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それが起きた夜

初です。よろしくお願いします。

 遠くで、重い音がする。

 頭の中の声が消える。

 夜もふけて、人の目には黒と紫紺の稜線しか見えないはずの時間。

 ただ眠っていて、朝が、明日がくるのを待つだけのはずだった。それなのに。

 

 地鳴りと共に感じた大きな揺れで目を冷ますと、目に入ったのは床に落ちていく小物たちと不安定にがたがたと動く家具たちだった。

 数秒たっても揺れは収まらず、怖くて、ベッドから上半身を起こしたまま動けなかった。

 声もあげられずただ待っていると、本棚が倒れたところで揺れは収まった。

 それほど大きな物がなくて良かった。もしかしたら潰されていたかもしれない。

 浅くなっている呼吸と飛び出そうなくらいの心臓の鼓動に泣きそうになる。

 怖い、怖かった。


『それじゃあ、おやすみなさい』


 寝る前に優しく声をかけて部屋を出て行った声を追い求めて、私は寝間着のままドアを開ける。

 明かりはない。

 それでも家の中で物が散らかっているのは分かった。

 そうして気付く。誰もいない。

  (外に、出て行ったの?置いて行かないでよ、もう!)

 玄関に掛けてあったコートと携帯用の灯りを掴んで、外へ飛び出した。

 私の家は山の中にある。

 不便だし、友達と遊ぶのにも遠くて嫌なのだけど、お父さんの仕事の都合で仕方のないことだと言われればどうしようもない。

 でも、他の人の家まで行くのに最低でも歩いて15分かかる。学校まではもっと。やっぱり不便。

 山に住む子供たちは、何かあった時は街まで降りて学校に集まることになっているから、私もそちらの方へ向かおうと歩き出した。

 早く誰かに会いたかった。

 街が見下ろせる所まで来ると、赤い光が目に入った。

 火事?地震のせいだろうか。

 私達の街は木で出来た家が多いから、火事になればたちまち燃え広がってしまう。

 学校は街から少し離れているから、多分大丈夫だと思うけれど。

 そうして校舎の屋根が見える所まできた時、頭の上がぱっと明るくなる。

「え…」

 夜が明けたのかと思うくらいの明るさが一瞬で頭の上を通り過ぎていく。

 何が起こったのか分からなかった。

 その次の瞬間には大きな音と再び起きた地震で尻餅をついていたのだ。

 そしてやっと気づいた。

 今起きていることが、ただの地震のせいじゃなかったことに。

(あ…これは…だからお父さんはいなかったんだ)

 揺れが収まると、今度は走り出す。

 まずは学校へ急ぐために。

 そこが確実に安全ということではなかったけれど、誰かいるかもしれなかった。

(間に合いますように…!)

 私達の学校は、古い木造の校舎がコの字に並び、その中に校庭がある。

 何かあればそこに皆が集まる。

 そうでなければ、校舎の裏にある大きな集会場にいるはずだった。

 私は裏側から校舎に向かっていて、集会場に灯りが無いのを確認していた。

 それなら、多分校庭にいるのだ。

 運動が苦手なくせに全力で走っているせいで、胸が痛くなる。

 もう少しで校庭に出られる。

 校舎の横を過ぎて前に回り込み、私はやっと校庭にたどり着いた。


 でも、遅かったのだ。

 そこにいる全ての人は、倒れていた。

 死んでいるのではなく、多分眠らされている。

 朝になっても目覚めることのない、そういう類の眠り。

 幸か不幸か、彼等が私達を殺すことはまずない。

 ただし、殺すことはとても簡単なのだ。

 どちらに転ぶかは、交渉次第。

 もちろん、それは私がすることではなく、私に出来るのは祈ることだけ。


(きっと、大丈夫…)

 私はそう信じていた。


 その夜、数千の命が一瞬にして、消えた。

 そして、街ひとつも、同じく更地になったのだった。




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