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突然の出張①

 隣町の鉱山が崩落した、との知らせは何の予定もない平和な午後に落ちてきた。


 正確には、崩落された、が正しい。

 鉱山を、掘りすぎたのだ。


 隣町の鉱山は、魔族との国境に接している。

 彼らは鉱石にあまり執着はしていないが、定期的に行われている協議によって、毎年こちら側から掘ってもいい範囲を決定している。

 鉱山ではそれに従って計画を作り、その通りに掘っていく。

 勿論、毎年少しづつその範囲は広がってしまうこともあるわけだが、何故か計画通りに掘る分には魔族たちは何も言わない。

 意思疎通ができない魔物達が入り込む可能性もあるが、そもそも入口から管理しているため、大きなものが入り込むことは無い。


 しかし、計画を外れた採掘がおこなわれた場合。

 魔族は簡単にその坑道を崩壊させる。


 採掘に適した適性と容量、そして知識と技術をもって採掘している作業員たちは、普通ならば崩落が起こらないように採掘しているし、多少の異常があっても対処できるようになっている。

 通常では事故は起こらない。


 だから、崩落の事故、とはそういう意味だ。


「なにやってんだよ」

 隣でハマドが白けたように呟く。

 慌ててはいないように見えるが、実際のところその事態によっては大事になるだろう。


 原因が何なのか、によるのだ。

 計画時の誤りか、現場での失敗か、意図的なものか。

 もし、中央に意図的なものがあったと判断された場合。

 嫌な想像をしてしまい、ぞくりとする。

「・・・なわけないけど、ほんとやめてほしいな」

 つい愚痴が付いて出る。


 大体崩落の事故、というだけで、忙しくなる。

 魔族側との協議は中央がやるだろう。

 だが、隣町のレトリアは此処シュトラスよりも小さく、怪我人の救出やら治療、事後処理等、こちらが中継することになる。

 うちだって大きな街じゃない。

 それを総動員させてやるとなれば・・・あまり考えたくない感じだ。


 状況が分かるまで、そして中央の指示があるまで各自待機、という連絡がまわる。

 いつもは平和な職場になんとなくピリピリした空気が流れる。


 そこでふと、思い出す。

 今日の朝、セイナが言った言葉。


「すみません、今日は学校の後、レトリアでの仕事が入ったので遅くなります。この間の2人も一緒ですので何かあれば連絡します。では行ってきます」


 今日、学校は午前中で終わる。

 その後すぐ行ったとすれば、今頃隣町にいるはずだ。

 この間の2人、あのバードとアレスとかいう青年たちと。


 そのメンバーで行くということは、おそらく魔物駆除、もしくは魔物が出る場所の作業依頼の可能性が高い。

 そんなことは無いと思うが、もし、鉱山内の駆除とかだったりしたら。

 さっき感じた悪寒とは別の、嫌な感覚が湧く。


「どうしたよ」

 ハマドが声をかけてくる。

「え、ああ、セイナが多分今レトリアにいるんだよ。ちょっと心配で」

 察したのか、ハマドも渋い顔になる。

「組合の仕事か。タイミング悪いな。連絡はつかないのか」

「連絡をつけられる組合員と一緒のはずなんだけど、会ったとき連絡先きくの忘れてたんだよ」

「さすがに娘の彼氏の連絡先はききづらかったか」

「彼氏じゃないし娘じゃない。いろいろあって名前しか聞く暇がなかったんだよ」

 別に連絡する必要もないと思っていたし。


 場の雰囲気に遠慮して少し小声で話しながら、ハマドは少し考えたように腕を組む。


「名前は?」

「は?」

「そいつの名前だよ」

 同行者2人のことか。

「バードとアレス。名前だけじゃなんも分からないだろ」

 名前を聞いたハマドがきょとりとする。

 その後頭を掻きながら

「お前そんなんでよく生きてこられたな」

「・・・お前、ほんと口が悪いよな」


 なんで馬鹿にされたのかはよく分からないが、ハマドはメモにサラサラと通信連絡先を書き、俺に渡す。

 いつも思うが、綺麗な字だ。

「今混んでるかもしれないしなんかあると面倒だから早く済ませてこいよ」

「これは?」

「連絡先」

 素っ気なく帰って来る返答。

 分かってるよ、誰のだよ、と言いたかったが、おそらくこれはバードの連絡先だろう。

「ありがとう、助かる」

 お礼だけ言って通信機械の所へ向かうことにした。


 案の定通信機械の前は混んでいた。

 職員だけなのでそれほど待つことは無かったが、順番が回ってきた時には後ろにも何人が人がいたので手早く機械の画面に入力する。


 呼び出し音が何回か鳴り、それが途切れて、声がする。

「はいはーい」

 軽い声。

「あ、あの、セイナの保護者のウルスですが」

 あんまり通信は得意じゃないんだよな。

「ああ、セイナちゃんのお父さん!ちょっと待ってね、セイナちゃーん、おとーさんだよー」

 声が反響して響いている。

 やっぱり坑道内にいるんじゃないのか?

 しばらくしてごそごそと音がしてからセイナが話し出す。

「すみません、セイナです。どうしましたか」

「どうしましたか、じゃなくて。今どこにいるの」

「えーと、鉱山の中です」

 ほんとにいた。

「崩落したって聞いたけど大丈夫なの」

 その割にはなんだかセイナもバードものんきな感じだ。

「え、あ、はい。大丈夫です。誰も死んでません」

 ん?

「えーと、もしかして崩落の現場の近くにいる?」

「はい、どうやら採掘の方向が少しずれていたようで、監督する方がそれを訂正する前に、新しく来た採掘者が間違って進めてしまったのが原因のようです」

 現場からの中継により、原因が判明してしまった。

 ってそうじゃない。

「まさか、その場にいたの?」

「はい」


 何となく途中からそうじゃないかと思ったが、それ以上何を言ったらいいやら分からず一瞬黙る。

「あの?ウルスさん?」

「・・・まあ無事なら良かった。ちょっとバードに代わってもらえるかな」

「はい」


 しばらく間をおいて、バードが出る。

「なんでしょー?」

「ちょっと俺に分かるように詳しく何があったか説明してくれ」


 向こうで乾いた笑いが聞こえる。

「だよねえ。でも完全にこれは予想外だったんだって。普通こんな事無いって知ってるでしょ?まあ説明するけどー、組合から直接僕たちに坑道内の駆除依頼が来たから、3人で行ってー、大体片付いたところで一応決まりなんで採掘現場まで確認に行ってー、そしたらちょうど崩落が起きてー」

 なんか喋り方がまどろっこしいが気にしないように聞く。


「聞いたら“間違った”って言うもんでさ?」

 バードの言い方が変な含みを持っているのは多分気のせいじゃないだろう。

「予想通りどっからか魔物は湧くわ出口は塞がってるわ大変だったんだよー」

「で?どうしたんだよ」

 得意そうに鼻をならしながらバードが答える。

「もちろん魔物はぜーんぶやっつけて、出口も作ったよ!」

「やっつけたのはほぼセイナで出口を作ったのは採掘者と俺だがな」

 後ろからつっこむ声は多分アレスだ。


 ちょっとこっちに、というつぶやきのあと、今度はアレスが話始める。

「今回もご心配おかけして、すみませんでした。そういう事情ですので少しセイナさんをお返しするのが遅くなるかと思います。これで中央もしくは担当者へは事情が伝わっている可能性が高いので、ややこしいことになるとは思いますが、よろしくお願いします」

「えっ、どういう・・・」

「えー、知らないでかけてきたの?役場の通信機械なんて全部中央に管理されてるってば」

 知らなかった。

 言われてみればそういうこともあるか、と納得するが、ややこしいこと、とはどういうことだろう。

「というか、なんかまだ面倒なことがあるってこと?」

「え~?ま、これ以上は有料でーす。お父さんも心配なら迎えにおいでよ~じゃね」

「!来ないでくだ」

 ぶつっ。

 セイナがそこだけ焦って後ろで叫んでいたが、通信は一方的に切られてしまった。


 とりあえず無事は確認した。

 が、なんだか気になることばかり言われた気がする。

 セイナは大丈夫だから心配するな、と言っている。

 アレスは面倒ごとがあるだろうからこっちで仕事を頑張れ、と言っている。

 で、バードは気になるなら自分で確かめに来い、と言っているわけだが。


 どれに従うか。

 仕事もあるしな。

 突拍子もなく自由な冒険者たちと違って、あんまり決断の速さもないし、憶測で行動もできないんだよな。

 冒険者とかになったらすぐ死ぬタイプかもしれない。

 でもセイナも心配だ。

 行ったところで、もし魔物と戦うなんてことになれば何の役にも立たないわけだけど。


「うむーう」

 席に戻っても変なうめき声が出てしまう。

「通じたのか?」

 ハマドが尋ねる。

「あ・・・ああ。無事みたい。でもなんか現場にいるらしくて」

「は?」

 そうだよねえ。

 そういう反応になるよねえ。

「魔物も大丈夫だったようだし、坑道からも出られるそうなんだが、なんだか気になってな」

「そりゃあそうだろう」

 多分心配して当然だろう、という意味合いなんだろうけど、それよりも何か引っかかる言い方をされた方が気になっているんだよな。


「ウルス、どこ行ってたんだ」

 課長が机に座ったまま声をかけてくる。

 課長が一旦上に呼ばれている間に通信に行ってしまったので、帰ってきた時にちょうど席を外していたことになる。

「すいません、ちょっとセイナに連絡を」

「ああ、そういうことか。さっき指示があって、今から急いでレトリアまで行くようにとのことだ」

「えっ」

 今から?

「怪我人はいないし、閉じ込められてもいないそうなんだが、レトリアから大き目の車と、誰でもいいから人を寄越してほしいと要請があったそうだ」

 課長は少し申し訳なさそうに言う。

「・・・俺は運転できませんが」

「運転手と一緒にだ」


 どうやら悩む必要はなくなったらしい。

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