しく、それなりに充実しているのだそうだ。

 繁盛しているのがいいことかどうかは分からないけどね。


 俺達は受付に連れていかれ、名前等いくつか記入させられると、すぐに診察室の前へ通される。

 待っていると、薄紅色の医療服をきた年配の女性の誘導で、順番に色々と検査させられた。

 血も、抜かれた。

 思ったより痛かった。


 その後、どうやら怪我をした組は治療を施され、戻ってくる頃には痕はあるものの、傷が綺麗に塞がっていた。

 アランさんは休めば大丈夫ということで、そのまま帰ってきた。

 セイナとシェンリーさんはいたって健康体とのこと。


 で、俺の番。

 診察室に入ると、白い服をきた、40代位の女性が椅子に座っていた。

 顔色はあまり良くなく、長めの髪を前髪ごとひっつめている。

 後ろにはもう一人、ひょろりとした若い男が立っている。

 座っているのが先生かな。


 先生の向かいにある椅子に促されて座る。

 先生は俺の顔とカルテらしき書類を見比べている。


「ウルス・ケイさんですね」

「あ、はい」

「適性も容量も無いとのことですが、間違いないでしょうか」

「はい」

「大きな怪我も病気もしたことはなかったんですね」

「はい」

「病院も初めてですか」

「はい、多分」

 先生は少し考えた後、眉間に皺を寄せてこちらを見た。

 怒っているのではなさそうだが。

「診たところ問題はなさそうです。血液の基本的な検査では正常、頭も瘤が出来ただけで中の方に異常は見られません。ただ、ちょっと、適性や容量がないのと関係があるのかどうか、それ以上はこちらでは分かりません。その瘤も、普通の人であればすぐ治してあげられるのですが、あまり即効性はなさそうです」

 それでも一応治療するとのことで、後ろを向かされる。

 待っていると先生が手を瘤のある場所に当て・・・と思ったらぶにゅっとした何かが瘤にあたり、ひんやりと冷える。

 ちょっと気持ちいい。


 ぶにゅっとした何かが取れると

「はい、痛みはどうですか」

 と聞かれる。

 瘤はそこにあるが、ひりつく感じもずきずきする感じもほとんど無い。

「あ、痛くないです」

 先生凄い。

 即効性あるよ。

「そのくらいであればこちらでも診ることは出来ますが、大きな怪我や病気は対応できないかもしれません」

「はあ」

「何かあれば医学校の方に紹介しますので、大きな怪我等しないよう気を付けてください」

「はい」

 気をつけろったってなあ。

 後ろの男性はその間、一言も話さず、薄い笑いを浮かべているだけだった。

 看護師さんか、研修医さんか。


 とりあえず瘤を治してもらったので診察室をでる。

「大丈夫でしたか?」

 ドアの前でセイナとアランさんが待っていた。

 他の3人は既に組合の方に戻ってしまったらしい。

「うん、瘤も痛くないし。なんか大きな怪我とかしないようにだってさ」

「?はあ」

 セイナもアランさんもちょっと変な顔をしていたが、まあそうだよね、みたいな感じで納得していた。


「セイナは?学校とか組合とか行かなくていいの?」

「はい。学校の方はアランさんが連絡してくれました。組合はアレスさん達が先に行ってくれるそうで」

 じゃあ帰るか、と言おうと思ったがそうはいかなかった。

「では私達は役場へ行きましょう」

 少し顔色の良くなったアランさんが疲れた笑顔で言った。

「え・・・はあ、そうですね」

 がっかりしたのを隠せない。

「セイナさんは休んでくださいね。疲れたでしょうし」

「あ、いえ、私も組合に行かないといけないので。では、失礼します」

 話は済んだと思ったのか、セイナはさっさと出て行ってしまった。

 セイナは待っててくれただけらしい。


 そうだよなあ。

 報告しに行って、報告書とか書いて・・・。

 しかし、どう書けばいいのやら。

 ハマドと課長に聞いてみよっと。


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