路地裏
「別れて欲しいの・・・」
「・・・え?」
放課後。人が滅多に来ない空き教室に呼び出された僕は付き合っている志乃に突然別れを告げられた。
「えーと、・・・理由を聞いてもいいかな・・・?」
急な話で混乱していたがなんとかそう問いかける。
「もう諒人君のことが好きじゃ無くなっちゃったの」
その言われて僕は心にポッカリ穴が空いたような感じがした。そのかわり何故か逆に冷静になった。
「そっか、・・・志乃がそう望むなら別れるよ」
「・・・ごめんなさい」
そう言って志乃は涙目になりながら早足で教室を去っていった。教室に残されたのは呆然と立ち尽くす僕だけだった。しばらく突っ立っていた僕はふと我に返り教室を出た。すると廊下には見知った人物が二人いた。二人とも気まずそうに僕を見ている。
「二人とも・・・聞いてたの?」
「いやー、そのー、アハハ・・・」
笑って誤魔化そうとしてる背が低めの彼は鵜飼成哉。
「すまない諒人、止めたんだが成哉が見に行こうって聞かなくてな・・・」
メガネをクイッとあげてそう言ったのが神崎勇輝。
二人とも僕の親友だ。
「でも・・・あれで良かったのか?」
「そうだぜ、男なら『お前とは別れたくねー!!』って言うべきなんじゃないか?」
二人からダメ出し?を喰らう
「志乃が別れたいって言ったんだから仕方ないよ、向こうが嫌なのに付き合っても・・・ね」
「それに・・・志乃は運動も勉強も出来るけど、僕は勉強は普通、運動に関しては帰宅部だし、元々僕達は釣り合わなかったんだよ」
そう言って二人に向かって笑ってみせる。うまく笑えてるかは正直自信が無い。
「そうか?結構お似合いだったと思うけどなー」
勇輝も成哉の言葉に同意するように頷く。
「もう終わった事だよ。それより成哉は部活大丈夫なの?」
「親友が振られて悲しんでるのに部活なんかできるかよ」
成哉が笑いながら僕の肩を叩いた。
「・・・とりあえず、帰ろっか、」
そう言って僕達3人は玄関に向かった。
「成哉、部活はちゃんと行けよ」
「分かってるよー、勇輝。あ、そうだ!」
靴を履き替えてる途中に成哉が
「久しぶりにさ・・・アレしに行かない?」
と、突然提案してくる。
「まぁ、・・・久しくしてなかったし行ってもいいぞ」
勇輝も成哉の提案に賛成のようだ。二人が賛成なら僕に拒否権はない。
「アレか・・・まぁ、別に行ってもいいけど」
「よし!決まりな!8時にいつもの場所で頼むわ、んじゃ、部活行ってきまーす」
そう言って成哉は颯爽と体育館に走っていった。
僕と勇輝は途中まで帰り道が一緒なのでそこまで雑談しながら一緒に帰った。
「じゃ、俺こっちだから」
「うん、後でね。勇輝」
「あぁ、また後で」
そう言って僕は真っ直ぐ、勇輝は右を曲がって帰った。1人の帰り道。志乃に振られたことがフラッシュバックした。悲しいと辛いをグチャグチャに混ぜたような気分、とても重い。辛い。哀しい。辛い。
気づいたら家に着いていた。ちなみに隣は成哉の家だ。「暁」と書かれた表札。白い壁。茶色の屋根。僕の家だ・・・、こんな時だからだろうか、自分の家を見てこんなに安心した気持ちになったのは生まれて初めてだ。鍵を開けて、家に入る。
「ただいま・・・」
返事はない。何故なら僕を含めてこの家に住んでるのは二人だけ。もう1人の住人は部活でまだ帰ってきていない。
「夜ご飯でも作るか・・・」
時計を見ると時刻は6時。ご飯を作るには丁度いい時間帯だ。僕は荷物を部屋に置いて肉の下ごしらえから取り掛かった。
いい感じにビーフシチューが出来上がった頃にドアがガチャっと開いた。
「ただいま」
「おかえり、奈緒」
彼女がもう1人の住人、暁奈緒。僕の従姉(同い年)だ。二年前に僕の両親と奈緒の両親だけで旅行に行って、僕達は留守番を頼まれた。その時交通事故にあって僕も奈緒も両親を亡くした。どちらも祖父母は他界しており、奈緒の他にもう1人従兄の家族がいるが色々あって僕達は二人で住むことになった。
「今日はビーフシチュー?」
「うん、当たりだよ。今出来るから」
「そう、ありがとう」
僕達は出来上がったビーフシチューを食べた。うん、美味い。そうだ、奈緒にアレのこと言っておかないと。
「今日の夜いつものやつ、成哉と勇輝で行ってくるよ」
「そう、分かったわ。警察沙汰だけは勘弁してね」
「分かってるよ、ご馳走様」
そう言って食べ終わった皿をキッチンに運んで自分の部屋に行く。私服に着替えてバックにいつものセットを入れて準備する。部屋を出てまだご飯を食べてる奈緒に一言
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
そう言って僕は玄関で靴は履き、家を出た。ドアを開けた音がシンクロして聞こえた。左を見ると成哉もちょうど家を出たところだった。成哉がこっちを見てにっこり笑う。
「うぃーす、早く行こうぜ」
「うん、そうだね」
そう短く答えて成哉と一緒に近くの公園に向かった。
8時。公園に向かうと勇輝がすでに待っていた。向こうが僕達に気づいて手を振る。
「よし、行くか」
「へへ、久しぶりだからワクワクするぜ」
そう言って3人で夜の渋谷の街に向かう。さすが東京夜でも人はわんさかいる。僕達は人混みを避けるようにして路地裏に入る。人が多いと言っても路地裏にはほとんど人はいない。ここだけ別世界のようだ。
「いないかなー、獲物」
「・・・しっ、いたぞ」
勇輝がそう言って静かにするように促す。僕達は獲物に悟られないようにこっそり覗く。みるとヤンキー5人組が他校の生徒をカツアゲしていた。
「よし、着替えるか」
「んふー、楽しみ~」
二人はそう言って鞄から黒いパーカーと狼の仮面を取り出す。慣れた手つきで二人はパーカーを着て仮面を付けた。僕も二人に倣ってパーカーを着て仮面を被る。
「んじゃ、いつも通りで」
成哉がそう言って僕と勇輝は頷く。
僕と成哉は堂々とヤンキー達の前に姿を現す。
ヤンキー達はちょうど金を巻き上げていたところで手には諭吉を何枚か握りしめていた。最初に僕達に気づいたのがヤンキー達のリーダーであろうマンガに出てきそう赤色のリーゼント(笑)のヤンキー。それから遅れて他のヤンキー達も僕達の存在に気づく。リーダーヤンキーが「なんだテメーら」と言いながら近づいてくる。
「おい、なにジロジロ見て────」
るんだよって言いたかったであろうリーダーヤンキーに僕はみぞおちにストレートを決める。鈍い音
「かはっ・・・、?!」
リーダーヤンキーは腹を抱えて地面に沈んだ。早めに勝負を決めたい時はみぞおちを狙え。これ常識。
「て、テメェ・・・!」 「いきなり何すんだよ!」
リーダーが倒れるのは見たヤンキー二人がそう言いながら近づいてくる。成哉が瞬時に二人の前に出て右足で二人の足を蹴って転ばせる。その隙に成哉が1人のヤンキーの顔に左フックを繰り出す。そしてもう片方のヤンキーの顔に膝蹴りをお見舞いした。
「ぐはっ・・・」 「ひでぶっ・・・」
マンガにありがちな擬音語を吐きながらヤンキー二人が倒れる。残りのヤンキー二人は危険を感じて即座に僕達と反対側の路地に逃げようとする。が、回り込んでいた勇輝がそれを塞ぐ。
「ひっ・・・」 「なんなんだよ、てめーら!」
二人同時に勇輝に向かって拳を繰り出そうとするが勇輝はそれを両手でキャッチ。パシッという音がすると
ギュッという音が追って聞こえる。勇輝がヤンキー二人の拳を握力で握り潰そうとする。勇輝はガリ勉みたいな見た目だが握力は右左共に握力70超えてる。
「ちょっ、タンマタンマ・・・!」
「痛てぇぇぇぇぇぇ!」
勇輝が離すとヤンキー二人は握られた拳を抱えて倒れる。その様子をポカーンと眺めていたカツアゲされた子に成哉が声をかける。
「君、大丈夫?」
「え、・・・あ、はい、大丈夫でふ」
さっき起きた出来事が理解できなかったのか「です」が「でふ」になっていた。
「ほら、このお金君のだろ?」
勇輝が盗られたお金をその子に返す。
「あ、ありがとうございます!」
その子はお金を受け取ると、はっ!と言って僕達に1万円(計3万)を渡してきた。
「あの、・・・これお礼です、助けて頂いた・・・」
「いやいや、いいよ、僕達好きでこんなことしてるだけだから」
「いえ、何かお礼しないと僕の気が済まないので」
「・・・せっかくだし、貰っとけば?」
そう成哉が言ってその子から3万円を受け取る。
「んじゃ、もうカツアゲされんなよ」
「夜道には気をつけろ」
「は、はい!ありがとうございました!」
そうお辞儀して早足で帰っていった。
「お金なんて貰って良かったのかな・・・」
「まあまあ、人助けしたんだしいいんじゃね?」
「うーん、・・・」
貰った物は仕方ないので渋々お金をポケットに入れる。何故僕達がこんなことをしているのかというと・・・。僕達3人には共通点があった。それはストレスを発散されるのが苦手ということ。その事で悩んでた僕達はある日夜のゲーセンではしゃいでいたらヤンキーに絡まれた。穏便に済ませれば良かったものを成哉が突っかかって喧嘩に発展。僕達3人殴られながらも勝利。その時溜め込んでたストレスが嘘のように発散できた。それからというもの僕達はストレスが溜まったころに夜の街に出かけ殴っても問題ない、殴られても仕方ないような獲物を見つけてストレス解消の相手をして貰ってるというわけだ。
「さて、こいつらが回復する前に逃げようぜ」
「そうだな」 「そうだね」
そう言って僕達はそそくさとその場を後にする。
別の路地裏に移動して着替えをしようとしたその時
「君達、面白いね~・・・」
ふとどこからか声が聞こえてきた。声のした方を見るとそこにはピエロのマスクを被った男が立っていた。
「あ?おっさん誰だよ」
成哉がピエロの男に問いかける。
「おっさんとは失礼な、まだ23なんだがな~まあ、いいや。それより見てたよ~君達がヤンキーボコボコにするとこ!いやー見事見事」
そう言って僕達に拍手をする。
「そこで提案なんだが・・・君達、ゲームに参加しないかいー?」
僕は男が、いや、ピエロのマスクが心底不気味に感じた。