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突然の出張②

 レトリアへ向かう車の中。

 俺とタミラは休憩もせず、出発前に買った飲み物を飲みながら森の道を走る。

「まあ、つまり押し付けられた感じっすよね」

「ウチの課長がな」

 誰でもいい、とわざわざ付け加えてくれたおかげで、こちらにまわって来るのは大体分かっていたはずだ。


 ウチの課は課長とハマド、俺だけが正規に役場に雇用されている小さな課で、他は事情により時間が短かったり、仕事を掛け持ちしながら仕事をこなしている人達だ。

 そもそもの成り立ちが、役場の立ち上げの時、何も整わない状態で色々なことを処理するのに都合がいいというだけで出来た課。

 今は雑用課みたいなもんで、いつなくなってもおかしくないし、地元枠で入っただけの、何の適性もない俺はいつ解雇されてもおかしくない。


 行けと言われれば行くのがお仕事みたいなもんです。


「あまり行きたくなかった?」

 タミラは前を向いて運転したまま答える。

「うーん、やばそうなら嫌だったっすけど、別にそういう話じゃなさそうだし、まあそれほどでは」

「やばそうならって」

「いや、魔物がうじゃうじゃしてるとか、戦争がはじまるとか?怖いのも痛いのも嫌ですもん」

 この間の事を思い出しているのだろう。

 今回は突然だったが護衛の人を組合から寄越してもらうことができた。

 ただあんまり愛想の良い人ではないようで、挨拶をしたきり、一番後ろの座席で目を瞑って寝ている。

 一見小柄な少年のようだが、体と頭を隠してしまうような外套の中から、ちらりと軽装だが冒険者風の服装が見えたので、一応冒険者なのだろう。

 冒険者に普通の人はいない。

 多分。


 レトリアまでは何のトラブルもなくついた。

 すれ違うバスや大型の車には多くの人が載っていた。

 不安を感じた人達が念のため避難でもしているのだろうか。


 ついたころにはもう夕方になっていて、小さな鉱山町でしかないレトリアは酒場や家に向かう人々がちらほら歩いていてもいいはずなのだが、街の中は閑散としている。

「なんか、気持ち悪いすね」

 タミラが左右を見ながら言う。

 確かに違和感のありまくる風景。


 とりあえず役場の方へ向かう。

 ここは以前の事件の際に、攻撃対象に入らなかったため、役場の建物は古い。


 駐車場に車を止めると、正面玄関から入って受付にまわる。

「すみません。シュトラス開発調整課のウルス・ケイです」

 小さなガラス戸を開けて告げると、いつも受付の一番近くに座っている年配の女性が近づいてきた。

 ちらりと見えた役場の事務所内部は、やっぱりなんだか変な雰囲気が漂っていた。

「お疲れ様です。所長がお待ちですので2階でお待ちください」

 所長。

 アランさんか。

 てっきりこっちに昔からいる地元のやつが仕事を割り振るのかと思ってたけど。


 タミラも来るように言われたので護衛の人に待っていてもらい、2階へ行く。

 学校にありそうなうすい引き戸を開けると、すでにアランさんが座っていて、俺とタミラの分のお茶とお菓子が用意してあった。

 アランさんは立ち上がって挨拶する。

「お久しぶりです。まあ、こちらに座ってください」

 椅子は他にもいくつか用意してあり、他にも誰か待っているようだった。


 俺とタミラはとりあえずアランさんの前に座り、話始めるのを待つ。

 タミラは何となく落ち着かないのか、無駄にきょろきょろしている。

「まずはこんな時に来ていただきありがとうございます」

 行けと言われてきました。

 とは言わないけど。


「早速ですが、タミラさんにはウチの職員を全員連れて、シュトラスへ帰ってもらいます」

「へ?」

 タミラが変な返事をする。

 乗ってきた車から、人を乗せて帰るんだろうことは予想が付いたが、職員全員とは。

「といっても、ご存知の通り小さな役場ですから、そんなに人数はいません」

 多分、乗ってきた車に全員乗るだろう。

「え、でもあの、ウルスさんとかアランさんは?」

「私達は残ります」

 有無を言わさず、の言い切り方でアランさんは言った。


 何かが起こったんだろうということは分かったが、それ以上は何も教えてもらえず、タミラは眠気覚ましにと、何かの薬とお菓子をもらってシュトラスへ帰っていった。

「じゃあ、なんかよくわかんないけど帰ります」

 ちょっと不安そうなタミラの顔を思い出すと、自分まで不安になってくる。


 タミラと職員を見送ると、アランさんはこちらをちらりと見て、にこりとする。

「さ、戻りましょうか」

 すたすたと帰っていく。

 あたりはもう薄暗く、道を照らす灯りがつきだしている。

「あの、ちょっと、どうなっているんでしょうか」

 後をついて行きながら尋ねると、振り向かないまま答えが返ってくる。

「君が聞いた通り、面倒なことになっていますよ」

 それ以上どう聞けばいいかよくわからなかったので黙ってしまう。

 最初に作られた印象と違う雰囲気に戸惑うのと同時に、ちゃんとした人なんだよな、と当たり前に感心しながら事務所までの道をついて行った。

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