襲来する、
さっき同様広場をHarth、圭汰さん、僕、シヴァで東西南北の方向に配置し包囲。こちらに向かってくる最強のプレイヤーアセナを一網打尽にする。
それが僕達の作戦だ。
「作戦はさっきと変わらない。東西南北で囲んでアセナをこの広場まで誘い出して、今度は俺とアキがプラズマ銃を撃つ」
「だが、アセナのあの素早さだと避けられるんじゃないか?」
圭汰さんがシヴァの作戦に疑問を唱える。
「分かってるよ。勿論さっきと同じだと避けられるだろーな。だからちょっと工夫させてもらうさ」
さっきの2人の会話を思い出しつつ僕はプラズマ銃を実体化して両手で持つ。
『アセナが西の街に入った』
『了解、手榴弾投げるわ』
圭汰さんの報告を受けHarthが手榴弾を広場に目がけて投げた。爆発音が響き渡り煙が広場を囲う。この音でアセナがこっちに向かってやってくる筈だ。
煙が消えかけた頃に圭汰さんから報告が届いた。
『アセナがこっちに向かってきている。シヴァとアキは準備しろ』
『了解』
『了解~』
「ふぅ……」
息を整え銃を構え直す。凄く緊張してきた、心臓の鼓動も早くなる。ゲームの世界なのに心臓の鼓動まで感じることができるなんて本当にこのゲームは〝よく出来ている〟。
『あと100メートルで広場に入ってくる。アセナにバレないように隠れつつ構えろ』
すると前方に砂煙を巻き上げながら広場に向かってくる人影が見えた。砂煙の量的にかなりの速度で走ってるようだ。次第に鮮明にそのプレイヤーの姿が確認できる。水色の髪と氷のような目。髪は結構短め、戦いやすいように配慮したものなのかもしれない。最強のプレイヤーのご登場だ。
そしてアセナが広場に入る──次の瞬間、
アセナは体のバランスを崩し前のめりに転んだ。
かなりの速度で走っていたこともあってかなりの距離をゴロゴロと転がる。
まるで〝何かに足を取られて転んだみたいに〟
僕達は広場に入れる道に糸を注意が向きにくい足ら辺に仕掛けていた。これも人狼の特殊能力の1つだ。直接的なダメージはないので使う人はほぼいないらしい。
キィィィィィン
キィィィィィン
そして僕とシヴァはプラズマ銃をアセナ目がけて撃った。
バチバチバチィィィ
ボンッ
プラズマ弾が地面に落ち、広場にプラズマの光が充満すると同時に爆発が起こった。
「何だ・・・、?」
見ると爆風の中からアセナが出てきた。
しかも〝真上から〟
爆風で体を空中に押し上げてプラズマ弾の包囲網を避けた!?
プラズマが広がる直前に地面を強く踏んで高く飛び、真下に目がけて手榴弾を投げ、その爆風で体が宙に浮く。爆風を利用した見事な避け方だ。
「本当に避けるなんて・・・〝シヴァが言ったとおりになっちゃった〟」
「でもこの作戦、自分で言っておいてだが多分失敗する」
「「「え?」」」
突然の失敗宣言にシヴァ以外の3人の声がシンクロした。
「いや、あくまで多分だ。成功するに越したことはないんだが、多分何かしらの方法で回避してくると思うんだよ。予想だけど多分〝上〟に避けるんじゃないかな」
「上に避けるって・・・そんなのどうやって?」
「さぁ?ただもしそうなったらこっちの勝ちだ」
「どうして?」
「それは──」
「やっぱり上に避けたな」
シヴァは空中に現れたアセナを見て微笑する。
最初に6人の村人陣営を倒す時に何故圭汰とHarthにプラズマ銃を撃たせたか。空中だとまともに狙撃を避けるなんて不可能。狙撃銃を持っていた圭汰とHarthに空中に出てきたアセナを狙撃させるためにあの二人を取っておいた。ましてや2人から狙撃されるとなると避けるなんて〝絶対無理〟だ。
狙撃銃の音が2発聞こえる。2人が狙撃したんだ。これでアセナを倒して残りの雑魚共を屠る。
俺達人狼陣営の勝ちだ!
そう俺は勝利を確信していた。多分他の3人もそう思っていた筈だ。
だが、アセナはとんでもない行動を起こす。
アセナはさっきプラズマ弾を避けた時に使ったのと同じ手榴弾を出し、圭汰がいる方向に向かって投げた。それが圭汰の撃った弾に当たり爆発する。そして爆風でアセナが今度は〝斜め下〟に吹き飛ばされる。Harthが撃った弾は虚しく空に飛んでいった。さっきもそうだがいくら爆発で避けるといってもそれなりにダメージは食らう筈だ。
それに自分目がけて狙撃された弾に手榴弾を当てられるか?!ありえない、どんな視力してやがるんだよあの野郎・・・!
アセナはそのまま背中を地面に向けて落下していく。そして〝かなりデカい銃〟を実体化した。
「あれは・・・対物ライフル!!?」
対物ライフル、昔は対戦車用ライフルとも呼ばれていたらしいがその名の通り威力は絶大でまともに食らえばほぼ即死レベル。オマケにレア度もエトワールシリーズにも引けを取らないくらいの超レア武器だ。対物ライフルの存在は噂で聞いたことはあったが持ってるやつがいたなんて・・・!!
アセナは対物ライフルを構えて圭汰がいる建物目がけて落下しながら狙撃した。
耳を劈くような音とともに建物の屋根が木っ端微塵に吹き飛ぶ。
『圭汰が死亡しました』
そう通知が来て俺は立っていた屋根を叩いた。
「クソっ!あんなのアリかよ!」
対物ライフルは通常のライフルよりも遥かに長く大きく重い、しかも反動が強力で、設置による支持射撃状態(いわゆる伏射が主流)以外から、すなわち通常のライフルのように肩づけや腰だめで正確に射撃するのはほぼ不可能な筈なのに。
落下しながら撃てるだけの筋力値があるってことかよ。
アセナがそのまま綺麗に着地する。プラズマ弾の効果はとっくに切れていた。特に顔色は変わらず平然としている。
「化け物め……!」
アセナの余裕そうな様子を見て俺はそう言わずにはいられなかった。