突然の出張③
会議室へ戻ると、予想通り、あの3人組がいた。
何となくそうだろうな、とは思っていたけどこの特殊な状況では和やかに挨拶を、という感じではない。
アランさんは俺と向こう3人を両方見てから
「お久しぶりですね」
と声をかける。
アランさんと会うのが、ではなく、皆でそろうのが、という意味だろう。
俺含め大人4人は良いとして、セイナがいる事にはちょっと苛立つ。
誰もおかしいと思わないのだろうか。
アランさんの表情は変わらず、何を考えているかは分からない。
「なぜセイナがいるんですか。子供は皆避難させたんでしょう」
アランさんは何も言わない。
バードとアレスにも言わないと気が済まなかった。
「そっちも面倒なことになるならなんで早く返さなかったんだ」
バードもアレスも表情を変えない。
しいて言えば、バードは何かに苛立っているようだった。
ちらりとセイナを見れば、少し困ったような顔でこちらを見た後、目をそらしてしまう。
誰も何も言わなかった。
今更、ということなのか。
「まず、座りましょうか」
俺の質問には誰も答えないまま、会議のようなものが始まる。
「で、中央はなんて?」
バードが苛立ったまま話し出す。
「今夜、おそらく此処を壊しにくるだろう、とのことです」
アランさんは淡々と答える。
ん?壊しに来る?
「で、どうしろと」
「防ぐよう指示されています」
どう考えても魔物が襲撃する話になってきた。
そうじゃないかとは感じていたけど。
俺、居る意味なくないか?
「防ぐって、どうやって?」
「後でお話しします。その前に、ギルドからの指示はどうなっていますか?」
アランさんの質問に、今度はアレスが文書を差し出す。
「協力の要請に許可を出し、私達をその要員として出すことにしたそうです」
「まあ、上でなんか話をつけたんだろうね~?」
バードが茶々を入れる。
「なるほど。そういうことですか」
アランさんはちらりとセイナを見やり、眉間にしわを寄せる。
多少は子供を巻き込むことを悪いと思っているのだろうか。
アランさんはため息を一つついて立ち上がる。
「分かりました、では具体的に、とは言っても計画通りになるようなことでもありませんので、大雑把に説明します。すみませんがこちらへ来てください」
部屋を出ていくのに皆がついていく。
行きがけバードは小さな菓子を一つつまむと口に入れ、もう一つつまんでセイナに渡していた。
セイナはちょっと遠慮しながらそれを口に入れてもぐもぐしている。
俺達は事務所を出て、車庫へ案内された。
薄暗い倉庫に灯りをつけると、車が出払ってがらんとした空間に、さっきどこからか運んできてとりあえず埃やら汚れを払ったんだろうな、という感じの置物が置いてあった。
見た目は金属か石かで出来た大き目の箱。
上部は硝子のように透明になっているが、硝子ではなさそうだ。
上から中をのぞくと何やら銀色の彫刻のような芸術作品のような、俺には良く分からないものが入っている。
「これは?」
バードが尋ねる。
「結界を張る装置、といえばいいのですかね。土の適性と容量で作動します。範囲は非常に広く、この街の広さなら十分守れます」
「すごいな」
アレスが感心したように言う。
「ただし、お分かりでしょうがその分必要とされる容量は多く、長くはもちません」
まあ、そうだろう。
他の3人も当然というように頷く。
「つまり、僕達がその間に魔物達と戦えってことだよね?」
バードが呆れたように続けた。
「まあそういうことです」
「2人だけで?!」
つい声に出してしまう。
小さいとはいえ街を潰しにくる魔物を、2人だけで相手するのはちょっと酷なのではないか。
そう思い他の面子の顔を見渡すと、全員がおかしな顔をしている。
「いや、流石に2人じゃちょっと」
バードは首を傾げて笑い。
「大丈夫です。4人です」
アレスは真面目な顔でこちらに告げる。
4人?
まさか、俺も勘定に入っているんだろうか。
「俺、何も出来ないけど・・・」
「大丈夫、ウルスさんは最初から入っていません」
アランさんが俺の方に手を置いて頷く。
勘違いだったようで・・・。
ちょっと、恥ずかしい。
「じゃあ、4人って?」
尋ねると、アレスが答える。
「俺と、バード、セイナさん、それから組合からもう一人来ています」
「セイナも?!」
声に非難が含まれていたのだろう、バードが仕方ないな、という風に俺の腕を叩く。
「っもー、あんまり心配しないでよ。セイナちゃんには怪我させないから」
後ろで黙っていたセイナも顔を上げて話し出す。
「あの、大丈夫です。今まで戦って怪我をしたことは無いので」
「躓いて転んで怪我したことはあるけどね」
バードがからかうと、セイナの顔が赤くなった。
なんだか心配性の鬱陶しいお父さんになったような気がして一旦引き下がる。
「ほんとに気を付けてくれよ」
「はい、すみません」
困ったように微笑むセイナには危ないことをしに行く緊張感はない。
もしかしたら本当に危ない目に合ったことは無いのかもしれない。
「さて、話の続きをしてもいいでしょうか」
アランさんが声をかける。
「これで街を攻撃から守って、その間に魔物を追い払う。どのくらいの魔物が来るかは分かりません。ただ、今までの記録からすると、必要以上を送り込んでくることは無いようです」
ある程度魔物をたおせば、それ以上は追加は来ないということか。
「理由はわかりません。が、防衛に成功したいくつかの例で例外なくそうであったので、そうなのでしょう」
「防衛に成功することってよくあることなんですか?」
何となく聞いてみる。
「いいえ。防衛に成功したといっても、街が無傷であったことはありませんし、死人が出なかったこともありません」
え。
背筋に少し寒気が走る。
「なので、その装置の出番なんでしょう」
アレスが目線を装置に向ける。
「そういうことです。戦い方は任せますが、これを利用すれば街もあなたたちも壊れずに済むでしょう」
「まあ、それなら恐らく死ぬことは無いでしょうね」
アレスは淡々として言う。
「ただ、問題がありましてねえ。今まで動いたことがないんです」
「は?」
俺と、バードがかぶる。
「まあ、そんな便利なものがあったら今までだって防衛出来ていただろう。今までは使っていなかったということだ」
アレスは驚いていない。何故だ。
アランさんは顎をこすると、こちらを見てこう言った。
え、まさか。
「で、ウルスさんに叩いてもらおうと思いましてねえ」
うそでしょ。