日常1
1限目が始まる前。
「あぁ、憂鬱だ・・・」
季節は5月下旬。雨。そろそろ梅雨入りしてくる時期だ。だが、僕が憂鬱なのは雨のせいじゃない。
「どした、諒人。元気ねーな」
「察してやれよ、成哉」
僕の親友の勇輝と成哉が話しかけてくる。
「あー・・・そっか。諒人、志乃と別れたんだったな」
グサッ
そう。僕は中学から付き合っていた中川志乃に振られたのだ。人狼ゲームに夢中ですっかり忘れていた。
おかげで僕のライフはもうゼロよ。
「まぁ、そう落ち込むな。女なんて星の数ほどいるしな」
「そうそう、新しい恋にレッツゴー!だぜ!」
2人から励ましの言葉が送られるがそれでも立ち直るにはしばらく時間がかかりそうだ・・・
あれから1週間経っているが未だこの調子。
「それにしても諒人と志乃もフリーになったから激しい争奪戦の始まりだな」
なにやら成哉が訳の分からんことを言っている。
「争奪戦って・・・?」
「決まってんじゃん。諒人と志乃の争奪戦だよ。
お前ら2人学年でもかなり人気だからな」
「いやいや、志乃はまだしも僕はそんなにモテないよ?」
「やれやれ、鈍感もここまで来ると呆れるな」
何故か勇輝までそんなことを言った。
志乃は文武両道、超絶美人だから男子のなかでもトップクラスにモテる。
それに比べて僕は勉強は普通だし、コミ障だし・・・
「陰キャの僕がモテるはずないよ」
「いや、お前気づいてないだけでめちゃくちゃモテてるからな!?」
「休み時間は常に周りに女子がいるだろ?それが何よりの証拠だ」
確かに休み時間はクラスの女子がよく話しかけてくるがそれだけ。悪い気はしないがコミ障の僕はむしろ少し困ってるくらいだ。
「それに諒人は運動神経もいいからな。特に最初の体育の授業でバスケしただろ?」
「あー、僕がダンクしたやつ?」
「そうそれ。あれで女子の注目の的だ。おまけに顔もイケメンときてる。モテる要素しかないな」
「いや、イケメンではないと思うけど」
「イケメンというよりは可愛い系・・・か?女はギャップ萌えするもんなんだよな~」
女の子の気持ちはよく分からん。
「うちの学年結構女子のレベル高いと思うぜ?ほら、あそこで喋ってる皐月ちゃんとか」
成哉が指さす方を見てみる。うちのクラスの女子と喋ってる薄茶色の髪でショートカットの女子。
確かに可愛い。でも僕は志乃が忘れられない。
「確かに可愛いけど・・・」
「あの子めちゃくちゃバスケ上手いんだぜ?頭もいいし、最適物件ですぜ?」
「あの子うちのクラスじゃないよね?」
「おう、隣の2組だ」
うちは1クラス40人の10クラスもあるから僕達1年生だけで400人もいる。
まぁ、成哉はコミ力高いから他クラスでも知り合いは多いんだろう。
「そう言えば諒人、1つ聞きたいことがあるんだが」
「ん?なに?勇輝」
「お前、ここ1週間で何人に告白された?」
「え?・・・3人だけど」
「めちゃくちゃモテるやないかーい!」
成哉から軽快なツッコミが飛んでくる。
「あ、そんなことより僕も2人に聞きたいことがあるだけど・・・あのお金どうした?」
あのお金とは1週間前に人狼ゲームで勝った時に貰ったお金のことだ。1コイン=1円。
初期の持ち金が10万コイン。これだけでも十分大金だけど、僕達は人狼側でゲームに勝った。
まずゲームに参加した時に自動的に1万コインが賭けられる。人狼側で勝った場合賭け金が2倍になって返ってくる。
さらにキルボーナスで僕は1万コイン。
勇輝は2万コイン。成哉に限っては6万コイン貰っていた。コインは現金に替えることが出来る。
「俺はまだ使ってないな」
「あぁ、あのお金?ちょうどパソコンが欲しかったからさ~。溜まったら買おっかな」
「使う気満々なのかよ」
成哉のユルユルさに勇輝がつっこむ。
「はーい、席に着けー。授業始めるぞ~」
僕達の会話は先生の声で中断する。
勇輝と成哉はそそくさと席に着いた。
ちなみに僕は窓側の1番後ろの席。
成哉は僕の1個前でその隣が勇輝。
「はい、それじゃあ英語のテスト返却するぞ~」
英語教師の吉川がそういうとクラスからは悲鳴が聞こえる。この間行った中間テストの結果が返ってくるのだ。今日と明日はテスト返却の時間で潰れるのはラッキーだけどテストは返ってきて欲しくない。特に英語は苦手科目。
おかげでさらに憂鬱になりそうだ・・・