リベンジ
「失敗した!」
僕とシヴァのプラズマ銃、圭汰さんとHarthの狙撃、それら全てをアセナに避けられてしまった。しかも...圭汰さんが殺られた!
『圭汰が死亡しました』
仲間の死亡通知が届き僕の焦りはさらに募る。
アセナは何事もなかったような顔で綺麗に着地、手には圭汰さんを撃ち抜いた大きめのスナイパーライフルを持っている。
そして...
「──!!」
距離の離れたアセナと〝目が合ってしまった 〟
僕の存在に気づいたアセナがライフルをこちらに向けた。
その目は完全に獲物を見つけた獣のソレだ。
僕は背筋がゾッとして体が固まってしまった。
そしてアセナが僕目掛けて撃とうとしたその時─
「プシューーー」
アセナがいる広場が煙に包まれる。
『〝 瞬間移動〟を使え!』
シヴァからの通知で僕は我に返った。
この煙は作戦が失敗した時の為に圭汰さんが広場に仕掛けておいたスモーク。それをシヴァかHarthが撃ったんだろう。アセナが目眩しを食らっている内に僕は人狼の特殊能力〝 瞬間移動〟を発動させる。この能力は文字通り〝 遠くの場所に移動する〟能力。自分が人狼だとバレた時用の能力だ。
視界が光りすぐに回復する。周りはさっきと同じ街並み。違うのが西の街よりも建物が豪華で密集していて、比較的高い建物が多い。マップで確認してみると僕は王都に瞬間移動したようだ。
『みんな無事?』
『おう』
『生きてるぜ~』
他の2人も既に瞬間移動していて、Harthが東の街、シヴァが南の街にいる。
『とりあえずアキがいる王都に集まろう。そこなら見晴らしがいい』
『うん、分かった』
『あー...それはちょっとキツいかな~...』
Harthの提案をシヴァは拒否する。
『どうして?』
『今レーダー使って見たらさー、アセナがコッチに向かって来てるんだよなー』
どうやらアセナは僕達を追って南の街まで高速移動中らしい。僕達がどこにいるかはアセナ自身は分からない筈だから手当たり次第って感じか。
『別に戦わずに隠れてやり過ごせばいいんじゃないか?』
最もな意見だ。いくらシヴァでも1人でアセナと戦うのは厳しい。
『いや、Harthとアキには悪いが俺は〝 戦う〟』
今僕達3人の中で1番実力があるのは間違いなくシヴァだ。理由は単純、アセナ同様ゾディアックシリーズを持っているから。アセナを倒すにはシヴァのアクベンスが必要不可欠。
いくら同じゾディアックシリーズでもアセナのスピードでは弾もまともに当たらないだろう。
『私情を挟むようで悪い、前からアセナと〝タイマン 〟 で戦って見たかったんだよな~。同じゾディアックシリーズを持つもの同士、どちらが強いかも気になるし~』
『でもいくらなんでも1対1じゃ...』
『分かってるよ、アキ。まともに戦ってもアセナには勝てない』
シヴァが強いからこそアセナとの実力差も分かっているんだろう。
『俺はアセナを〝足止め 〟する。ワンチャン倒せたら倒すけど...。その間にHarthはアキと合流してくれ。王都なら西の街と違って上 を取ればかなり有利だからな。仮に負けても半分は、いや6割はHP削ってやるよ』
シヴァは自ら足止め、時間稼ぎを志願した。普通なら止めるべきだが...
『分かった、俺は王都に向かう。アキは王都で待機。シヴァは頑張ってアセナを削ってくれ。負けたら骨くらいは拾ってやるよ』
Harthはシヴァの提案を受け入れた。多分2人はリアルでも友達なんだと推測できる。シヴァが1度言ったら曲げない性格であることをHarthも理解しているんだろう。
『おう、二人共...〝 頑張れよ〟』
『任せて』 『任せろ』
マップに表示されている赤い点が王都に向かって動き出す。それと同時に異常な速さで動いている緑の点が自分がいる南の街に入った。
「さて、まだ序盤だけど...踏ん張り所だな」
俺は右手に持っている相棒を握る。
俺はアセナが通るであろう道でアクベンスを構えて待った。アセナが土煙を巻き上げながら走っているのが見える。アセナもこちらに気づいたのか動きを止めた。お互いの距離は20メートルほど。
しかしアセナは銃を構えてはいるが俺を撃ってはこない。それは俺も同じだ。
「貴方はさっきの・・・」
「Schweinだ」
軽く名乗っておく。
「その銃・・・ゾディアックシリーズね」
「そうだ。同じゾディアックシリーズを持つもの同士。タイマンと行こうぜ」
「他の仲間は?あと2人いる筈・・・」
「ここには居ねーよ。まぁ、そう言っても信じないだろうがな」
アセナの目が俺を睨みつける。威嚇している狼みたいで迫力満点だ。
「貴方1人じゃ私には勝てない」
「仲間にも同じことを言われたよ。でも俺は...
〝どうしてもお前を倒したい 〟」
「どうして私に拘るの?」
「はっ、2ヶ月くらい前まで〝 最強のプレイヤー 〟と周りからもてはやされた奴が〝 ぱっと出たてのルーキー〟に殺られたら拘るなって方が無理な話だろ?」
あの時の悔しさは今でも鮮明に覚えている。
「なるほど、前も私と戦ったことがあったって訳ね、納得したわ。覚えてないけど」
アセナは呆れたような表情になった。
「そういう事だ、それじゃあ始めようか」
俺はもう一度アクベンスを構え直した。アセナも同様対物ライフルOSV-96を構えた。カチャッと重い金属音が響く。
「リベンジ戦だ」
そして2つの銃音が重なり合う。