プロローグ
とりあえず書いてみました。
父が言うには働かないのではなく自分に合った仕事が無いのだそうだ。
母が言うには馬券を買うのは少しでも僕らの暮らしを良くする為だそうだ。
そんなことを言っていた二人が昨夜、まだ中学生の僕を置いて夜逃げした。朝起きた時には机の上にすまんとだけ書かれた紙が置いてあった。
「あぁ神様、今日から僕は一文無しでどうやって生きていけば良いんですか・・・。」
幼い頃、教会の神父さんから聞いた『働かざる者食うべからず』の言葉を胸に今まで真面目に生きてきたつもりがどうしてこんなことになってしまったんだろう・・・。
「ぶつくさ言っても仕方ないか。バイトに遅刻したらそれこそおしまいだ。」
幸いにも今日はバイトの給料日なのでしばらくは食いつなげられるとボジティブに考え僕は今日も仕事に向かった。二月も終わり、卒業シーズンを迎えるこの時期は町は僕の心とは正反対に和やかなムードに包まれていた。
「おはようございまーす。」
傷心ながらできる限りの笑顔で職場に入った。しかし奥に座っていた店長が冷たい視線でこう言った。
「ああ近藤君か・・・、申し訳ないが今日から君は来なくていいから。」
「ちょっ、いきなりなんでですか!?」
「君が年齢を誤魔化していると君のご両親から連絡があったよ。
うちでは16歳からしか募集していないのに君はまだ15歳なんだそうじゃないか。
君のバイト代はご両親に渡しておいたからね。」
あぁもうおしまいだ・・・。と内心でボヤきながら店を後にし、公園のベンチで空を見上げていた。
三月に入ったとはいえまだ冬の寒さが残るこの時期に、目の前の自動販売機で残り少ない所持金で買ったホットココアを口に含みその温かさを嚙み締めた。
思い返してみれば僕の人生はなんてひどいものなんだろう。小さい頃、まだまともに働いていた父の仕事の都合で引っ越しをすることが多く、友達を作ることもままならなかった。中学に入ってからは父が仕事を辞めたことで今の家に留まることができるようになり友達も人並みに作ることが出来た。しかし所持金が野口さん一枚に満たない今の僕では高校進学ができず彼らともまた離れ離れになってしまうだろう。
そんな事を考えていると辺りはすっかり暗くなり、飲みかけのココアは冷めきってしまっていた。
「とにかく明日からのバイトをどうするかを考えなきゃ・・・。」
これからの生活の事を考えると嫌でも気分が沈んでしまう。
「バイトを探しているのかい?」
突然の声にびっくりした僕は思わず顔を上げた。するとそこには今の自分とは全く真逆のまぶしい笑顔を浮かべた女性が立っていた。
「うわっ!?どっどなたですか!?」
人の言葉に耳を貸さず彼女は僕の身体を上から下までジロジロと眺めたかと思うと何かに納得したかのように大きくうなずき、僕の肩をバンッと叩いた。
「君のような男の子を私は待っていたんだよ!!」
いったいこの人は何なんだと思った僕は彼女に対して説明を求めようと声を出そうとした。
(グーー)
しかし口から声が出るよりも先にお腹からの空腹を知らせるサインが鳴ってしまった。そういえば朝からいろんな事があったせいで食事をとるのを忘れていた・・・。
「なんだ少年お腹がすいているのか。」
彼女にそう聞かれ、顔を赤くしながらうなずいた。誰かも知らない他人に腹の虫を聞かれることがここまで恥ずかしいことだとは思わなかった。
「よし、それならお姉さんがご飯をおごってあげよう!
近くに車を停めているからついてきなさい、近くのファミレスにでも行こうじゃないか。
そこで君のバイトの内容を説明しよう。」
昔、神父さんから聞いた『怪しい人にはついていかない』の言葉が胸をかすめたがバイトのためだと自分の胸に言い聞かせ彼女についていくことにした。
決して所持金と「おごり」という言葉につられたわけではないからね!!